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倉庫の町ラクル。
眼前に海がありさほど大きな港町じゃない。倉庫の仕事をしている者が暮らす町。というのが正しい。
ただし、この町には生まれつきユニークスキルを持つ者がひっそりと暮らしている。このことは、密かに冒険者の間で知られてしまっているのが現状だ。町を出た先には山がそびえ立っていて、海と山に恵まれた環境と言っていい。そんな環境下で、自然と出来たダンジョンがいくつも点在している。
港町ラクルで暮らし、住み込みの倉庫番として仕事をしていたおれだったのだが。ガチャスキルのことを聞きつけた勇者たちによって仕事を強制的にクビにさせられたのは、記憶に新しい。それはひとまず忘れるとして。
仲間となったルティと一緒におれはラクルに戻ってこられた。町に入ると、かつての倉庫仲間がおれに気付いたようで、ゆっくりと近付いて来る。何が起こるか分からないので、ルティには少し離れてもらった。
「お前は……アック? アックで違いないか?」
「あぁ。ついさっきラクルに戻った」
「……そうか。その姿を見るに無事だったんだな」
近付いて話をするまではおれのことをまるで亡霊か何かを見るような顔をしていた。しかしサクリフ石窟の崩落から生き残ったことが分かり、安堵の表情をしている。ワイバーンにやられ、崩落で亡くなってしまった。そんなことを、あの勇者たちから聞かされたといった感じだ。
「もちろん無事だ。何でかって言えば、あそこにいる――」
「いや、言わんでいい。格好を見れば分かるが、食堂で働く娘に水を飲ませてもらったのだろう?」
「あ、あぁ。そんなところだ」
「細かく聞かんでも、お前が無事だった。それで十分だ」
ルティからの水で息を吹き返したから間違いじゃないな。
「……気を遣ってもらって悪いな」
「無事ついでにギルド登録を済ませたらどうだ? クエストは倉庫関係しか無いが……」
ギルド登録か。倉庫で仕事をしていた時にはそんな余裕も無かったな。よほど信用されないと登録しても紹介されたか分からなかったし、仕方ないか。しかし今みたいに話をすれば、結束も固まって紹介もしてくれる。この辺は助かる所だ。
「あのっ。アックさん、あの人に何もされませんでした?」
「ああ、問題無かったよ」
「仮に何かされたとしても、わたしが回復水を飲ませて差し上げます!」
「ルティは回復魔道士だったっけ? 回復魔法は使わないの?」
大量の回復水が悪いとは言わないけど、魔法なら一瞬で回復した気がする。
「魔法ではアックさんの力の上げ幅が低いんです。やっぱりお強くなられるためには、特製でお手製の回復水が一番だと思ったので、魔法は使わないのです! それにごにょごにょ……」
色々と言いたそうな顔をしてるけどこれ以上は突っ込まないであげよう。それに魔石から見えたルティのステータスは、凄腕でしかもレベルが”2”だった。魔道士というわりには怪力だし力を上げられる回復水まで作れる。ということは、成長したらレベルが上がってさらにユニークなことが出来るようになるかも。そうなると気になるのはおれ自身のレベルになるけど。
強敵のSランクパーティー。彼らを何とかするには、自分のことを知って強くならなければならない。聖女エドラが一番厄介な相手で、おれに状態異常を使って来た。今戦っても、勝てる見込みは少ない。となれば、今はおれ自身の力を高めながら仲間を増やしていく必要がある。
「ルティ、とりあえずギルドに行くよ」
「ギルド? 噂で聞いたことがあって興味があります! わたしもついて行っていいんですか?」
「もちろん!」
「それにしても、ここは倉庫ばっかりなんですね~! 面白い光景ばかりです! 温泉が無いのは寂しいですけど~」
これまでルティがどこをどう旅して来たのかは不明だが、この口ぶりだと辺境ばかりだな。温泉が湧いている町なんてそもそも限られている。
「はは、初めてここを訪れる人はみんな言うんだ。温泉はまぁ……」
「穴を掘ったら湧きますかね~?」
「それはさすがに……」
ユニークレアな彼女は言うことも面白い。おれからすれば、火山渓谷に住んでいたことの方がよほど興味を惹く。
ラクルのギルドは冒険者の拠り所。倉庫の町のギルドだけあって、受けられる仕事のほとんどは倉庫に関係するものばかり。倉庫の中の一角に存在するものの、普段はひっそりとしている。利用者も少ないギルドなのに、よくもまあ勇者たちはおれを誘いにきたものだ。
「アックさん! 倉庫の中にそれらしい場所が!」
「そこに入ろう」
「はいです!」
港町の人間は、基本的にたとえ倉庫関係の依頼があってもギルドで受けることは無い。登録は簡単でも結局は魔物退治が組み込まれているからだ。さすがに命を懸けてまでギルド依頼を受ける人間はこの町ではいないに等しい。
「アックさん、わたしも登録していいですか~?」
「何かいいのがあった?」
「海食洞門調査と、沈む物資の調達というのが面白そうです!」
【波浪で侵食した崖の洞窟を調査せよ。及び、可能であれば沈む物資も調達を!】
なるほど。間違いなく水棲の魔物がいる場所っぽいな。武器を手に入れてからじゃないと厳しいかも。
「うん」
「海底に古代人はいるんですかね~?」
「魔物はいるだろうけど、古代人は分からないな。あぁ、そういえばルティは水に濡れるのは平気かな?」
「むふふ、忘れちゃいましたか? わたし、温泉好きの人間ですよ!」
温泉好きが真水に平気かというと怪しいところだけど。
「それならまずは武器を手に入れようか。剣に斧……何でもいいみたいだから」
おれとルティは登録だけを済ませ倉庫の外に出た。
そもそも海のダンジョンに行くには勝手が違う。厄介そうな魔物に遭遇する恐れがあるので、依頼を受けるには冒険者向けの武器を装備する必要がある。
そう思って武器売りの倉庫に向かおうとすると、
「アックさん、ガチャを引いて出せばいいんじゃないでしょうか?」
「あー……確かに」
「きっといいものが出ますよ~!」
最初のガチャで何故かルティが現れた。そのせいか、本来出て来るはずのアイテムや武器などなどを出す認識。それらが思考から抜け落ちていた。そうと決まれば人目のつかない場所に移動だ。