「そろそろ許してあげれば? 死んだらどうするの?」 不倫は体目当てでただの遊びだったと目の前で言われたのに、それでも瑠奈は間男を助けようとする。愛なのか未練なのか同情なのか。定かではないが、やはり不倫なんてする愚か者は救いようがない。
「その心配は無用だ。最初からなぶり殺しにするつもりでやらせているからな」
「いいの? 恭平が死んだら音露は殺人で逮捕されるよ」
魔王時代、数百万の人間を殺戮した余が二匹の外道を成敗したところで今さら胸を痛めることはない。それに二人とも死んだところで余が警察に捕まることもない。
徹也が余の代わりに答えてくれた。
「おばさん、何人殺したところで総長が逮捕されることはないぜ」
「どうして?」
「横浜デビルには総長のためなら喜んで身代わりに刑務所でも少年院でも入ると手を挙げるやつが千人はいるからだ。ちなみにおれもその一人だ」
余のために泥をかぶってもいいと思ってくれるのがメンバー一万人のうち千人か。それが多いのか少ないのかよく分からないが、その千人だけで横浜デビルを再出発させたいというのが余の本音だ。
「あなたのためなら人生を棒に振ってもいいという男が千人もいるなんて、音露、あなた何者なの?」
「パパとあんたの娘だよ」
魔王だと言っても信じてもらえないだろうから、そう誤魔化すしかない。
「美人で魔性の女という点で確かにあたしの娘ね」
「一緒にするな!」
怒りのあまり拷問係からスタンガンを引ったくって、瑠奈の腕に電気を走らせてしまった。
「あああああああああ!」
断末魔のような瑠奈の悲鳴が響き渡ったのが何よりも快感だった。瑠奈の悲鳴をパパにも聞かせてやりたいが、パパはきっと瑠奈を許し余を叱るだろう。残念ながら、考えれば考えるほど余はパパに似てなくて瑠奈に似ている。瑠奈がパパを殺そうとしたように、余は母親である瑠奈を殺そうとしているわけだし――
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