テラーノベル
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廉side
夜。
一人の部屋。
何気なく開いたニュースアプリ。
目に飛び込んできた見出し。
映画
秒速5センチメートル
主演・松村北斗
公開初日舞台挨拶
写真には、ステージ中央でマイクを持つ北斗。
隣には 高畑充希 。
完璧な主演の顔。
記事を読む。
“失ってからでは遅い”
“伝えられるなら伝えた方がいい”
“すれ違ったら、追いかけると思います”
その一文で、指が止まる。
廉(心の声)
……追いかける?
偶然かもしれない。
映画のテーマだ。
でも、タイミングができすぎている。
数日前。
〇〇は「まだ迷ってる」と言った。
自分は「長くは待たない」と伝えた。
そして今日。
北斗は“追いかける”と断言した。
偶然?
いや。
廉はスマホを強く握る。
あいつは、ああいうことを軽く言うタイプじゃない。
北斗は静かで、慎重で、
簡単に感情を表に出す男じゃない。
そんな男が、公開初日にあの言葉。
しかも即答。
廉(心の声)
……好きなんだろ。
〇〇のこと。
確信に近い感覚。
思い返す。
現場での距離感。
視線。
名前を呼ぶ声の温度。
今まで“仲間”だと思っていた。
でも違う。
あれは、男の目だ。
廉は静かに笑う。
焦りではない。
負ける気もしない。
でも、甘く見る気もない。
廉(心の声)
そうか。
やっとはっきりした。
敵じゃなくて、ライバル。
しかも本気の。
記事を閉じる。
天井を見上げる。
自分も本気だ。
待つと言った。
でも、動くとも言った。
追いかけるなら、
こっちも止まらない。
〇〇はまだ知らない。
北斗の気持ちも。
自分の覚悟の重さも。
廉はスマホを置き、静かに呟く。
「絶対渡さない」
その目は、もう迷っていなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〇〇side
北斗主演映画
「秒速5センチメートル」試写会。
招待メールを開いた瞬間から、少しだけ心がざわついていた。
誰を誘う?
一人で行くのは簡単。
でも、それじゃ何も変わらない気がした。
浮かんだのは廉。
向き合うなら、今かもしれない。
――――――――――
【LINE】
――――――――――
〇〇「今週の北斗の試写会、行くんだけど」
廉「うん」
〇〇「もし時間あったら、一緒に行く?」
少し間。
廉「俺でええの?」
〇〇「うん」
廉「行くわ」
廉「変装ちゃんとせなあかんな」
〇〇「バレたら終わるね」
廉「ジュース奢りな」
〇〇「そこ?笑」
廉「ポップコーンLで」
〇〇「多いって」
廉「俺が食う」
その軽いやり取りに、少し救われる。
ーーーーーー
廉side
楽屋。
撮影終わり。
ネクタイを緩めた瞬間、スマホが震える。
画面に表示された名前。
〇〇。
心臓が、一拍だけ大きく鳴る。
タップ。
〇〇「今週の北斗の試写会、行くんだけど」
――北斗。
その名前を見た瞬間、喉が少しだけ乾く。
試写会。
主演。
北斗。
なんで俺にその話を振る?
一瞬で、頭が回り始める。
もしかして。
観に行くって報告だけ?
それとも。
俺の反応を試してる?
既読をつけたまま、返信できずに止まる。
数秒後。
〇〇「もし時間あったら、一緒に行く?」
…………。
一気に鼓動が速くなる。
誘われた。
俺が。
北斗の映画やで?
なんでや。
なんで俺なんや。
嬉しい。
でも同時に、怖い。
もしかして。
ただ都合がいいだけかもしれへん。
北斗やとややこしいから。
一人は寂しいから。
深読みが止まらん。
それでも。
指が動く。
廉「俺でええの?」
これは冗談ちゃう。
ほんまに聞いてる。
“俺を選んだ理由”が欲しい。
既読。
数秒。
長い。
〇〇「うん」
短い。
迷いのない一文字。
その“うん”に、全部持っていかれる。
胸が熱くなる。
ああ。
選ばれた。
今この瞬間だけは、俺や。
廉「行くわ」
送信。
息を吐く。
でも安心と同時に、別の感情が湧く。
北斗の映画を、〇〇と観る。
それって。
どんな時間になる?
映画の中で北斗が想いを語る。
〇〇が泣く。
感動する。
もしかしたら。
心が動くかもしれへん。
その隣におるんが俺。
耐えられるか?
いや。
逃げたらあかん。
廉「変装ちゃんとせなあかんな」
軽く送る。
本音は重いまま。
〇〇「バレたら終わるね」
廉「ジュース奢りな」
冗談っぽく送るのは、緊張を隠すため。
〇〇「そこ?笑」
廉、スマホ見ながら小さく笑う。
このやり取り。
好きや。
でも。
心の奥では、はっきり分かってる。
北斗も好きやろ、〇〇のこと。
あの舞台挨拶の言葉。
“追いかける”
偶然ちゃう。
俺は気づいてる。
〇〇は気づいてへん。
そこが一番怖い。
俺は告白した。
待つとも言うた。
でも。
北斗が動いたら?
〇〇が気づいたら?
不安が、胸の奥でじわっと広がる。
鏡に映る自分を見る。
廉「……俺でええんやろ?」
小さく呟く。
欲しいのは、確信。
でも、まだもらえてへん。
それでも決める。
この試写会。
ただの映画デートにせえへん。
北斗の作品がどれだけ素晴らしくても。
〇〇がどれだけ泣いても。
俺は隣におる。
現実は俺や。
廉「負ける気、せえへん」
嫉妬もある。
不安もある。
でもそれ以上に。
覚悟がある。
待つだけちゃう。
奪いにいく。
この“誘い”を、偶然で終わらせへん。
北斗の物語はスクリーンの中。
俺の物語は、今からや。
――――――――――
当日 夜
地下駐車場。
黒キャップにマスクの私。
同じく黒キャップにメガネの廉。
〇〇「怪しいよ」
廉「お前もな」
〇〇「バレないよね?」
廉「俺とおるんから大丈夫や」
なぜか、その言葉に安心してしまう。
ーーーーー
劇場内
席は中央より少し後ろ。
二人並び。
ポップコーンを間に置く。
映画が始まる。
北斗の声。
スクリーンいっぱいの横顔。
不仲コンビとして、散々言い合ってきた。
なのに――
演技が、すごい。
静かな目の揺れ。
言葉の間。
息の震え。
「こんな演技…できるんだ」
胸がじわっと熱くなる。
感動系だとは分かってた。
でも。
想像以上に刺さる。
クライマックス。
すれ違い。
届かなかった想い。
涙が止まらない。
静かに泣くつもりだったのに、無理だった。
ぽろぽろどころじゃない。
肩が小さく震える。
ポップコーンを取ろうとして、手が当たる。
びくっと大きく反応してしまう。
〇〇「っ、ごめん」
声が少し震えている。
廉の手は温かい。
自分の手が冷たいことに気づく。
動揺が、分かりやすい。
廉がハンカチを差し出す。
廉「泣きすぎやろ」
〇〇「うるさい…」
涙声。
スクリーンでは、北斗が想いを飲み込む。
その姿が、やけに重なる。
もしあの言葉が、本音だったら?
もし北斗が本当に――
そんな考えが一瞬よぎる。
でも私は首を振る。
違う。
あれはドラマ。
エンドロール。
涙で視界がぼやける。
「北斗、すごい…」
思わず呟いていた。
「悔しいけど、すごい」
不仲コンビで、散々言ってきたのに。
誇らしいと思ってしまった。
――――――――――
廉side
〇〇が誘ってきた時点で、覚悟はしてた。
北斗の映画を、一緒に観る。
正直、複雑や。
でも。
隣に座った瞬間、それよりも緊張が勝つ。
ポップコーンを間に置く。
映画が始まる。
北斗、ええ演技や。
ほんまに。
悔しいけど。
でも俺は横を見る。
〇〇の横顔。
真剣や。
台詞が刺さった瞬間、目が潤んだ。
やっぱり泣く。
分かりやすい。
ポップコーンを取ろうとして、手が当たる。
思った以上に大きくビクッとする〇〇。
廉「そんな驚く?」
〇〇「ごめん」
声、震えとるやん。
そのまま大泣き。
肩が揺れてる。
廉はそっとハンカチを差し出す。
廉「泣き虫やな」
〇〇「うるさい…」
北斗のラストシーン。
〇〇がぽつりと呟く。
〇〇「北斗、すごい…」
その声が、少しだけ柔らかい。
誇らしそうで、悔しそうで。
ああ。
ちゃんと見てるんやな。
仲間として。
でもそれ以上か?
そこが分からへん。
俺は映画より、横が気になる。
泣いてる顔。
素の顔。
こんな顔、俺しか知らん時間であってほしい。
エンドロール。
俺は決める。
待つだけやない。
奪う。
北斗がどれだけ素晴らしくても。
演技がどれだけ心を打っても。
現実は、俺が取りにいく。
――――――――――
〇〇side
エンドロールが終わる。
場内が少し明るくなる。
涙で視界がぼやけたまま、私は動けなかった。
本当に、すごかった。
北斗の演技。
不仲コンビとして言い合ってきた時間が、一瞬で遠くなる。
あんな目、するんだ。
あんな静かな絶望、出せるんだ。
悔しい。
でも、誇らしい。
〇〇「……すごかった」
無意識にこぼれる。
廉が隣で静かに息を吐く。
廉「せやな。ほんまにええ映画やった」
私は慌てて涙を拭く。
〇〇「ちょっと泣きすぎた」
廉「ちょっとちゃうやろ」
少し笑う。
でも廉の目は、どこか真剣。
席を立つ人の波に合わせて立ち上がる。
歩きながら、まだ映画の余韻が抜けない。
〇〇「北斗、あんな演技できるんだね」
言った瞬間、少しだけ空気が止まる。
廉は歩きながら答える。
廉「悔しいけどな」
〇〇「悔しい?」
廉「そら悔しいやろ」
出口手前。
人の流れが一瞬止まる。
距離が近づく。
廉の声が低くなる。
廉「俺の好きな人、あんな顔で見とったら」
胸が、強く鳴る。
〇〇「……」
廉「焦るに決まってるやん」
まっすぐな目。
逃げられない。
私は視線を逸らす。
映画の余韻と、現実の言葉が混ざる。
外に出る。
夜風が少し冷たい。
〇〇「でも、映画は映画だよ」
自分でも分かるくらい、少し早口。
廉が立ち止まる。
廉「ほな、現実は?」
その一言で、息が止まる。
廉「俺はスクリーンの中ちゃう」
一歩近づく。
廉「今、ここにおる」
心臓の音がうるさい。
私はまだ、答えを持っていない。
それなのに。
こんな顔で見られたら。
――――――――――
廉side
エンドロール。
〇〇、号泣。
分かってたけど。
思ってた以上や。
北斗、ほんまにええ演技やった。
認める。
でも。
横であんな顔されると、冷静ではいられへん。
〇〇「北斗、あんな演技できるんだね」
その言葉。
胸の奥が少しチクっとする。
廉「悔しいけどな」
ほんまはもっと複雑や。
悔しいし、焦るし、怖い。
出口に向かう人混み。
〇〇の肩が少し俺に触れる。
守りたいって思ってまう。
でもそれと同時に。
取られたくないって思う。
廉「俺の好きな人、あんな顔で見とったら」
言ってもうた。
でも止まらへん。
廉「焦るに決まってるやん」
〇〇が黙る。
迷ってる顔。
それでもええ。
無関心よりずっとええ。
外に出る。
夜風。
ネオン。
俺は立ち止まる。
廉「ほな、現実は?」
映画の世界は終わった。
でも俺らは続いてる。
廉「俺はスクリーンの中ちゃう」
一歩近づく。
廉「今、ここにおる」
北斗は、すごい。
でも。
俺は負けるつもりない。
待つって言うた。
でも。
待つだけやない。
〇〇の答えを、引き出しにいく。
ーーーーー
〇〇side
夜風が冷たい。
映画館の外、人通りはそこまで多くない。
でも心臓の音がうるさい。
廉「ほな、現実は?」
廉「俺はスクリーンの中ちゃう。今、ここにおる」
逃げられない目。
私は視線を落とす。
ちゃんと向き合うって、決めたはずなのに。
声が少し震える。
〇〇「……怖いんだと思う」
廉が一瞬、息を止めるのが分かる。
〇〇「選ぶことが」
自分で言って、胸が苦しくなる。
〇〇「仕事もあるし、今まで築いてきたものもあるし…」
言い訳に聞こえるかもしれない。
でも本音。
〇〇「好きとか、そういう気持ちで全部壊れたらどうしようって」
そこでやっと顔を上げる。
〇〇「でも今日、映画観て思った」
廉がじっと聞いている。
〇〇「伝えないで終わるのは、嫌だなって」
その瞬間、空気が変わる。
〇〇「まだ答えは出せない」
正直に言う。
〇〇「でも、ちゃんと考えたい」
逃げないで。
向き合って。
あなたとも。
――――――――――
廉side
〇〇「……怖いんだと思う」
その一言で、胸が締めつけられる。
強い女やと思ってた。
でも違う。
ちゃんと怖がってる。
〇〇「選ぶことが」
ああ。
そこか。
廉は一歩だけ近づく。
廉「壊れへん」
即答。
〇〇が少し驚く。
廉「壊さん」
低く、はっきり。
廉「俺が守る」
自分でも驚くくらい迷いがない声。
〇〇「でも今日、映画観て思った」
続きを待つ。
〇〇「伝えないで終わるのは、嫌だなって」
その言葉。
胸の奥が熱くなる。
廉「それ、俺に向けて言うてる?」
少し意地悪く聞く。
〇〇「……うん」
小さい声。
でも確か。
廉は笑う。
でも優しく。
廉「ほな十分や」
〇〇「まだ答えは出せない」
分かってる。
廉「急かさん」
一拍。
廉「でもな」
まっすぐ見る。
廉「北斗に負ける気はない」
正直に言う。
〇〇が少しだけ目を見開く。
廉「迷ってええ。でも、俺から目逸らすんは無しや」
逃げ道は作らへん。
でも追い詰めへん。
そのギリギリ。
〇〇が小さく笑う。
〇〇「強いね」
廉「好きやからな」
静かな告白みたいに落ちる。
夜風の中。
二人の距離は、さっきより近い。
三角関係はまだ終わらない。
でも。
今日は確実に前に進んだ。
――――――――――
〇〇side
「好きやからな」
その言葉が、まだ胸の奥で響いている。
夜風が吹く。
少しだけ寒い。
沈黙。
でも気まずくはない。
ただ、心臓がうるさい。
次の瞬間。
指先に、温かい感触。
一瞬、何が起きたか分からない。
廉の手。
私の手に、そっと重なる。
強くじゃない。
確かめるみたいに。
〇〇「……」
反射的に指がこわばる。
でも、振り払わない。
廉の指が、ゆっくり絡む。
恋人繋ぎじゃない。
ただ、包むみたいな握り方。
逃げ道を残した優しさ。
それが余計に、動揺させる。
〇〇「急だよ…」
声が少し上ずる。
廉「嫌?」
即答できない。
嫌じゃない。
でも。
簡単に肯定していいのか分からない。
〇〇「……ずるい」
廉が小さく笑う。
廉「何が」
〇〇「そうやって、ちゃんと近づいてくるところ」
そして、触れる。
現実の温度がある。
指先から伝わる鼓動。
私の心臓と同じくらい速い気がする。
でも――
私は、握り返してしまった。
ほんの少しだけ、力を込めて。
その瞬間、廉の手がわずかに強くなる。
ああ。
これが“選ぶ”ってことに近づく感覚なんだ。
怖い。
でも、逃げたいとは思わない。
――――――――――
廉side
「好きやからな」
言うたあと、少しだけ間ができる。
逃げられるかもしれへん。
でも。
逃がしたくない。
夜風が吹く。
〇〇の手、少し赤い。
寒いんか、緊張か。
考えるより先に、手が動いてた。
そっと触れる。
振り払われたら終わりやと思った。
でも、振り払わへん。
指が固まる。
緊張してるの丸分かり。
廉「嫌か?」
本音。
〇〇「……ずるい」
その言い方、嫌ちゃうやろ。
廉「何が」
〇〇「ちゃんと近づいてくるところ」
胸が熱くなる。
当たり前や。
好きなんやから。
そして。
ほんの少し。
〇〇が握り返してきた。
その一瞬で、全部報われる。
廉、息を吐く。
廉「逃げへんで」
小さく言う。
廉「迷ってもええ。でも、手離すんは俺が決める」
少し強く握る。
独占欲。
でも押し付けへん。
〇〇の手、冷たいけど柔らかい。
スクリーンの中の男にはできへんこと。
今、ここで触れられるのは俺や。
廉「帰ろか」
手は離さないまま。
〇〇も、離さない。
三角関係。
まだ終わらへん。
でも今日。
確実に俺は一歩前に出た。
――――――――――
〇〇side
「帰ろか」
廉の声は落ち着いているのに、手はちゃんと温かい。
離すタイミングが分からない。
でも、離したくないとも思ってしまう自分がいる。
映画館前の通りでタクシーを止める。
廉が片手を上げる。
もう片方の手は、私の手を握ったまま。
タクシーが止まる。
ドアが開く。
その瞬間、ようやく手が離れる。
ほんの一瞬の喪失感。
自分で驚く。
先に私が乗り込む。
奥の席。
廉が隣に座る。
ドアが閉まると、外の音が消える。
近い。
さっきよりずっと。
〇〇「……今日はありがとう」
廉「来てくれてありがとうやろ」
少しだけ笑う声。
窓の外を見ながら、映画を思い出す。
北斗のラストの目。
静かで、苦しくて、でも優しくて。
本当にすごかった。
正直、震えた。
不仲コンビで、バラエティでは散々言い合ってきたけど。
あんな演技ができるなんて。
悔しいくらい、かっこよかった。
でも。
それは作品の話。
北斗は仲間。
それ以上でも、それ以下でもない。
私は隣を見る。
今、現実で手を握った人。
言葉で、行動で、取りに来る人。
〇〇「……強いね」
廉「何が」
〇〇「ちゃんと取りに来るところ」
言ってから、少し照れる。
タクシーがカーブを曲がる。
身体が揺れる。
その瞬間、廉の手が腰を支える。
近い。
息がかかりそう。
〇〇「平気」
廉「分かっとる」
でも、すぐ離れない。
心臓がうるさい。
そのまま、少し沈黙。
そして。
廉「なあ」
〇〇「うん?」
廉「俺でよかった?」
空気が変わる。
心臓が跳ねる。
〇〇「……何が?」
分かってるのに、聞き返してしまう。
廉「今日。北斗の映画やで?」
真っ直ぐな目。
逃げられない。
〇〇「廉がよかった」
即答だった。
自分でも驚く。
〇〇「ちゃんと向き合うなら、逃げたくなかったから」
それが本音。
北斗はすごい。
でもそれはスクリーンの中。
今、向き合っているのは廉。
タクシーが減速する。
到着。
ドアが開く前の、数秒。
静かな夜。
その瞬間。
廉の手が、もう一度私の手を掴む。
さっきより強く。
指が絡む。
恋人繋ぎ。
〇〇「……!」
見上げる。
廉「今の、忘れんからな」
低い声。
鼓動が速くなる。
〇〇「……ずるい」
でも、手は離さない。
ドアが開く。
現実に戻る。
それでも。
確実に、何かは変わった。
私はまだ気づいていない。
北斗の気持ちにも。
この選択が、誰かを傷つけるかもしれないことにも。
――――――――――
廉side
手、離す瞬間ちょっと惜しい。
でも焦らへん。
〇〇が先に乗る。
隣に座る。
近い。
映画の余韻が残ってる顔。
北斗の演技、相当刺さってた。
分かる。
俺もすごい思った。
でも。
スクリーンの中や。
今、隣におるんは俺や。
〇〇「……強いね」
廉「何が」
〇〇「ちゃんと取りに来るところ」
胸の奥が熱くなる。
廉「当たり前やろ」
小さく笑う。
廉「好きな人、他の男に持ってかれるん見てられへん」
半分本音、半分覚悟。
カーブで〇〇が傾く。
反射で支える。
細い。
守りたい。
離したくない。
沈黙のあと。
聞く。
廉「俺でよかった?」
怖いけど。
聞かな、進まれへん。
〇〇「廉がよかった」
即答。
息止まる。
廉「……ほんまに?」
〇〇「逃げたくなかった」
それで十分や。
タクシーが止まる。
ここで終わらせたくない。
ドアが開く前。
もう一回、手を掴む。
指絡める。
恋人繋ぎ。
廉「今の、忘れんからな」
〇〇の目、揺れてる。
でも離さへん。
廉「迷ってええ」
静かに言う。
廉「でも今日、俺を選んだんは事実や」
ぎゅっと一度だけ強く握る。
ドアが開く。
手を離す。
廉「またな」
笑う。
余裕ある顔して。
でも内心は決めてる。
この距離、もう戻さへん。
北斗がどれだけすごくても。
スクリーンの中より、現実を選ばせる。
三角関係。
まだ〇〇は何も知らへん。
せやけど。
今日、確実に俺が一歩前に出た。
――――――――――
〇〇side
玄関のドアを閉める。
「ただいま」
誰もいない部屋に小さく呟く。
背中をドアに預けたまま、息を吐く。
……手。
無意識に右手を見る。
さっきまで、廉と繋いでいた手。
指、絡められた。
恋人繋ぎ。
思い出した瞬間、鼓動が速くなる。
「何あれ……」
靴も脱がずに、その場にしゃがみ込む。
あんな握り方、反則でしょ。
強くもなく、弱くもなく。
ちゃんと“離さない”って伝わる力。
ソファに座っても、落ち着かない。
テレビをつけても音が入ってこない。
映画のシーンが浮かぶ。
北斗のラスト。
静かな目。
あの表情、ほんとにすごかった。
悔しいくらい。
不仲コンビで言い合ってきたのに。
あんな演技、いつの間に身につけたの。
胸がぎゅっとする。
でもそれは、作品への感動。
恋とかじゃない。
……だよね?
スマホが震える。
画面を見る。
北斗
「どうだった?」
一瞬、心臓が止まりそうになる。
なんで今。
タイミング良すぎない?
私は深呼吸してから返信する。
〇〇
「めちゃくちゃ良かった」
数秒で既読。
北斗
「そっか」
それだけ。
でも、続けて送る。
北斗
「ラスト、変じゃなかった?」
〇〇
「変なわけないじゃん」
「正直、泣いた」
送った瞬間、少し悔しい。
北斗に“泣いた”って言うの、なんか負けた気がする。
北斗
「へえ」
「泣き虫だもんな」
いつもの軽い感じ。
でも。
画面越しなのに、あのラストの目を思い出してしまう。
〇〇
「うるさい」
送って、スマホを胸に抱く。
なんでだろう。
廉の手の感触と、
北斗の目が、
同時に浮かぶ。
眠れない。
天井を見つめる。
今日、私は廉を選んだ。
ちゃんと向き合おうと思った。
それは事実。
なのに。
胸がざわつくのは、どうして。
私はまだ、何も知らない。
北斗の本当の気持ちも。
自分の本当の答えも。
――――――――――
廉side
タクシーのドアが閉まる。
〇〇が降りた後の席。
まだ温もり残ってる気がする。
「……はあ」
天井を見る。
やばい。
思い出すだけで顔が緩む。
“廉がよかった”
あの即答。
あれは効く。
かなり。
ポケットの中で拳を握る。
指絡めた感触。
ちゃんと握り返してくれた。
拒まへんかった。
それだけで十分や。
でも。
北斗の映画。
正直、嫉妬した。
あんな顔、スクリーンで見せられたら。
〇〇が揺れる可能性、ゼロやない。
でも今日。
隣におったのは俺。
スクリーンやなく、現実。
「まだ足りんけどな」
小さく呟く。
〇〇はまだ完全に俺を選んだわけちゃう。
でも。
今日一歩進んだ。
“逃げたくなかった”
あの言葉。
あれは本気や。
スマホを見る。
連絡はせえへん。
今日は追わん。
余裕見せる。
でも心の中では決めてる。
北斗が動くなら。
俺も、もっと本気出す。
タクシーは夜を走る。
三角関係は、まだ静か。
せやけど。
確実に火はつき始めてる。
―――――――――
北斗side
部屋は静か。
台本は開いたまま。
でも、文字は頭に入ってこない。
今日。
試写会。
関係者席から、客席を何度も見た。
来てるかもしれないって思ったから。
でも、見つけられなかった。
……いや。
見つけられなかったんじゃない。
多分、いなかった。
スマホを手に取る。
連絡するか迷う。
「どうだった?」
たったそれだけ。
それだけなのに、指が止まる。
もし、誰かと行ってたら?
誰と?
考えたくない名前が浮かぶ。
廉。
あいつなら、隠れてでも行くだろう。
いや、〇〇が誘うか。
胸の奥がざわつく。
深呼吸。
送る。
北斗
「どうだった?」
既読がつくまでの時間が、やけに長い。
数分。
いや、数十秒かもしれない。
長く感じるだけ。
返信。
〇〇
「めちゃくちゃ良かった」
肩の力が抜ける。
良かった。
本当に?
気を抜いたら、もっと聞きたくなる。
北斗
「そっか」
「ラスト、変じゃなかった?」
本当は聞きたいのはそこじゃない。
誰と行ったのか。
泣いたのか。
どんな顔で見てたのか。
でも聞けない。
〇〇
「変なわけないじゃん」
「正直、泣いた」
一瞬、息が止まる。
泣いた。
あのラストで。
俺の演技で。
胸が熱くなる。
嬉しい。
でも同時に、苦しい。
その涙は、隣にいた誰かと共有された。
俺じゃない。
俺はスクリーンの中。
北斗
「へえ」
「泣き虫だもんな」
いつもの軽口。
平常運転。
画面の向こうで、きっと〇〇は少しむっとしてる。
それが想像できる自分が嫌になる。
もっと聞きたい。
誰と?
って。
でも。
聞いたら終わる。
俺は“不仲コンビ”。
仲間。
戦友。
それ以上は、まだ言えない。
スマホを伏せる。
天井を見る。
今日のラストシーンを思い出す。
“好きでも、言えない男”
役と、今の自分が重なる。
笑える。
演技は出来るのに。
本音は言えない。
〇〇が泣いた。
それだけで十分なはずなのに。
頭に浮かぶのは、廉の顔。
もし、隣にいたのがあいつなら。
拳を握る。
嫉妬なんて、ダサい。
でも。
好きなんだから、仕方ない。
小さく呟く。
「……取られたくねえな」
静かな部屋。
返事はもう来ない。
それでもスマホを握ったまま。
決める。
まだ言わない。
でも、待つだけもしない。
次に会うとき。
少しだけ距離を詰める。
不仲コンビの仮面の裏で。
俺も、一歩出る。
三角関係。
まだ誰も壊れていない。
でも。
確実に、動き始めてる。
――――――――――☀️
〇〇side
目が覚めた瞬間。
最初に浮かんだのは――
手。
絡められた指。
「……っ」
布団の中で、無意識に右手を握る。
昨日の感触が残っている気がする。
強すぎないのに、逃がさない力。
“今の、忘れんからな”
低い声が頭の中で再生される。
やばい。
なんで朝イチでそれ?
枕に顔を押しつける。
違う違う。
落ち着いて。
昨日は映画を見に行っただけ。
たまたま手を繋いだだけ。
……たまたま?
天井を見つめる。
北斗のラストシーンも思い出す。
あの目。
静かで、優しくて、切なくて。
正直、すごかった。
不仲コンビであんなに言い合ってるのに。
あんな演技するなんて、反則。
少し悔しい。
少し誇らしい。
でも。
胸がドキッとするのは、あのシーンじゃない。
タクシーの中。
近い距離。
腰に回された手。
恋人繋ぎ。
「俺でよかった?」
あの真っ直ぐな目。
私は即答した。
“廉がよかった”
なんで迷わなかったんだろ。
洗面所で顔を洗いながら、考える。
水の冷たさで少し冷静になる。
廉は、ちゃんと取りに来る人。
言葉も行動も、分かりやすい。
ああいうの、ずるい。
鏡を見る。
なんか少しだけ柔らかい顔してる。
「……何これ」
昨日の余韻、残りすぎ。
スマホを見る。
連絡は来ていない。
来てなくて、少しホッとする。
来てたら、また考えちゃうから。
なのに。
今何してるんだろって思う。
仕事かな。
起きてるかな。
……なんで考えてるの。
無意識すぎる。
北斗のことは?
映画の感想、直接言いたいなとは思う。
でもそれは“仲間として”。
昨日のラスト、本当に良かったって。
それだけ。
胸のざわつきはない。
ドキドキもしない。
ただ、尊敬。
ただ、誇らしい。
でも廉を思い出すと、
心臓が変な動きする。
これって何。
好き?
……いや、まだ。
分からない。
ただ。
昨日、手を繋いだ。
ちゃんと選んだ。
それが静かに残っている。
服を選びながら、また思い出す。
「迷ってええ」
あの声。
優しいくせに、ちゃんと自信ある言い方。
ずるい。
ほんとに。
私はまだ気づいていない。
三角形の真ん中に立っていることも。
北斗が何を思っているかも。
ただ。
映画の次の日の朝。
無意識に浮かぶのは、
スクリーンのヒーローじゃなくて。
隣で手を握った人。
それだけは、確かだった
―――――
メイク前。
ソファに座ってスマホをいじる。
考えないようにしてるのに、
無意識にトーク一覧を開いてしまう。
一番上。
廉。
昨日のやりとりはない。
あのあと連絡してない。
それが逆に、余計に残る。
その時。
画面が震える。
廉
「起きてる?」
心臓、跳ねる。
タイミング。
なんで今。
数秒、固まる。
すぐ返信したら意識してるみたい?
いや、普通に返せばいい。
深呼吸。
〇〇
「起きてるよ」
既読、秒。
廉
「仕事?」
〇〇
「これから」
打ちながら、少しだけ口元が緩む。
なんで?
廉
「そっか」
「眠そうやな」
なんで分かるの。
〇〇
「なんで分かるの笑」
廉
「昨日あんな顔してたらな」
止まる。
あんな顔?
〇〇
「どんな顔」
既読。
少し間。
廉
「俺でよかったって顔」
息が止まる。
何それ。
ずるい。
スマホ持つ手が熱い。
〇〇
「……何それ」
廉
「そのままの意味や」
ストレート。
心臓がうるさい。
〇〇
「朝からそういうのやめて」
廉
「嫌か?」
即。
〇〇
「嫌じゃないけど」
送ってから、フリーズ。
やばい。
今の。
既読。
少し時間が空く。
その数秒が長い。
廉
「ほなええやん」
シンプル。
でも破壊力。
〇〇、スマホを胸に押し当てる。
昨日の手。
今日のLINE。
距離、確実に縮んでる。
なのに。
まだ私は、完全に理解してない。
これが恋の入り口かもしれないこと。
――――――――――
廉side
朝。
正直、我慢しようと思ってた。
昨日は追わへんって決めたし。
でも。
起きた瞬間、思い出す。
“廉がよかった”
あれは反則や。
スマホ握る。
送るか迷う。
重いか?
いや、軽くや。
廉
「起きてる?」
既読つくまで、数秒。
長い。
〇〇
「起きてるよ」
ほっとする。
廉
「仕事?」
普通の会話。
でも声が浮かぶ。
昨日の顔も浮かぶ。
〇〇
「これから」
廉
「眠そうやな」
昨日の帰り道、
少しだけ目がとろんとしてた。
あれ思い出してる。
〇〇
「なんで分かるの笑」
可愛い。
昨日の続き、ちょっとだけ触れたい。
廉
「昨日あんな顔してたらな」
止まる。
攻めすぎか?
でも引かへん。
〇〇
「どんな顔」
来た。
廉
「俺でよかったって顔」
送ったあと、心臓跳ねる。
既読。
沈黙。
嫌やったか?
でも。
〇〇
「……何それ」
完全否定ちゃう。
いける。
廉
「そのままの意味や」
直球。
〇〇
「朝からそういうのやめて」
逃げ半分。
照れ半分。
廉
「嫌か?」
これ大事。
〇〇
「嫌じゃないけど」
勝ち。
口角上がる。
廉
「ほなええやん」
余裕ある風に打つ。
でも内心はかなり嬉しい。
昨日の手。
今日のLINE。
距離は確実に縮んでる。
まだ告白の返事はもらってない。
でも。
〇〇はもう、俺を無意識に考えてる。
それが分かる。
北斗?
もちろん頭にはある。
でも今朝、
〇〇の世界に先に入り込んだのは俺や。
スマホをポケットに入れる。
よし。
焦らん。
でも止まらん。
今日会えたら、
昨日より少し近くに立つ。
三角形。
静かに、形を変え始めてる。
――――――――――
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