テラーノベル
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橙×桃黄
降り続く雨が、スタジアムの屋根を激しく叩いている。結露で白く煙るステージ裏、ゆうすけはないこと顔を見合わせていた。
🦁「……ないこ、薬効いとる?」
🍣「うん、なんとかね。にきも?」
🦁「おう。今んとこは、な」
二人は重度の片頭痛持ちだ。低気圧の日は決まって頭が重くなる。開演前に「ライブ中に切れたら最悪やな」と笑いながら強い鎮痛剤を流し込んだが、その表情には隠しきれない不安が滲んでいた。
ライブ中盤。激しいダンスナンバーの最中だった。
降りしきる雨が演出のレーザーを乱反射させ、視界は最悪だ。そんな中、ゆうすけの視界の端が、ちかちかと白く光り始めた。
(……あ、これ、マズいかも……)
薬の防壁が、音を立てて崩れていくのが分かった。
数秒前まで抑え込まれていた鈍痛が、一気に「鋭利な刃」へと変わる。こめかみをハンマーで叩き続けられるような、耐え難い拍動。
隣を見ると、ないこも一瞬、歌声がかすれていた。マイクを握る手が白くなるほど震えている。彼は唇を噛み締め、なんとか意識を繋ぎ止めているようだった。
その時は、唐突に訪れた。
激しいソロパートが響き渡る中、ゆうすけの頭の中で何かが弾けた。
🦁「っ……あ、が…………」
脳を直接かき回されるような激痛。あまりの痛みの強さに、脳が「体を動かす」という命令を忘れてしまったかのようだった。
視界がぐらりと歪む。
🍣「あにき……っ!?」
隣で持ちこたえていたないこが、異変に気づいて声を上げた。
だが、ゆうすけの膝からは、すでに完全に力が抜けていた。
🦁「……ぁ、れ……?」
立っていられない。地面が消えたような感覚。
ゆうすけの体は、濡れたステージの上に崩れ落ちた。
🍣「あにき!!」
ないこが駆け寄ろうとするが、彼もまた立っているのがやっとの状態だ。頭を抱え、荒い呼吸を繰り返しながら、何とか倒れまいと膝に手を突く。
ステージに手をついたゆうすけは、荒い息を吐きながら顔を歪めた。
照明が、雨が、ファンの歓声が、すべて頭の中に突き刺さる凶器になる。
🦁「……すまん、ないこ……足が、動かへん……」
🍣「いいから……無理すんな、今は……!」
ないこは激痛に耐えながら、倒れたゆうすけの肩を必死に支えた。
降りしきる雨は、二人の苦痛を隠すように、ただ激しく打ちつけ続けていた。
降りしきる雨と爆音のスピーカー。そのすべてが、今の二人にとっては神経を逆なでする拷問でしかなかった。
ステージ上で崩れ落ちたゆうすけの肩を、ないこが必死に抱え込む。だが、ないこ自身も視界がぐにゃりと歪み、胃の底からせり上がる不快感に喉を震わせた。
🍣「……っ、う、げほっ……!」
ないこが口元を押さえて蹲る。限界だった。
異変を察知したスタッフの手によって、急遽暗転が挟まれる。
暗闇の中、駆け寄ってきたいふとほとけが、動けなくなった二人を抱え上げた。
🤪「あにき! ないこ! しっかりしろ!」
🦁「……っ、触んな、響く……あ、がっ……」
ゆうすけはいふの腕の中で、激痛に顔を歪めて呻く。振動さえもが脳に直接響き、意識が飛びそうになる。
バックステージに運び込まれた瞬間、二人は用意されていたバケツを掴んだ。
🦁「……っ、ぅ……え、げほっ! ぉえ……っ」
ゆうすけが胃の中のものを全てぶちまけるように激しく嘔吐する。片頭痛に伴う強烈な吐き気だ。
すぐ隣では、ないこもガタガタと震えながら、胃液を吐き戻していた。
🍣「……はぁ、はぁ……っ、ごめん……みんな、ごめ……っ」
🐰「謝らんでええから、 今は出すもん出しちゃい?」
しょうが背中をさすり、りうらが冷たいタオルを二人の首筋に当てる。
雨に濡れた体と、嘔吐による冷や汗で、二人の体温はみるみる奪われていった。
救護室に運び込まれ、ようやく嘔吐が治まった頃。
ゆうすけは簡易ベッドに横たわっていたが、足の力は抜けたままで、指先ひとつ動かす気力も残っていない。
🤪「……あにき、ちょっと落ち着いた?」
いふが低い声で問いかける。照明を極限まで落とした室内で、ゆうすけはうっすらと目を開けた。
🦁「……情けねぇ。ライブ、最後まで……」
🤪「後のことは俺らに任せて。あにき今日は、ようやったよ」
隣のベッドでは、ないこがしょうの手を握ったまま、ぐったりと眠りについていた。
ゆうすけは、ズキズキとまだ疼くこめかみを押さえながら、重い口を開く。
🦁「……ないこ、は……?」
🐰「ないちゃんも今寝た。薬やっと回り始めたっぽい」
その言葉に、ゆうすけは小さく息を吐き、緊張の糸を切らした。
外ではまだ雨が降り続いている。
だが、仲間たちの温かい手に守られたこの部屋だけは、ひどく静かだった。
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