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17 - 第十六章 パンケーキ同盟

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2024年08月20日

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私が春岡鉄雄に再構築を勧めたのは、どうせ決別を求めたところで、ヘタレ臭の強い彼のことだから、結局奥さんと別れることはできないだろうなと彼を見くびっていたからだ。

私の読みは半分当たり、半分外れた。予想通り彼は何もできなかったが、怒った彼の子どもたちが問答無用で母親を家から叩き出した。

貞操観念に欠けた妻を汚嫁と言ったりするが、夫が汚嫁を受け入れられない以上に、子どもは汚れた母親などもっと受け入れられないものだ。

私も夫と秋山桔梗相手の戦争に子どもを利用している。実際、桔梗の一人娘の秋山菫を味方に引き入れた。SNSでやり取りを続け、今では名前で呼び合う仲になっている。でもこの先が難しい。私が産んだ二人の娘は相変わらず夫の側に立っている。

シークレット結婚式や秋山桔梗との行為動画を見せる? それでこちらの味方になってくれればいいが、そうならなかった場合、二人は夫といっしょになって私を攻撃してくることだろう。夫をこの家から追い出すどころか、夫たちの思惑通り私が一人でこの家から追い出される最悪の展開になる。

正義感の強い秋山菫と違って、うちの菫と桔梗は打算的な娘だ。夫の過去を知っても過去は過去と割り切り、どちらの味方になる方が得かを判断してから行動を決定する恐れは十分にある。

春岡鉄雄は幸運に助けられただけだ。同じゴールになると勝手に決めつけるのは危険すぎる――

という内容のメッセージを鉄雄のことは伏せて秋山菫に送信したら、こんな返事が返ってきた。


今日 21:31

私に考えがあります。蛍さんの娘さんたちと一度会わせてもらえませんか?


三人は異母姉妹。秋山菫が中三、うちの菫が中二、うちの桔梗は小六。一番年上の秋山菫がうちの娘たちを説得してくれるということだろうか?

そんなにうまくいくだろうか? 決して自信は持てなかったけど、思い切って彼女の提案に乗ってみることにした。


十月最初の土曜日。秋晴れの暖かい日。私の心が今日の陽気のように穏やかになれるのは当分先のことだろう。

正午前、秋山菫に指定されたカフェに三人で入った。うちの菫と桔梗がテーブルの向かい側に座り、ずっと文句ばかり言っている。

「私に部活を休ませてまで会わせたい人って誰?」

「私だって予定が入ってたのに、要件も言わずにただついてこいって横暴すぎる」

あらかじめ要件を伝えなかったのは夫にそれが伝わるのを防ぐため。それにしても言いたい放題。夫の工作が成功して二人はすっかりパパっ子。私には懐かないというより、明確に敵だと認識している。

夫の工作はもちろん親権争いを有利に運ぶため。夫の工作が始まる前は私と娘たちの関係は良好だった。まさか夫が私の追い出しを画策しているとは気づかず、対応が遅れてしまってこのザマだ。

私たちのテーブルは店の入口が見える場所にあった。そのとき入ってきた客を見て、来たよと声をかけた。娘たちはそちらに視線を移すなり目を丸くした。

「お姉ちゃんがもう一人いる」

「ねえ、これはどういうこと?」

私も驚いた。秋山菫は長かった髪をバッサリ切ってうちの菫と髪型まで同じにしていた。顔も身長も体型も同じ。もはや二人を区別するものは何もない。彼女は私を見つけてゆっくりとこちらに向かってくる。いつも強気な娘たちがおろおろしているのを見るのが楽しい。

秋山菫は私たちのテーブルの前まで来て立ち止まった。

「はじめまして。秋山菫です」

「菫? 名前も同じなの!?」

「声までいっしょ! 他人とは思えないよ!」

騒ぎ続ける娘たちを、彼女は次の一言で黙らせた。

「他人? 私はあなたたちの姉。遺伝子の力は偉大ね」

彼女を私の隣に座らせ、代わって私が説明した。娘たちから見て彼女が腹違いの姉妹であること。幸季が愛しているのは私でなく彼女の母親であり、結婚式まで挙げていること。父(娘たちから見れば祖父)が二人の仲を引き裂き、幸季に私と見合いすることを強要したこと。そして今になって幸季が私を家から追い出して、彼女の母親との子連れ再婚を企てていること――

次女が聞いていられないとばかりに話に割り込んできた。

「いいかげんなことばかり言わないで! だいたいお父さんがその人のお母さんを愛しているという証拠はあるの?」

シークレット結婚式の映像を見せてもいいが、そんな質問の回答なら言葉だけで十分だ。

「あら、あなたの名前は秋山菫さんのお母さんと同じなのよ」

「嘘!」

「本当だよ。一応住民票も持ってきたけど見る?」

うちの桔梗の返事を聞く前に、秋山菫はそれをもうテーブルの上に広げていた。うちの菫も桔梗もそれを見て沈黙した。姉妹は母親の名だけでなく、娘の名も確認して、自分たちの名前の由来を知って絶望しているのだろう。

それにしても私一人追い出して秋山桔梗と子連れ再婚できたとしても、娘たちの名前が再婚相手の親子と同じであることをどうやって幸季は説明するつもりだったのだろう? 時間をかけて丁寧に説明して納得させたかったのかもしれないが、これは戦争だ。そんな猶予を与えるつもりはない。

「勘違いしないでね。結婚当初からほかに好きな人がいて、隠し子までいると知った時点で、私もお父さんとは離婚すると決めた。愛してくれない相手と夫婦を続けて、これ以上時間を無駄にしたくないもの」

「離婚? そんな大げさな……」

「大げさって、桔梗が私の立場なら耐えられる?」

「…………無理」

「でしょ」

ここからは私のターンとばかりに秋山菫が身を乗り出した。彼女はバッサリ髪を切って、髪型までうちの菫に合わせてきた。私をあなたたちの姉と認めなさいと無言の圧力をかけるために。その気迫はすべての面でうちの娘たちを圧倒した。

「蛍さん夫婦が離婚するかどうかは私と関係ないけど、あなたたちのお父さんが私のお母さんと再婚したいとなると話は別。自分たちの身勝手のために何の罪もない蛍さんを傷つけたことは、実の両親であっても絶対に許さない! 確認するけど、あなたたちは蛍さんと父親のどっちの味方なの? 父親の味方だと言うなら、今から私はあなたたちを敵と見なす」

母親の私を侮り態度もよくない娘たちが、自分たちの姉を自称する初対面の秋山菫に対しては最大限の緊張感を持って向き合っていることが分かる。まして回答によっては敵に回すことになるという。二人が秋山菫を敵に回さない形で回答しようとしている雰囲気も伝わってきたが、私はあえて水を差すような話を向けてみた。

「裕福な暮らしをしたいなら父親の方について行った方がいいでしょうね。あの人に言われなくても、私はあの家から出ていくつもりだから。あなたたちのおじいさんは幸季さんに恋人がいるのを承知で、恋人と別れて私と見合いするように強制した。幸季さんは幸季さんで私と見合いしたあとに恋人と子作りに励み、子どもを産ませた。私は会社のために生贄にされたようなものね。でも覚えておいて。私の過去はあなたたちの未来かもしれない。裕福な暮らしはできても、私のように隠し子がある男と愛のない結婚生活を送ることになってもいいの? 私は母親としてあなたたちに私のような無様な人生を送ってほしくないの。ただ聞いて! あなたたちが私を選んでくれたらうれしいけど、その場合私の味方になると口で言うだけじゃ駄目だからね。味方になる以上いっしょに戦ってくれないと!」

自宅に残り幸季や後妻、また祖父母とともに今まで通り裕福な暮らしを続けるか? それとも私といっしょに先の見えない新生活を始めるか?

娘たちは今まで見たことがないほど真剣に悩んでいた。待っているついでに、私と秋山菫が注文を済ませた。二人ともパンケーキとコーヒー。

「私たち、気が合いますね」

「血がつながってないのにね」

「私も蛍さんといっしょに暮らしたいです」

「大歓迎!」

「でも蛍さんが誘拐罪で捕まっちゃうから、十八歳になるまでは無理ですね……」

「あら。今からいっしょに暮らす方法もあるわよ」

「えっ」

「うちの菫の答え次第だけどね」

私と秋山菫に見つめられて、うちの娘たちの苦悩はますます深まったようだ。

うちの菫が

「いい?」

と聞くと、桔梗は、

「お姉ちゃんに任せる」

と答えた。

そこでようやくうちの菫は、

「私たちもお母さんを選ぶ。いっしょに戦うよ」

と震えた声で答えた。

離婚後共同親権の時代なのに、どっちかの親を選べと無理やり答えさせたのは悪かったが、これでとうとう遅まきながら私の反撃態勢も整った。

うちの娘たちもパンケーキを注文した。ドリンクはコーヒーじゃなかったけど。娘たちは父親の影響で甘いドリンクが好き。もっとも半年もすれば、私たちといっしょに当然のようにコーヒーを飲んでいることだろう。


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