ゆっくりと俺を撫でてくれるその細い手首を掴む。
「もう平気···?だいじょうぶ?」
包み込んでくれる優しさが溢れてるようなその瞳が俺の顔を覗き込む。こんな表情も好きだ。少し不思議そうなこちらを伺う表情。
「大丈夫じゃない···涼ちゃんのこと好きすぎて大丈夫じゃないよ」
目をまん丸くして驚く涼ちゃんを引き寄せて···いきなりのことで抵抗も出来ないその唇を、俺は奪った。
「な、に····風磨くん、酔ってる···」
後ろに下がる涼ちゃんの腕を俺は離さない。
「違う、酔ってるけどそうじゃないんだ···俺は本当に涼ちゃんのこと好きで···俺じゃだめかな···」
もう一度、と顔を寄せたけど、今度は自由な方の手で押し返されてしまう。
「ごめん風磨くん···僕帰るっ!」
手を振り払うとバタバタと荷物を掴んで涼ちゃんが出ていって、ガチャンと玄関のドアが閉まる音だけが響いた。
自分がした事を飲み込んで後悔と申し訳なさと絶望をまともにくらったのは翌朝のことだった。
二日酔いで頭が痛い、心も痛い。
「やっちまった···俺終わったわ···」
酔っていた、けどだからあんな事したわけじゃない。
好きだったから···愛おしかったから。
でもこんなはずじゃなかった。
もっとゆっくり時間をかけてデートを重ねて自分を知ってもらって好きになって貰うつもりだったのに。
なにやってんだ、俺の理性。
それでも仕事には行かなきゃいけないから重い体を引きずってシャワーを浴びて仕事に向かった。
「風磨くんじゃん」
それは今、ある意味一番聞きたくなかった声。
「大森くん、お疲れ様です···」
静かに挨拶したけど、大森くんがいるってことは涼ちゃんがいる可能性が高いってわけで。
「元貴ごめんね!お待たせ···あっ?えっ、ふ、風磨くん···なんで···」
後から大森くんを追いかけてきた 涼ちゃんは俺を見つけるとわかりやすく動揺している。
「涼ちゃん···昨日は、ごめん」
「んっ、えっと、その、大丈夫だからね!気にしないでっ!じゃ、僕先に行ってるからね!」
全然大丈夫じゃなさそうな涼ちゃんは前も見ず走り出してスタッフさんと何度もぶつかりそうになりながら消えていった。
「ふまくん?ウチの藤澤に何してくれたのかなぁぁ?」
にっこりとした笑顔なのに声も目も笑ってない大森くんに俺は全て喋らざるを得なかった。
「···ってことです、スミマセン」
「それであの感じね、朝からなんかおかしかったのもそのせいか···まぁ元々ちょっとおかしいからわかんないけど」
おかしくなるくらい気にしてくれるのも申し訳ないけど、大丈夫だから気にしないで、も辛すぎる。
「終わった···嫌われた···」
「無理矢理するようじゃ無理か。キスはね、両思いになってしないと」
「···スミマセン」
「ごめん、ちょっとからかっただけ」
ごめんなんての言葉だけで思って無さそうな大森くんは綺麗な高音で笑った。
「意外と良かったかもしれないよ?あの涼ちゃんだもん、ちょっと様子見てみたら」
何が良かったのかさっぱりわからないけど、確かに様子を見るしか俺にはもうすべがないわけで。
ありがと、完全に振られたら慰めてねと言った俺を大森くんはまた盛大に笑った。
とりあえず涼ちゃんにはメッセージで謝罪した。実際に迷惑かけたわけだし。
それに対する返事はやっぱり気にしないで、の一言だけだった。
コメント
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あらら⋯先走りすぎて距離を置かれたか。よく「恋は駆け引き」だなんていうけど、分かんないよね😅💦