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意識が浮上した瞬間、
最初に感じたのは手首の違和感だった。
冷たい感触。
動かそうとして、金属音が鳴る。
「……手錠?」
目を開くと、白い天井が視界に入った。
医務区画らしい清潔な部屋。
だが、両腕はベッドの横で固定されている。
逃げようとしているわけでもないのに、
最初から“そういう扱い”なのだと、理解してしまった。
「目が覚めたか」
低い声。
横を見ると、地球連邦軍の士官が二人、壁際に立っていた。
どちらも武装している。
「朝倉恒一。民間人。十七歳」
淡々と、読み上げるような声。
「本日未明、未許可の軍事兵装に搭乗。
敵性勢力と交戦。都市部における戦闘行為を行った」
恒一は、喉が鳴るのを感じた。
「……助けようとしただけです」
士官は一瞬だけ黙り、そして言った。
「動機は記録されている。
だが、それと責任の所在は別だ」
拘束を解く気は、ないらしい。
「君の今後は、軍法会議で決定される」
その言葉が、重く落ちた。
——会議。
——裁き。
「俺……捕まったんですか」
「保護と拘束の中間だ」
はっきりしない答え。
だが、少なくとも“自由”ではない。
会議室は、想像していたよりも狭かった。
半円形の卓。
その向こうに、数名の将校と文官。
壁際には、武装した憲兵。
恒一は、中央の椅子に座らされていた。
手錠は外されているが、逃げ場はない。
モニターが点灯する。
映し出されるのは、
地下施設、墜落、地上戦、ミサイル。
——自分が、そこにいる。
「朝倉恒一」
一番奥の席に座る、年配の将校が口を開いた。
「君は英雄として報道されている。
だが我々は、事実のみを扱う」
視線が突き刺さる。
「無断搭乗。
未訓練での戦闘行為。
民間人であること」
一つずつ、積み上げられる罪状。
「本来であれば、即時拘束・記憶封鎖の対象だ」
恒一の背中に、冷たい汗が流れる。
「だが——」
将校の視線が、少しだけ鋭くなった。
「君以外では、ガンダム・シラヌイは起動しなかった」
ざわめき。
「生体同期率、異常値。
代替パイロット、全滅」
恒一は、拳を握った。
「……それでも、俺は兵士じゃありません」
静まり返る。
「だからこそ、今ここにいる」
別の士官が続ける。
「君の今後の行先は三つだ」
モニターに、選択肢が表示される。
一、
完全隔離。機体と共に封印。
二、
連邦軍管理下での保護・研究対象。
三、
正式パイロットとしての編入。
どれも、重い。
「選択権は……俺にあるんですか」
将校は、少しだけ間を置いてから答えた。
「建前上は、ある」
正直な言い方だった。
「だが、時間はない。
ツクヨミは、次の一手を準備している」
恒一は、目を閉じた。
——怖い。
——逃げたい。
それでも、
あの時、ガンダムが動いた感覚を思い出す。
「……少し、考える時間をください」
「許可する」
将校は、そう言って立ち上がった。
「次にこの席に座る時、
君は“民間人”ではいられないかもしれない」
会議室を出た後、
恒一は一瞬だけ振り返った。
廊下の奥、隔壁越しに見える巨大な影。
ガンダム・シラヌイ。
無言のまま、そこにある。
それは、
逃げ道でもあり、
戻れない道でもあった。
少年は、まだ戦士ではない。
だが——
裁かれる段階は、もう終わっていた。