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幻竜ジェロードは慢心を捨て去った。
その代償に右腕と右の翼を失くしたが、彼は惜しいとは思わなかった。
むしろ、生まれてから3000と幾年。
これほどまでに心躍る好敵手に出会った事のないジェロードは、六駆との再戦で命を捨てる覚悟だった。
逆神との戦いにはそれだけの価値があると確信に至る。
長きを生きたドラゴンが古龍と呼ばれるようになると、一部の過激な思想の者を除いて、少しずつ毎日が無味乾燥になっていく。
それを人間の言葉で表すとどうなるか、ジェロードは知っている。
虚無である。
死の概念のない古龍は、心が少しずつ、まどろみのように衰えていく。
知能や武力はそのままであるのに。
それを「自然の成り行き」と受け入れる者、「ならば暇潰しに弱き者を嬲り殺そう」と狂気に走る者、中には人との共存を望む古龍もいるとか。
幻竜ジェロードは、古龍の中ではまだ若い。
ゆえに、自分の行動指針を決めきれずに漫然と生きていた。
そこに逆神大吾と言うアレな転生者が現れ、帝竜バルナルドと冥竜ナポルジュロに巻き込まれる形で封印されてしまう。
復活を遂げた直後は先達の2匹に習い、人間への復讐を企てたが、ジェロードは六駆との戦いで気付いていた。
気付いてしまった。
自分は戦いの中で生き、戦いの中で死にたがっているのだと。
幻竜ジェロードは煌気感知能力も極めて高く、六駆を捕捉してから一直線にヌーオスタ村へと進路を取っていた。
傷を自己治癒力で塞いだだけで、煌気の回復もそこそこに、幻竜は空を飛ぶ。
死に場所を見つけてしまった彼は、自分を自分で抑えきれなくなっていた。
彼らの遭遇まで、あと3分。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「すみません! オンペレペンのかば焼き、もう2皿、いや3皿もらえますか? いやー、これが美味しいのなんの! 癖になりますね!! 僕、異世界の枕は合わないんですけど、異世界の味は不思議と舌に合うんですよね!! いや、絶品!! 白いご飯があればもう最高!! あ、すみません! あー、匂いだけでご飯2杯はイケちゃう!!」
なんか色々と台無しである。
幻竜ジェロードが戦いの中で死ぬことを決意している裏では、六駆おじさんがオンペレペンとか言うデカいアヒルみたいな怪鳥のかば焼きに舌鼓を打っていた。
南雲とサーベイランスで通信したのが4分前。
戦う準備をしろとはもう言わない。
せめて、村人を避難させるくらいの事はしろ。
「六駆くん! 六駆くん!! 大変だよぉ!!」
そうだ、我らが良心の莉子さん。
言ってやれ。このバカに言ってやれ。
「どうしたの、莉子?」
「じゃーん! パックのご飯がまだあったよぉ! 今、温めてあげるね!!」
ああ、そうだった。この子も最近はバカになったんだった。
「うわぁ! すごいや、莉子! もう気配りが上手すぎて頭がおかしくなりそう! オンペレペンのかば焼きに白ご飯とか、絶対に合うよ!!」
「えへへへへへへへ。『復水』!! すみませーん、クララ先輩! 炎のスキルで火起こししてもらえますかー?」
パックご飯が温まるまで3分。
幻竜ジェロードがヌーオスタ村に到着するまであと2分。
六駆よ、ざまあみろ。
それから2分後、竜が来た。
大袈裟な荷物は持って来ていないし、天体観測は始まらないけど、戦いは始まる。
心情的に、何となく幻竜ジェロードを応援したくなってくるのは気のせいか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ヌーオスタ村に幻竜が降り立つ。
彼にとって、もはや六駆以外の人間の事などどうでも良かった。
だから、むやみに村を攻撃しようともしない。
変わりに地平線の向こうまで響きそうな轟音で好敵手の名を叫ぶ。
「逆神ぃぃぃ!! 貴公との決着をつけに参った!! 我は幻竜ジェロード!! 30年前に貴公が封じた古龍が一頭!! ここで生きた証を遺す!!」
「あ、すみません。ちょっと良いですか?」
「グルゥアアァッ! 我らの間には既に言葉など必要なし!!」
「いえ、大事な事があるので聞いて下さい」
「……ぐぬぅ。では、申してみよ」
「僕、ジェラートさんの言ってる逆神じゃないですよ。あなたを封じたのはうちの親父です」
「……ぬぅ?」
六駆おじさん、古龍の決闘に水を差しつつ、名前もなんだかスイーツみたいによく聞かないと分からない言い間違えをする。
もう黒炎を吐いてやれば良いのに。
「ですからね、僕、逆神六駆って言うんですよ。ジェラートさんの言う逆神は大吾でしょ? 違うんだよなー。だからそんなテンションで来られても、こっちは困ると言うか。ほら、勢いってあるじゃないですか。そっちは良いですよ。30年前の恨み! みたいなノリでしょ? でも僕、あなたに対する恨みってゴールデンメタルゲルを殺された事だけなんで。それって、さすがに右腕と右の翼を奪っちゃってるでしょ? これ以上やると僕が悪者みたいじゃないですか? もちろん、ゴールデンメタルゲルの恨みは深いですよ? でもなぁー」
このシチュエーションでそれだけの長文を怪鳥料理食べながら吐く姿には感心する。
だが、ジェロードも「ああ、そうっすか」と引き下がれるはずもない。
彼は六駆との戦いで生と死の意味を見つけるつもりなのだ。
「……承知した。では逆神六駆よ。貴公に改めて戦いを申し込む! 我と死力を尽くして戦え! 我は貴公との勝負に全てを捧げる所存である!!」
「ええ……。なんか重い……」
遊びで付き合っていた男が本気で求婚して来た時の男の扱いに慣れている女子大生みたいなリアクションをヤメろ。
「……致し方ない。本意ではないが、この場の人間を根絶やしにする! そうなれば、貴公も戦わざるを得まい!!」
「ああ、もう仕方ないな! 分かりましたよ! お相手します!! 村に被害が出ないようにちょっと離れますけど、良いですね?」
「良かろう。我は貴公と戦えるのであれば、是非もない」
「いちいちメンヘラ女子みたいな事言うのヤメてくださいよ。怖いなぁ」
ヌーオスタ村から2キロほど離れた荒野で向かい合う両雄。
戦いの始まりは、実に王道であり、シンプルだった。
「参るぞ、逆神六駆!! カァァァァァッ!! 我が黒炎、先刻のように温くはない!!」
「うわぁ、本当だ。煌気の練度が超上がってるじゃないですか。避けよう!」
幻竜ジェロードは、その名に幻の冠を持っているくらいなので、相手を幻惑する事に長けている。
初撃に吐いた黒炎はダミー。
六駆の回避行動を先読みして、飛び上がったところに本物の黒炎を浴びせにかかる。
「上空では避けられまい!! カァァァァァッ!! どうした、せめて足掻かぬか!!」
「僕にも無属性のスキルがあるのをお忘れで? 『無・大竜砲』!!」
黒炎と黒炎が衝突して、発生した衝撃波が辺りで爆ぜる。
威力はまったくの互角。
これは幻竜ジェロードを褒めるべきか。
六駆も使い慣れないスキルではあるが、8割を超える力で撃っている。
それを相殺できるだけでも誇って良いレベルなのは間違いない。
「くぅぅー! これはしんどい! よし、戦法を変えよう! 村長から貰っといて良かった!! ジェラートさん、得物使ってもいいですね?」
「ふっ。無粋な事を我が言うと思っているのか?」
「では、遠慮なく。おおー。そう言えば、具現化武器じゃない、現実の武器を使うのって現世に戻ってから初めてだな。ちゃんと使えるかな?」
六駆の手に握られているのは、ヌーオスタ村の秘宝剣・ホグバリオン。
鍛冶を得意とするホマッハ族の秘宝と呼ばれる剣の切れ味やいかに。
コメント
1件
うわっ、ジェロードの内面が深く描かれててグッときました……!「戦いの中で死にたい」って、長命種の虚無感がひしひし伝わってくる。一方で六駆おじさんは相変わらずオンペレペンのかば焼きで和んでるギャップに笑った。ラストの「秘宝剣・ホグバリオン」、これどう活きるのか気になる!