「だ〜る〜い〜」
「口やなし手を動かす!」
黒樹はその日、涼の住む廃墟を掃除していた。ここはどうやらもともと涼の家系の所有物らしく、溜まり場と化しているわけではないようだった。がきったないので近くのホムセンで買ってきた竹箒とその他掃除セットを使って清掃に励む。
「腹減ったかったるい」
「文句と感情を混ぜるな」
「だってよ、今までここで二年くらい暮らしてんだぜ、それを掃除とかあほらし」
「あかんあかん。ほらカビまるけ、埃まるけ!!」
「えぇ〜」
涼は時代に逆行するテンプレやんちゃ坊主。掃除なんてできたものじゃない。
昼過ぎにはなんとか住めるまでに物と虫の巣を片付けて昼飯にありつける。
「うま」
「働かざる者食うべからず。働いたらうまい飯」
「近所のばあちゃんみたいな……」
「先人の知恵といっておくれ」
おばあちゃん風に返す黒樹を涼がくすくす笑う。今日の飯は下の階の炊事場で作った簡単な春巻き。下の階は綺麗に残されていた。
黒樹は窓を見る。
春の空とはまだいいがたい、淡い水色。
「さてと」
涼が立ち上がる。せめて皿を流しに運んで欲しい。
黒樹は皿を重ねて持ち後を追った。
涼はデスクや椅子……粗大ゴミが積み上がったスペースにバイクと車を停めていた。YAMAHAのクラックスレヴと魔改造で原型をなくした同じくYAMAHAのボルト。カフェスタイルでキャストホイールとなるとCスペックだろうか。車はミニライトホイールを履いたミラジーノとレオンハルトライゼを履いたAZワゴン。
「なんでこんな持ってんの?まだ若いでしょ」
「クラックスは貰い物、車は両方中古で三〇万円台。金だしてんのボルトだけなんだよ」
成程……でも税金がばかにならないと思う。
「乗れよ」
涼にアライのクラシックメットを手渡される。
「ツーリングだ」
タンデムでボルトの後ろにちょこんと収まる黒樹。
「なんだよっこのマフラー、バカうるせぇ!!」
「なんて?!」
カスタムされたマフラーが爆音すぎて会話もろくにできん。なんだこいつ。
工場から矢田駅の踏切を抜けると矢田川が出現する。堤防には道があり、カブみたいな原付でトコトコ流すには交通量が多すぎるけどバイクには最適な道だった。そのまま大曽根までぐるっと一周したあと、遊びに行くために環状線で栄まで出ることにした。
「よお、涼」
ヒサヤオオドオリパークから少し南下してかつてドンキがあった辺りで信号待ちしていると、後ろから涼より数倍ガラの悪い男が絡んできた。黒樹は無視。涼は即座に戦闘態勢に入った。
「なん」
「おっと、これはこれは怖ぇ。最近見ねぇと思ったが、こんなところで新しい猫を捕まえるとはねぇ、やるねぇ」
男が黒樹を見て笑う。鼻息に針が混ざったような痛みと悪意がある。
「ちょっと涼じゃない!久しぶりねぇ!知らないでしょ?アカネ、タカシと結婚♡すんの」
また一人ガラの悪いのが増える。年増のキャンギャルみたいな格好の、甲高い声の女。
「アンタもまた懲りないわね。まあ今更なんにも言わんけど、アハハ!!」
涼が固まっている。どちらかといえば、黒樹を守っていた。
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