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一つ目の作戦は、「happyの反射は一つの方向にしか出せない」と仮定して、二つの方向から同時に攻撃する作戦だ。
これは、俺しか攻撃をしていなかったから俺にだけバリアを出していて、指揮も攻撃して来たら対応できないんじゃないか?というわずかな可能性に賭けた作戦になる。
俺も正直ありえそうだと思ったが、残念ながらhappyは上としてとても強い。
分かりやすいデメリットなんて存在しなかった。
では、二つ目の作戦に移るのだが……
あの作戦を聞かされた時、俺は本気で狂ってると思った。
「二つ目の作戦って?」
「これは一つ目の作戦以上に少ない可能性に賭ける作戦です」
「ま、一つ目がうまくいかなかったらなんでもできる気がするしいけるだろ」
「では今から作戦を話させていただきますが、その……引かないでくださいね」
「大丈夫だって、信じてるから」
「ありがとうございます。まず、簡単に作戦を紹介するのですが」
「この部屋の壁や床を貴方のレーザーで撃ってもらい、部屋を破壊する作戦です」
「……え」
「引かないでって言ったのに……」
「えいや説明がほしい、だってこの床とか壁って俺が最下層壊した時と違う素材だろ?」
「ええ。ですが、素材によっては壊せるのでは?」
「炎があのガラスに効くと思うか?ガラスだぞガラス。俺らがゴリゴリに戦ってても壊れないガラスだし、それに放射能レーザーでびくともしなかっただろ」
「そうですが、あのレーザーはhappyさん狙いであって、壁を狙っているわけではありません。それに、私はこの壁や床はガラス製ではないと思うのです」
「え、ガラス製じゃない?じゃあ何なんだ?」
「ある程度透明度もあってガラスに似ていて、かつ炎で溶ける素材で。私の考えでは、この壁や床は氷で出来ています」
「氷?」
「はい。氷なら溶かせるのでは」
「仮に氷だとしても、その壁を撃ってる間にhappyに攻撃されるかもしんないだろ」
「攻撃が当たる前にhappyを無力化できればいいのですよね」
「つってもそんなことできるか?」
「happyはこの戦闘が始まってからずっと椅子に座っていますよね」
「そうだな」
「たとえ遠距離から攻撃できるとはいえ、椅子に座ったままというのは少し不自然じゃないですか?」
「まあ……確かに」
「ですから、happyの能力の根幹部分は椅子にある、もしくは椅子に座っているのという状況、動作にあると考えてもよいのではと」
「はあ……つまり、椅子に座ってるからhappyはあんな強いのかもってことか。でも、あいつが椅子に座ってる以上、椅子を狙っても反射されちまうだろ」
「ですので、ここで貴方に床を撃ってもらうのです。もし床を溶かせたら、happyは椅子に座っていられなくなると思うのですが、いかかでしょうか」
「いずれにしても、床が壊せる素材なことを信じるってことか」
「もし床を壊せたらあとは簡単ですよ、最下層にいる他の人に合流できますから、上にさえ見つからなければ、happyを倒すことに協力してくれるかもしれませんし」
「なるほど、望みは薄いけど……もし実現出来たらアドはデカいな。とりあえず椅子を壊そうってことか、頑張るわ」
「ありがとうございます」
でも、今となっては違う。
俺が藁にもすがる思いで床にはなったレーザーは床を溶かし、床はあっという間になくなった。
溶けた氷で辺りが水浸しになっても、俺のレーザーの勢いは止まらず、happyの椅子まで到達した。
床が壊れた衝撃とレーザーの直撃により、happyは座っていることができなくなり、椅子から転がり落ちた。
happyが反射を発動する素振りはない。指揮の仮説は正しかった。
「うわ、すげぇ……本当に床ごと壊せるなんて……」
「あぁ、良かったです。これなら二時間以内に間に合いそうですね」
「クソが……なんで気付けるんだ!ここに来たのなんて相当前だぞ、まだ記憶残ってたのか?」
「いえ、あくまで推測です。確信はありませんでしたが、特殊な壁だなとは思っていたので」
「なんなんだよマジで……!!」
「反射しなくていいのか、撃っちまうぞ」
「やはり椅子が条件ですか。その椅子、壊されてしまいましたけど」
「い……嫌だ!!死にたくない!!こんな、たかが参加者二匹に……!!」
俺は溜めに入る。
happyも動けないとはいえ、俺も動けない。
happyと話してて共倒れしたら最悪だ。
「悪いけど、もう時間がないんだ。死んでくれ、happy」
俺の右手から、全てを終わらせる炎が放たれた。
*
指揮と木更津の会話内容を聞いて、俺は心底驚いた。
壁が氷で出来てる?それを壊せる?
冗談じゃない。
頭弱いキャラのやつなんて貴志で十分だろ、今回に関しては。
だけど、俺はその後起こりうる限り最悪な事象に遭遇した。
おかしい。
happy様が押されてるだって。
happy様の能力はとても凶悪だ。
だからそれに伴い大きな代償が存在する。
それは、happy様が椅子に座っていないと能力を使えないということ。
これにより、happy様は常に椅子に座っている。
もし椅子から引きずり降ろされようもんなら、たちまち簡単に倒されてしまうだろう。
でもその前に氷塊を出せば、速攻で敵を圧倒できる。
だからネームドのリーダー格たる強さを誇っているのだ。
現に、木更津はかなり押されていた。
でも、あいつらはこの部屋ごと椅子を破壊するという超脳筋戦法に走り、なぜか勝ってしまった。
確かにあの椅子もろくね?とは思っていたし、木更津のレーザーの火力が増強するなんてことなかったから、少し不安でもあったけど、happy様なら余裕だと考えてしまっていた。
俺が馬鹿だった。でも傍観者がどうのこうの言ったって結末は変わらないかという感情が俺の中にはある。
俺に能力を渡してくれたbloodは、能力について「非常に難しい能力」と話していた。
何が難しいんだろうと思っていたが、今となってはその意味がわかる。
俺の能力の詳細について、俺は今まで誰とも話していなかった。
だって、表面上はとても簡単だからだ。
神視点になれる。その代償として、起こる事象に一切介入できない。
マジで関係ない世間話位ならできるが、姿を現すことはできない。
でも、代償で何かの行動が禁止されることなんてない。
その行動をしたら自分に罰が下る。その罰がとても重いから、行動を禁止されていると思うんだ。
俺の代償の本質は、「起こる事象に介入したら死んでしまう」。
つまり、とても好意的に解釈すれば、
「命を消費すれば一回だけ事象に干渉できる」
その人生最後のチャンスを、どこで使うかがものすごく難しい。そういう意味で、bloodは難しい能力だと言ったのではないか。
木更津がもう一度レーザーを放とうとしている。
happy様は氷塊でけん制しようとしているが、動揺のあまり狙いが定まらなかったのか、あらぬ方向に飛んで行っている。
木更津のレーザーをhappy様が受けるのは確定だろう。
このチャンス、使うのは今だと、考える先に体が動いた。
happy様の真上に降り立った。タイミングは傍観していたおかげで熟知している。
『星斗の能力は、文字通り死をもたらす。幽霊になれるなんて考えるな、奴の能力は幽霊なんてすっ飛ばして本来の意味 で殺してくる』
なんでこんな時に限って死にたくなくなるような記憶が掘り起こされるんだ。
そう、これはネームドになった時にbloodから教わったこと。
木更津の放射能レーザーは、幽霊化という過程を飛ばし、例えどれだけ未練があっても、本来の意味で死をもたらす。
そして俺の傍観者人生で気づいたことだが、木更津のレーザーは一人殺したら止まる。
つまり、誰かが壁になれば、他の誰かを守れる。
俺が壁になれば、もう二度とhappy様を拝めない。
でも、それでも動くべき時ってもんはある。
「……じゃあな」
今だ。
俺は神化を解除して、happy様の目の前に降り立った。
「blossom?!なんでお前が……」
「happy様!”私”は例え、貴方に嫌われていようと、なんとも思われていなかろうと!」
レーザーが私の目の前に迫る。
奥から木更津達の驚く声が聞こえる。
いかにもこんなやつ知らないみたいな、計画が見知らぬ誰かに崩されたみたいな声が。
へへ、ざまあみろ!happy様を殺すなんて高望みするから!
たった一人の傍観者が死んじまったじゃないか!!
「地獄にいようと、天国にいようと、」
「やめ、blossom!なんでお前は犠牲を増やして……」
『へー。君がblossomか』
『は、はい、でも……なんで私みたいな戦闘できない人をそんな側近に置くんでしょうか。私なんてただの……傍観者でしかないんですよ』
『傍観者っていうのも悪くないんじゃないかな。裏を返せば、傍観者っていう何もしてこない位置から、急に奇襲を仕掛けられるからね。無名の顔も知らないような人っ子一人に、計画を崩された奴らの顔でも想像してみ、どう思う?』
『へへ、ざまあみろ!!ばーかばーか!!って感じです』
『はは、そういうところが気に入ったんだよね。君みたいに不思議な人が近くに居た方が、賑やかになって楽しいよ』
『うぇ、あ、ありがとうございます……!』
あの時から私は誓った。
「一生貴方のことを推し続けますから……!!」
「おいやめ、美鈴!!」
私が流した涙は、炎によってかき消された。
最後の最後に、happy様が泣いているのが視界の端に映って、
泣かせる気はなかったのに、なんて残念がりつつ、でも私とお揃いだ、なんて思って乾いた笑いを残し、
私ことblossomこと花咲美鈴は、散った。