テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第三十九話 アルバムの続き
「思い出は、過去を振り返るためじゃない。未来へ進む勇気をくれる。」
八月中旬。
蝉の鳴き声が少しずつ遠ざかり、
夕方の風に秋の気配が混じり始めていた。
湊は机の上にアルバムを広げる。
紬へ渡したものと同じ、もう一冊のアルバム。
自分の手元にも、思い出を残しておきたかった。
去年の春。
初めて写真部で出会った日。
桜並木。
夏祭り。
文化祭。
冬のイルミネーション。
そして、この夏の再会。
一枚ずつ写真を貼るたび、
その日の出来事が鮮明によみがえった。
*
スマートフォンが震える。
グループチャットだった。
蓮
《暇な人ー!》
美桜
《宿題終わってない人ならいる🙋♀️》
紬
《私もレポートに追われてる…😂》
湊は思わず笑う。
《俺も課題終わってない。》
すぐに蓮から返事が届く。
《よし、全員仲間だな!》
画面越しなのに、
四人で集まっているような気分になった。
*
夕方。
アルバムを見返していると、
一枚だけ写真が足りないことに気づく。
空白のページ。
去年の夏祭りの集合写真を貼るはずだった場所だ。
「あれ……?」
机の引き出しを探しても見つからない。
そのとき、スマートフォンに通知が届いた。
紬から一枚の写真だった。
それは去年の夏祭り、四人で撮った集合写真。
《これ探してるかなって思って。》
湊は思わず吹き出した。
《なんで分かったの?》
《なんとなく。神崎くん、そういう顔してそうだったから。》
画面越しでも伝わるような返事に、
自然と笑みがこぼれる。
羊と亀のお遊戯会
15
羊と亀のお遊戯会
357
#四角関係
柿の木七味
208
#創作
クラリス
1,739
*
数日後。
写真部では夏休み中の自由撮影会が開かれていた。
新入部員たちも、それぞれ撮った写真を持ち寄る。
「先輩、この写真どうですか?」
一年生が見せてくれたのは、
公園で手をつないで歩く祖父と孫の後ろ姿だった。
「いい写真だね。」
湊は微笑む。
「表情は見えないけど、二人の気持ちが伝わってくる。」
その言葉に、一年生は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます!」
去年なら、こんなことは言えなかった。
誰かに写真の楽しさを
伝えられるようになった自分に、少しだけ驚いた。
*
その日の帰り道。
夕焼けが街をオレンジ色に染めていた。
湊は歩道橋の上で立ち止まる。
ふと見上げると、
一羽の鳥が夕焼けの空を横切っていく。
カシャッ。
シャッターを切る。
画面の中の鳥は、
小さくても力強く羽ばたいていた。
「俺たちも、少しずつ前に進んでるんだな。」
そう呟きながら、湊は空を見上げた。
📷 Photo.039『未来へ続くページ』
撮影日:8月16日
思い出は、
アルバムの中だけじゃ終わらない。
今日という一日も、
また新しい一ページになる。
コメント
4件
ありがとうございますー!
いいね…!第39話、じんわり沁みたわ。 湊が自分のためのアルバムを作ってるシーン、去年の記憶がよみがえってくる感じがすごく良かった。 紬から送られてきた写真も「これ探してるんじゃない?」って心読まれてるみたいで、ああいう距離感がたまらん。 最後の写真部の後輩とのやりとりで「気持ちが伝わる写真」って言葉が出てきたのも、湊の成長を感じたし、夕焼けの鳥の写真から「未来へ進む勇気」がちゃんと映像で伝わってきた。 M.Sさんの描く“静かな温かさ”が詰まった回だった☺️