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むか〜し昔のことだった。権現谷のキツネが里まで降りて来ては村人にイタズラをして、たいへん困らせていたそうだ。
ある日、村の若者が歩いていると、川のたもとにキツネがいた。若者はキツネをこらしめてやろうと思い、落ちている石を拾って、キツネめがけて力一杯投げつけた。
すると、石はキツネに見事に当たり、キツネは驚いたのと痛いので、「ケンケンケ〜ン!」と泣きながら、どこかへ逃げて行った。
若者は誰かに自慢してやろうと思いながら、得意げになって家に帰っていった。
数日後、その若者が町まで台車を引いて荷物を運んで、夕方に帰ってきた。すると、途中の橋のたもとで若い娘が泣いている。
どうしたのか?と聞くと8里先の町まで行くつもりだったが道に迷い、疲れて歩けなくなった。日も暮れるし身寄りもないし心細くなって泣いていたというのだ。
若者は、娘の話を聞いて気の毒になって、それなら今夜はうちに泊まってゆっくり休んでいきなさい。疲れて歩けないなら空いた荷車に乗って行け。と、親切に声をかけてやった。
娘は好意に甘えて泊めてもらうことにした。
ところが、
台車にちょこんと乗るときに、着物の裾からチラリと尻尾が見えた。
若者はすっかり気が付かない振りをして、素知らぬ顔で娘を連れて帰った。
それは昔の話なので古い家には囲炉裏というものがあった。若者は家に着くと、娘を囲炉裏の側に寄せて座らせて、火を起こしてから鍋でもって温かい食べ物の用意をし始めた。
炭の火がまわると若者は素知らぬ顔で、先が真っ赤に焼けた火箸を、娘の尻にジュっと押し付けた。
よっぽどびっくりしたのだろう。娘は「ケ〜ン!!」と大きな声でひと鳴きして飛び上がり、クルリっと舞うとキツネの姿に戻ってしまった。
そして、若者の家を飛び出して、どこかへ逃げて行ってしまった。
その次の日、橋の近くのどこかでヤケドした尻を川面に浸けながら、悲しげに歌うキツネの声を、何人もの村人が聞いたそうな。
むか〜し、ぽっこり。お話はこれでおしまい 👵✨