第壱話:水に願いを.
俺、祗園白[ギオンハク]夏留土[かるど]は牛の刻に昼寝をしている。
縁側で寝ていると、もう夏が近いのに、心地良い春風のようなものが吹いてきた。
ふわりと髪が流されて、目が覚める。目を開くと目の前に一人の女性[ニョショウ]が居た。驚いて起き上がると、女性はぐぅと腹の虫を鳴らした。
どうやら、腹が減っているようだ。
夏留土「あの~、何か召し上がりますか…?」
?「お”ね”がいしま”す”ぅぅう”」
鼻水を垂らして泣いていた。
夏留土「どうぞ、…」
?「…はむ、はむ、」
数秒後には口がいっぱいになっていた。
?「…おいしぃです。」
?「危うく、餓死するところでした。」
夏留土「そ、そんなに…」
夏留土「どうしてですか?」
女性は唾を飲み込むと、呆れたような態度で話を始めた。
?「”祇園白神社”を探していて…なのに、一ヶ月探し回っていたんですが見つからなくて…これが4日ぶりのご飯です…」
聞き覚えのある神社名。
夏留土「ぎおんはくじんじゃ…ここ、です…」
?「ええっっ?!こ、ここ…?」
夏留土「そうです。」
?「やったぁぁぁあ!!」
夏留土「どうして、ここを?…あ、」
数ヶ月前、弟子入り願書が届いていたのを思い出した。すっかり忘れてしまっていた。
女性は喜びのあまり、畳の上を飛び跳ねていた。
?「私、私__」
衣麻琉「有水[ウスイ]衣麻琉[イマル]と申します!!」
るな「字は瑠那[ルナ]です、よろしくお願いしますっ!!」
どぬく「俺は、祇園白夏留土。字はどぬくだよ」
るな「夢みたいです!宇迦之御魂神[ウカノミタマノカミ]である人と働けるだなんてっ」
どぬく「そういう君だって、瀬織津姫[セオリツヒメ]の娘さんじゃないか」
るな「お母さんですけど…身近にみると実感無いもので…」
どぬく「そっかぁ、そりゃそうかもね。」
失笑して、縁側の外をに視線をやった。太陽が南の空高くに昇っていた。照りつける日光が室内を暖かくしていた。
数週間経ってから、るなと剣術の稽古をしていると、梟が一匹,一枚の紙を掴んで飛んできた。
木々の間をするりと抜けてから、鳥居をくぐり、回ってこちらに向かってきた。
石畳の上を優雅に飛んでいた。
どぬく「ありがとう。…手紙?」
梟がまるで人間みたいな返事をした。
るな「かわいいですね!おいでー」
そう言った瞬間、るなの肩に飛び乗った。
るな「名前はなんですか、梟さん」
名前は____
どぬく「北の村からだ…」
どぬく「こんな、春の最中なのに…なぜ、」
るな「えへへぇ、立派な足ですね!」
行かなければ。
北の村に妖魔が来てしまった。
妖魔は基本春に現れない。冬眠ではなく春眠というものをするのだ。人の動きが、活発でないため襲う機会がすくないからだ。
るな「険しい顔ですね…」
どぬく「荷物をまとめて、すぐ出よう。」
どぬく「そんなに遠くない。一日歩けばつく。」
るな「おにぎり握ってきます!!」
どぬく「ねえ____これ、____に届けて」
どぬく「ごめん。大変かもしれない、」
梟は少し腹立った様子で爪をたててきた。
どぬく「ごめんごめん(笑)」
どぬく「俺も、早く行かなきゃ。」
どぬく「何人死ぬかわからないから…」
梟は心配そうな顔をした。
狼のような巨大な妖魔だった。
妖魔は鋭い爪を振り上げて、襲いかかってきた。
身をよじってかわし、刀を振り下ろした。
固い体に刃が食込みづらい。血が跳ね返って白い小袖が紅く染まった。
るな「えいッッ!」
るなの刀が見事に妖魔の左腕を切り落とした。
るな「うわぁぁぁっ!!」
どぬく「るなッ」
るなは吹き飛ばされて、背後の大木に叩きつけられた。
怒り狂った妖魔は残った右腕で大地を叩き揺らした。どす黒く変色した切り傷が目に写った。
また、刀を振るとよろけて妖魔が轟音を鳴らして転んだ。
その瞬間渾身の力で背中側から首をはねた。痙攣した目玉がごろんと片方出てきた。
るな「い”っだあぁいッ…どぬくさん大丈夫ですか?」
どぬく「うん。るなは?」
るな「背中がいたいですぅ」
落ち込んだような姿が、なんだか面白かった。
どぬく「あまり、被害が大きくなくてよかった。死人もいないらしいし、」
るな「すごいですね、こんなのから逃げれたなんて。この村は運動神経の高い人ばかりですね」
どぬく「だね(笑)…帰ろっか。」
るな「はい、お腹空きました。帰って楤の芽の天婦羅が食べたいです。」
どぬく「いいね、お腹空いてきた」
るな「ですよね~」
破れた袴から入る夜の空気は少し冷たかった。湿り気の多い空気だった。
今年も夏が始まろうとしていた。
神社に戻って、服を洗いに川へと向かった。
神社の本堂の近くには小さい川がある。小さいながらも川魚が多い透き通った綺麗な川だった。
山から流れる水はひんやりとしていた。
どぬく「ん?」
るな「どうぞ、妖魔の犯した罪を許し給る。」
川の中で合掌していた。
どぬく「なにしてたの?」
るな「瀬織津姫に祈っていたんです。」
どぬく「なるほど、」
るな「瀬織津姫は、罪を海に流してくれます。あの妖魔も、苦しかったでしょうから…せめて許してもらえればと思って。」
どぬく「お母さんにお願いしてたってこと?」
るな「そうです。水に願いを込めていました」
るな「お洗濯ですか?手伝います!」
どぬく「ありがとー!助かるー」
洗濯桶に冷たい川水を入れて小袖の血をこすった。袴はだめになっていたから買い直した。
るな「刀も血脂で汚れてます…」
どぬく「俺も…めんどくさいなぁ」
るな「大変ですね、」
どぬく「ほんとだよぉー」
るなはくすくす笑っていた。
吹き乱れる風はなんだか血の匂いがした。
第壱話:水に願いを. [完]
コメント
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は、初コメ失礼します!
ごめんなさい( _ _) 三本投稿無理でした…