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「……理沙? そろそろお帰りになられた方がいいですよ」
三日月からそう声をかけられたのを、おぼろげながら覚えている。
どうやら私は、いつの間にか酔い潰れてお店のソファーで寝落ちしてしまっていたらしく、はっきりとした記憶がまるでなかった。
「いい加減に、起きろよ…」
ふと低い声が耳に入り、続けて体が揺すり上げられた感覚に、ぼんやりと閉じていた瞼を開いてみると、なぜか広い背中が目の前にあった。
「あ…れ?」
一体どういうことなのかがすぐにはわからずに、ぽかんとしていると、
「……起きたのかよ?」
銀河が、肩越しに顔を振り返らせた。
「えっ、銀河……? っていうことは、もしかして……」
酔っ払って思考能力の鈍る頭をにわかにフル回転させた私は、今自分がどこにいるのかをようやく理解した……。
──まさかのおんぶだということに気づいて、
「ちょ…ちょっと、下ろして…!」
咄嗟に背負われている背中を両手で叩いた。
「おいこら、やめろって! 暴れるなっ!」
銀河がずり落ちかける私をしょい直す。
「タクシーで帰そうとしたはいいが、おまえが酔っ払ってちっとも起きないんで、ここまで付き添ってきたんだ。どうせ一人じゃ歩けやしないんだろうし、部屋までおぶっていってやるから、おとなしくしてろや」
事情を知らされると申し訳なさに返す言葉もなくなって、私は銀河の背中にぽすっともたれかかると、
「ごめんなさい……迷惑かけて……」
と、うつむいて小さく呟いた。
「いいって、こういうこともたまにあるしな。俺も、仕事だからな…」
「仕事……」
“仕事”という事務的な言い方が、どうしてだか胸にチクッと突き刺さるようにも感じられた。
「ああ、それと住所がわからなかったから、悪いが財布とか見せてもらったからな…」
「ああ、うん…」
自分の不甲斐なさを呪いつつ、なんでいちいちこの男の言葉なんかに惑わされているんだろうと思う。
(仕事だろうと、なんだろうと、どっちだっていいじゃない……)
もやもやとする頭の中を振り払うと、銀河のスーツの背に心地良く揺られる内に、私はそのまままたうとうとと寝入ってしまった……。