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すると、お姉さんは僕の頭をぽんと撫でて
「また近いうちに来るから、そのときはまた2人の惚気聞かせてね?」と、いたずらっぽく笑った。
こういうところ、岬くんと似てて本当に姉弟なんだなぁと思わされる。
僕が「は、はい!」とぎこちなく返事すると、彼女は満足そうに玄関を出ていった。
廊下の向こうで扉が閉まる音がして、再び部屋には僕と岬くんの二人きりになった。
さっきまでの賑やかな空気が嘘みたいに静かになり、二人の間に漂う
甘く優しい空気に、僕の心臓がまたドキドキと音を立て始める。
「朝陽くんさ、もう遅いし今日は泊まってく?」
そんな僕の心を見透かしたように、岬くんが優しい声で提案してくれた。
「え、うん!と…泊まりたい!」
僕の声は、少し上ずっていたかもしれないけれど、喜びでいっぱいだった。
何気に初めてのお泊まりだ。
一気に高揚した僕の心は、さっきまでの不安が嘘みたいに元気になっていた。
それから、二人でシャワーを浴びて、パジャマを借りてリビングに戻る。
少し大きめのTシャツに、裾をまくったスウェット。
慣れない格好に少しそわそわしながら、岬くんが用意してくれたお茶を飲んだ。
さっきまでの真剣な話が嘘みたいに、穏やかで他愛のない時間が流れていった。
そんなとき、岬くんが口を開いた。
「てかさ、朝陽くん…別れたいってのは取り消しでいいんだよね?それとも本当に別れちゃう?」
「えっ!?……やだ、別れたくない、あれは本当に、テンパって言っちゃっただけだから…っ」
僕は慌てて否定する。
ついさっきまでの自分の行動が思い起こされて、猛烈に恥ずかしくなる。
「みさきくんは僕の人だもん…」
すると、岬くんは少し驚いたように目を丸くしてから
「ふはっ……うん。そうだね?俺は朝陽くんのだからね?」
そう言って、くしゃりと笑ってくれた。
その笑顔があまりにも眩しくて、僕は思わず顔を覆ってしまった。
「……って言っても…朝陽くんも俺だけのものだから……」
岬くんが独り言のように呟いて
「みさきくんなにか言った?」と聞き返す。
「や、なんでもない」とごまかす彼が、少し照れているみたいに見えた。
◆◇◆◇
PM11時───…
「もうそろそろ寝よっか」
岬くんがそう言って、立ち上がった。
僕は、このまま離れてしまうのが寂しくて、思わずぽつりと呟いた。
「みさきくん……僕、一緒のベッドで寝たいな」
そう言うと、岬くんは少し驚いたように僕を見たけれど、すぐにふっと微笑んでくれた。
「いいよ、おいで」
そう言って開け放たれたベッドルームのドアをくぐり、僕はぎこちない足取りでベッドに潜り込んだ。
隣に岬くんがいる。
その事実だけで、全身の血が熱くなっていくのを感じる。
僕は緊張で身体が強張り、まるで置物になったみたいに微動だにできなかった。
そんな僕の様子に気づいたのか、岬くんが僕の方を向いて、優しい声で尋ねてきた。
「朝陽くんってさ、俺とキスしたいって思ってくれてるの?」
「えっ、そりゃあ…もちろん」
あまりにも不意打ちの問いかけに、僕は顔を真っ赤にしながらも、精一杯の強がりでそう答えた。
「そっか。でもさ、俺と初めてキスしたときのこと覚えてる?」
「え?うん、覚えてるけど…」
初めてのキスの感触が、鮮やかに脳裏に蘇る。
あの時、僕はどうしていいかわからなくて、まるでフリーズしたみたいに固まってしまったっけ。
「そんとき朝陽くん、ビクッてして耳まで真っ赤だったからさ…もっと深いキスなんかしたらこの子死んじゃうんじゃないかなぁとか思ってたんだよね」
そう言って、岬くんはふふっと楽しそうに笑った。
その屈託のない笑顔が、僕の心をまたくすぐる。
「なっ、そんなキスぐらいで大袈裟すぎるよ!いくら僕だってそのぐらい余裕だよ?」
僕の口から出たのは、意地っ張りな強がりだった。
違うんだ。
本当は、岬くんとキスするだけで、嬉しくて
ドキドキして、僕の心臓は今にも破裂しそうなのに。
「ふーん。じゃあ今してもいいんだ?」
「い、今?!」
「うん、だって、余裕なんだもんね?」
僕の言葉を真に受けたように、少し意地悪な声でそう言ってくる。
僕はもう、どうすればいいのか分からず、顔どころか、首まで真っ赤になっているのが自分でもわかった。
「そ、それは……っ、」
言葉に詰まって、俯いてしまう僕の様子を見て、岬くんはまたふふっと笑った。
「ふふっ、じょーだんだよ、早く寝よっか」
そう言って、岬くんは僕から少し顔を離して、仰向けになった。
ああ、またいつものように気を遣わせてしまったかもしれない
そう思うと、僕の胸に秘めていた小さな勇気が、むくむくと湧き上がってきた。
僕は、岬くんの言葉に意地を張ったわけじゃない。
(僕だって、岬くんと前に進みたい…)
僕は、思い切って身体を起こし、横から不意打ちで、岬くんの頬にちゅっとキスしてみせた。
「っ?!」
突然の僕の行動に、岬くんは驚いたように目を見開き、そしてゆっくりと横を向いた。
「僕もしたいって…意思表示……っ、みさきくんにまだ、寝て欲しくない…んだけど」
岬くんを見上げて、真っ赤に染まった顔。
僕の精一杯の強がりと、寂しさを込めた言葉。
そんな僕の顔を見た岬くんは、みるみるうちに顔を赤くして、僕をじっと見つめていた。
「……っ、先に煽ったのは朝陽くんだからね…?」
低く、甘い声でそう囁くと、岬くんは僕の頭をガッと
でもすごく優しく掴んで、僕の唇を奪った。
「っん……!ふ、ぁ……んんっ」
僕の唇を貪るように、岬くんの舌が僕の口内を蹂躙していく。
僕は、その激しいキスについていくのがやっとで
息も絶え絶えに、必死に岬くんの舌に応えようとする。
でも、そんな僕を嘲笑うかのように岬くんは僕の舌を吸い上げては、歯列をねっとりとなぞっていく。
そんなキスだけでもう僕は頭が真っ白になりそうで、思わず岬くんの胸元にしがみついた。
そんな僕に答えるかのように、岬くんは僕の頭と腰に手を回して、更に深く、深く口付ける。
「っん……ふ、ぁっ……ん」
「ほーら、ちゃんと息継ぎして」
くちゅくちゅという水音が部屋中に響き渡って、僕は恥ずかしくて思わず顔を横に逸らす。
でもすぐに岬くんに引き戻されてしまい、また深いキスが繰り返される。
「……っは、あ……んっ……」
やっと唇が離れた時には、僕は息も絶え絶えで、身体に全く力が入っていなかった。
そんな僕をゆっくりと押し倒して見下ろすと、岬くんは耳元にそっと息を吹きかけてきた。
「ほんっとに可愛い、大好きだよ……朝陽くん」
いつもよりもずっと低い声で囁かれると同時にまた唇が重なって
僕の口の中に広がる、岬くんの柔らかい感触。
僕の心を包み込むような、深く、甘いキス。
ビクビク震えて反応してしまう自分が情けなくて涙が出てくる。
「泣かないで…大丈夫だから、ね?」
そんな僕を安心させるように優しく頭を撫でてくれるのが嬉しくて
僕はもう、気持ちよさに抗うこともできず、身体の力が抜けていくのを感じた。
心臓がトクン、トクンとゆっくりと、でも確かに幸せを刻んでいる。
気がつけば、僕は蕩けそうな顔をしていて、目尻には涙が滲んでいた。
その夜、僕たちは何度も何度もキスを交わした。
一つ一つが、僕の不安を打ち消し、岬くんの愛を教えてくれるようだった。
僕は、岬くんの温かい腕の中に抱きしめられながら、優しいキスの余韻に浸り
この上ない幸せな気持ちに満たされて眠りに落ちた。
コメント
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こんにちは、今少し話せますか?