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翌朝、どうにもジッとしていられず、蓮は早々に家を出る事にした。
冷たい風を感じ、コートの襟を寄せると、マフラーを巻き付けて歩き出す。
空はどんよりと曇っていて、雪でも降り出しそうな寒さだ。こんな日に外に出るのは億劫だったが、家の中に居ても気分が落ち着かなくて仕方がなかった。
こんなに早くスタジオに着いたってすることが無いのはわかっている。それでも、もしかしたらナギに早く会えるかもしれない。なんて年甲斐もなく淡い期待を抱いてしまう自分が居て、思わず苦笑してしまう。
家まで行ってみようかとも思ったが、用事もないのに行くのは流石に憚られるし、変に思われるのも嫌だったのでやめておいた。
時間まで筋トレでもして過ごせばいいだろう。もしかしたら雪之丞がもう来ているかもしれない。
彼とは未だにギクシャクした関係が続いているが、東雲から預かったキーワードを彼に託さなくてはいけない。
メッセージアプリで送ることも考えたが、自分たちの関係性を考えるとそれでは一層距離が出来てしまうような気がして、直接話すことに決めていた。
今日は朝からずっと撮影で忙しいだろうから、休憩中にでも話せるといいのだが。そんな事を考えながらスタジオ入りすると、案の定、スタッフ達が慌ただしく準備に追われている所だった。
「あれ? 蓮さん今日は随分早いんですね。おはようございます」
そう言って声をかけて来たのは、裏方時代に一緒に仕事をしていた真柴だった。
彼は昔からADスタッフとして現場に出入りしていて、蓮の事も昔から知っている数少ない人物の一人だ。
単純な性格をしているが裏表が無く、人懐っこい笑顔で接してくれる為、蓮も彼の事は嫌いではなかった。
「あぁ、おはよう。なんだかじっとしてられなくてね」
「へぇ、蓮さんもそんなこと思うんですねぇ」
「まぁね。たまにはそんな日もあるよ。それより、僕意外はまだ来ていないのかな?」
「棗さんがいらしてます。早朝からスタッフルームに籠って今週分のCGの作成中みたいで」
そう言って真柴は苦笑を浮かべ、スタッフルームの方角へと視線を移す。
「棗さん凄いですよね、朝早くから夜遅くまで自分の仕事じゃないのに文句の一つも言わずにやってくれて。役作りだって大変なのに……。撮影がおして夜中になった時でも泊まり込みでやってくれたり、オフの日も休日返上で作業してくれているんです。そろそろオーバーワークになるんじゃないかって、スタッフ皆心配してるんですよ」
そう言う真柴は困ったように眉を寄せた。
あの日以来撮影以外の話しは全くできていなかったのだが、まさか自分がオフで呑気に東雲と話をしている間、雪之丞は一人で作業をしてくれていただなんて想像もしていなかった。
ここ最近は、通常の撮影に加えてお正月用特番などの収録を入れ込んだりすることも多く、帰りが深夜を回ることも珍しくなかった。早朝から夜遅くまで撮影に参加し、その後でCGの調整を一人で頑張ってくれていただなんて。確かに最近、雪之丞は疲れているように見えた。
けれど、それは、自分との関係がギクシャクしているのと、詰め込まれた緻密な撮影スケジュールのせいだと思い込んでいたのだが、まさかそんな事情があったとは。
グラフィック関係をほぼ押し付けるような格好になってしまって申し訳ないと思っていたのだが、まさかそこまで無理をしていたなんて露ほども思っていなかった。
「中に入れるかな? 雪之丞に渡したいものがあるんだけれど」
「置いてある書類などに触れなければ、大丈夫だと思いますよ?」
「そうか。ありがとう」
真柴に礼を言うと、蓮は足早にスタッフルームへと向かった。
ドアを開けると、そこにはPCに向かって黙々とキーボードを打つ雪之丞の姿があって、蓮は一瞬躊躇したが意を決して声を掛けることにした。