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「……雪之丞」
「ふぁあ……って、れ、蓮君!? え、ごめっもうそんな時間だった!?」
丁度伸びをしたタイミングで後ろから名前を呼ばれ、驚いたのだろう。椅子をガタンと鳴らして振り返った雪之丞は、焦った様子で時計を確認をする。
時刻は6時30分。集合時間まではまだまだ時間は沢山ある。
「すまない。気を散らせてしまったかな? 実は、いくつか試して貰いたいコードがあるんだ。上手く行けば、ロックが解除できるかもしれない」
一体何時からやっているんだろう。色々と聞きたい事はあったが、まずはコッチが先だと東雲から貰ったパスワードをそっと雪之丞に差し出すと、どういうことかと紙と蓮を交互に見比べ訝し気な表情を見せる。
「……これ、なに?」
「見ればわかるだろ。この間バーで会った探偵が調べてくれたヒントだよ。この中のどれかが当て嵌まるだろう。ってさ」
紙には、二人の誕生日の他に、アルファベットと数字を組み合わせたような文字列がいくつか書かれている。
一体どうやってこんな複雑な文字列を手に入れたのか聞いてみたが、それは企業秘密だと言って教えてはくれなかった。
「……まぁ、一応やってみるよ。解除されたら作業もだいぶ楽になるし」
半信半疑と言わんばかりの表情を浮かべながら、紙を受け取ると雪之丞はパソコンに向き直り流れるような速さでコマンドを打ち込んで行く。
パソコンの前に居る時の雪之丞は眼鏡を掛けていて、普段自分がいつも見ている彼とはまるで別人のような雰囲気を醸し出している。
アクターとして一緒に仕事をし始めてから随分経つが、こうやってデスクワークをしている姿を見るのは初めてで何となく新鮮な感じがする。
一つ、また一つと試していくがどうにも上手くいかないのか、雪之丞が諦めにも似た溜息を吐いた。
(東雲くーん!!、マジかよ。全滅って事はあり得るのか!? そんな事一言も言って無かったのに)
「……次でラストだよ」
「あ、ぁあ」
雪之丞の言葉に、思わず息を呑む。ゆっくりと打ち込まれていくのは一番最初に東雲が教えてくれた二人の誕生日を組み合わせたシンプルな数字の羅列だった。
「……あ……っ」
最後の文字を打ち終わり、エンターキーを押した途端。画面上で今までびくともしなかったロボットが急に動き出し迫力のあるエフェクトと共に必殺技が炸裂した。
「やった! 蓮君、動いた! 動いたよ!!!!」
興奮した様子で立ち上がり、蓮の手をギュッと握りしめて喜ぶ雪之丞は、ハッと我に返ったのか急に手を離し、ごめん。と眉を寄せて切なげに謝った。
「雪之丞……」
「ご、ごめん。つい嬉しくて。蓮君は全然悪くないのに、俺、なんか、その、変な反応してごめんね」
そう言って、今度は少しだけ寂しげな笑みを浮かべる。
「謝るなよ。僕達友達だろ? 嬉しい時は素直に嬉しいって喜んでもいいんじゃない? 僕も、この目で見れて凄く嬉しかったし。それに、最後のパスワード迄違ってたらどうしようって凄く不安だったから」
「……っ、友達……。そっか、そう……だよね」
蓮の返事に、何故か雪之丞は酷く傷ついたような顔をした。どうしてそんな顔をしたのかわからず戸惑っていると、雪之丞は誤魔化すように笑顔を取り繕う。
「そう言えば蓮君、今日は早いね。何かあったの?」
「いや、何かあったとかじゃないんだ。早くその紙を雪之丞に渡したくってさ」
ナギに早く会いたかったから。と言う本音は飲み込みつつ答えると、雪之丞の頬に赤みがさすのがわかった。
「そ、そうなんだ。……ありがとう」
「うん。それじゃあ僕は戻るよ。まだ準備もあるしね」
「あ、そうだね。引き留めてごめん」
「いいよ。雪之丞の顔も見たかったし」
「~~っ、そう言う事サラッというのやめてよ。恥ずかしいから」
最悪。と、口を尖らせて複雑そうな顔をする雪之丞にまた後でと、挨拶をして部屋を出る。
更衣室へと向かう間、何気なくメッセージアプリを開いてみるがナギからの連絡はなく。蓮は少し残念に思いつつスマホをポケットに仕舞った。
#せっ