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アルメリアは感銘を受けた。なぜなら王太子殿下が同じ立ち位置にいる王族以外の人間をライバルと認めたからだ。それは地位や立場に関係なく、国を支える者同士として、お互いが相手を認めあっているということに他ならない。そう考え、思わず満面の笑みになった。


「地位や立場を超えてライバルと言い合えるのは、本当に素晴らしいことですわね」


その言葉に、ムスカリとアドニスは顔を見合わせ苦笑した。そしてアドニスが口を開く。


「私たちがこうして団結していられるのは、貴女のお陰でもあるのですよ」


そう言うアドニスをムスカリは制した。


「アドニス、それ以上言うのは野暮というものだ。さぁ行こう。もう時間がない」


二人はそう言ってアルメリアに軽く微笑むと、部屋を後にする。アルメリアはそんな二人の後ろ姿を見送ると、胸を撫で下ろした。完全に油断しているときにムスカリが訪ねてきたので、どうなることかと思ったがなんとか対応できたようだった。


ほっとしてそのままソファに座ると、リカオンがやってきてアルメリアに言った。


「お嬢様、少々厄介なことになりましたね。本当に殿下は明日、こちらにいらせられるのでしょうか?」


「さぁ、どうかしら。私はあの会話を悪ふざけのように感じましたわ。売り言葉に買い言葉で言っただけではないかしら? だから、本当に殿下がこちらにいらせられるとは、考えられませんわ」


するとリカオンはいつものように呆れた顔をした。


「お嬢様は楽観的過ぎます。控え室で会話を聞いていてわかりました、あのお二方は本気ですよ」


アルメリアはその意見に懐疑的であった。なぜなら、殿下が毎日アルメリアの執務室に通う意味がないからだ。今日の婚姻に関する話し合いがなければ、ムスカリはアルメリアを落とすために毎日執務室へ通ったかもしれないが。そんなことを考えていると、リカオンが突然はっとして言った。


「それにしても、あの会話の中に僕の名が上がっていたのには納得いきませんね。言っておきますが、僕は違いますから。安心して下さい」


そう言うとリカオンはにっこりと微笑んだ。そう言われても、アルメリアはなんのことだか意味がわからなかった。とりあえず話の流れから読み取って、当たり障りのない返事をすることにした。


「大丈夫ですわ、私は貴男を信じてますから」


そう答えると、リカオンは苦笑し押し黙ってしまった。

アルメリアはなにか不味いことを言ってしまったのだろうかと思いつつも、フォローしようがないのでそのままにした。



ペルシックに昼食を取るよう促され、ゆっくり昼食を取り食休みした後、午後から城内の見回りに出かけた。

天気がよく、暖かい気候で気持ちが良かった。すれ違う兵士たちに挨拶をすると『いつもありがとうございます』や『今日はお見えにならないかと思いました』『今日もお顔が見れて嬉しいです』と、次々に声をかけられる。

相談役に任命され、ここに通うようになり三ヶ月がたち、顔を覚えてもらえていることを嬉しく思いながらゆっくり歩いた。

午前中は忙しくすごし、正直少し疲れてしまっていた。午後は見回りとお茶の予定しか入れていなかったし、そのお茶の時間も誰も訪ねて来る予定はなかった。なので、お茶の時間に先ほどのできなかった絵本の製作に取りかかることにした。

アルメリアはなにか物を作ったり書いたりすることが好きだったので、絵本作りは良い息抜きだった。


ところが執務室へ戻ると、ペルシックからスパルタカスが訪ねてきていると報告があり、アルメリアは絵本作りは完全に諦めることにした。

お茶の時間は余程のことがない限り、誰が来てもドローイング・ルームへ通すようにペルシックにはあらかじめ伝えてあるので、スパルタカスはすでにそこで待たされていた。


「爺、では人数分のお茶をお願い」


そう言ってドローイング・ルームへ向かうアルメリアに、リカオンがまた呆れ顔で面倒くさそうに意見する。


「お嬢様、今日は忙しかったことですし、こんな日はスパルタカスに付き合う必要はないのでは?」


アルメリアは、諭すように言った。


「リカオン、私は相談役を仰せつかっておりますの。それなのに、執務室へ訪ねて来る者を拒むことはできませんわ。それが例え仕事の話でなく、お茶の誘いであってもです」


なおも不満そうな顔で、リカオンは反論する。


「お嬢様、そういったことでありません。僕はお嬢様が忙がしすぎなのが気に入らないだけです」


「ありがとう、大丈夫よ。本当に辛くなったらきちんと断りますわ」


「だと良いんですけどね」


そう返すとリカオンは、大きくため息をついた。


部屋に入るとスパルタカスは立ち上がり、アルメリアに一礼した。


「スパルタカス、とても久しぶりですわね」


アルメリアが声をかけると、スパルタカスは頭を上げて眩しそうにアルメリアを見つめ、笑顔で答える。


「はい、ご無沙汰しておりました。本日の午前中にこちらに戻って来たのですが、挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」


アルメリアは首を振る。


「そんな、戻ってこられてすぐの、一番忙しいときに挨拶をしにくる必要なんてありませんわ。こうして時間のあるときにお顔を見せてくだされば十分でしてよ?」


「そのように言っていただけるとは、嬉しいです。それで……本日はお茶をご一緒にと思いまして、いかがでしょうか?」


その誘いにアルメリアは微笑んで頷いた。


「もちろん喜んで」


そう言って、スパルタカスの正面のソファに腰かけた。

スパルタカスも座るのを待って、お茶が運ばれてきたところでお互いにひとくち飲むと、アルメリアは口を開いた。


「スパルタカス、王太子殿下付きになったと城内の兵士から聞きましたわ。それで忙がしくしていたんですのね。凄いですわ、今までの働きが認められたということなのでしょうね」


ゲーム内でも、王太子殿下の騎士はスパルタカスだったのを思い出していた。彼も攻略対象だったが所謂隠しキャラというやつで、一度王太子殿下のイベントを全て出した上でクリアしてからでないと、スパルタカスのイベントが発生せず、しかもそのイベント発生条件すら厳しいので、攻略難易度が高かったキャラだった記憶がある。

やはり、ヒロインの周囲に攻略対象が集まってゆくものなのだと、そんなことを考えながら微笑んでスパルタカスを見つめていると、スパルタカスは苦笑し躊躇いながら言った。


「いいえ、私が殿下の側へ召し上げられた理由は、実力とかそういったものではなく、恐らく私が閣下と知り合いなので抜擢されたのだと、そう思っております」


「私となんの関係が?」


と、その返事を聞く前に背後から声がかかる。


「やぁ、久しぶりだねアルメリア」


アルメリアが振り向くと、そこにリアムが立っていた。どうやらペルシックがリアムを部屋に通したようだ。


「リアム、お久しぶりですわね。貴男も城下へ戻られてましたのね」

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