テラーノベル
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夜7時を過ぎた頃、 俺の部屋がノックされる。恋人が来た合図だ。
「おはよう…てのも変か、いらっしゃい…も変か。」
俺はドアを開けながら、目の前の恋人を招き入れる。俺の恋人は、くすくすと笑って、なんでもいいよ、と言った。
「ねぇ、俺も、リョーカって呼んでいい?」
俺は、元貴だけ呼び捨てにしているのがずっと癪だったのだ。ベッドに腰掛けて、俺が聞くと、ふふっと笑った。
「なに滉斗、大森くんにヤキモチ妬いてる?」
「妬いてるー。」
「ホント素直で可愛いね〜、滉斗は。」
リョーカさん、じゃなくて、リョーカが俺に抱きつきながら隣に腰掛ける。いやいや、可愛いのはそちらです。
「今日は、何する?」
「んー、リョーカさ…リョーカは何がしたい?」
「たまには、外にお出かけ行ってみようか。」
「いいね、もうすぐお店もしまっちゃうし、早く出よう。」
「あ、待って、まだ…。」
リョーカは、ドアの向こうを気にする。元貴がまだ家から出ていないのか…と俺は、立ち上がりかけた腰をベッドに落ち着ける。
そう、俺たちは、藤澤涼架の身体を軸にして、俺とリョーカ、元貴と涼ちゃん、という2組のカップルとして同居している。
こんな奇妙な関係は、あの日から始まった。
ある日の夜、涼ちゃんがどこかへ出かけていった。
俺は久々の1人時間を羽を伸ばして満喫していた。別に、涼ちゃんとの同居が窮屈ってわけではないけど、やっぱ人がいる生活ってのは気を遣うもんだ。適当に食事を済ませて、先に風呂に入ってから、楽しみにしていたお笑い番組を観ることにした。
俺がソファーに座り、テレビを見ていると、涼ちゃんが帰ってきた。玄関で物音がしたのに、なかなか入ってこない。
「涼ちゃーん?おかえりー。」
俺が玄関に向かって声をかけると、しばらくしてゆっくりとドアが開いた。涼ちゃんが、俺を丸い目をして見ている。なに?なんかついてる?
「どしたん?」
「え…いや…、た、ただいま…。」
「おかえり。」
それから、視線を彷徨わせて、なんだか落ち着かない様子の涼ちゃん。
「なに?どしたのホント。なんかあった?」
「いや!…ううん、別に。」
俺は首を傾げながら、お風呂沸いてるよ、とだけ告げた。涼ちゃんは、ありがとう、と小さな声で言って、自室へと消えていった。
なんなんだ?元々変だけど、今日は輪をかけて変だな。ま、いっか、と俺はテレビの続きに集中した。
涼ちゃんが風呂から上がり、冷蔵庫から飲み物を取って飲んでいるようだ。俺はなんだか、後ろからの視線を感じたが、気のせいだろうと放っておいた。
「…面白い?それ。」
不意に、背後から涼ちゃんの声がする。俺は振り返って、少し違和感を持つ。なんか、今日の涼ちゃんやけに色っぽいな…。いや何考えてんだ俺。
「うん、俺これ好きなんだよね。」
「ふぅん。一緒に観てもいい?」
「へ?どーぞ?」
涼ちゃんは静かに微笑んで、遠慮気味に俺の隣へ座った。なんだろ、いつもなら、何観てんのー?とか言って勝手に横に座ってすぐ俺よりバカ笑いしてるのに。なんとなく俺は涼ちゃん側の体半分が緊張気味になっている気がして、落ち着かなかった。
テレビが終わって、俺が伸びをしながら立ち上がり、さて部屋に戻るかな、と思っていると、涼ちゃんが声をかけてきた。
「なぁ…ちょっと…一緒にお酒でも飲まない?」
「え、珍し。俺と飲んでもすぐ寝ちゃうからつまんないって言ってたじゃん。」
「…まぁ、たまには、どう?」
「んー、甘いお酒ある?」
「そう言うと思って、買ってきたよ。」
キッチンに置いてあったコンビニの袋を持ち上げて見せる。そこには、俺の好きな銘柄のお酒が入っていた。
「えー、わざわざ俺に買ってきてくれたの?ありがとー。じゃあ飲もっかな。」
涼ちゃんは、ホッとしたような、とても嬉しそうな顔をした。
お酒を飲みながら、最近俺の元気がないと心配してることなんかを話してくれて、俺もついつい気分良くなってペラペラと自分事をたくさん聞いてもらった。活動休止になって不安なこと、この同居にも元貴の不安が表れてる感じがする、ダンスレッスンキツい、など、色々だ。
涼ちゃんは、どんな俺の話にも、うんうんとしっかり聞いてくれて、慰めてくれて、激励してくれた。俺はすっかり気を良くして、いつも以上に飲み過ぎてしまった。
あーーー、ふわふわする。俺が頬杖ついてニヤニヤと涼ちゃんを見つめていると、涼ちゃんが俺のそばに来た。
「なんか、寝ちゃいそうだから、ベッドに行こう。」
「えーーー、もーちょっと話したいなーーー。なんか、涼ちゃん、今日雰囲気違うしぃ。」
「え、違う?」
「うん、なんかぁ、大人っぽいしぃ、なんかぁ、エロいっ!」
俺はケタケタと指差して笑う。涼ちゃんは、俺の指を持って、顔を近づけてくる。
「酔いすぎ。」
俺は、目の前に来た涼ちゃんの顔を、焦点が合わない目でボーッと見つめた。
「なんだぁ…エロ…。」
涼ちゃんは、俺を見つめていたが、ゆっくり顔を近づけて、柔らかい唇が俺の口に触れた。しばらく唇を合わせた後、ちゅ、と音を立てて顔が離れた。
俺は尚もボーッと涼ちゃんを見つめていると、涼ちゃんがニコッと微笑み、俺を支えて部屋へと連れていってくれた。
ベッドにそっと寝かされ、俺は心地よい気持ちで目を閉じた。しばらくして、なんの音もしないので、あれ、涼ちゃんまだ部屋ん中いるのか?と思った途端に、俺は下腹部に温かいものを感じた。
うわ…気持ち〜…。あれぇ、これって…フェラじゃん…。
俺はぼんやりと下腹部に目を向ける。涼ちゃんが艶かしく頭を動かして、俺のを口で、してる。少し前から伸ばし始めた髪を耳にかける仕草が、なんともそそる。
えー…なんで…涼ちゃんが…?あー…めっちゃ気持ちぃー…。
「………っ。」
酔っていた俺は、涼ちゃんの口の中にそのまま出してしまった。涼ちゃんは、ベット脇に置いてあるティッシュを数枚取って、口の中のものを出していた。
あー…めっっっちゃ気持ちよかった…と目を閉じていると、涼ちゃんがそっと俺に布団を被せた。
「おやすみ、滉斗。」
俺の髪をそっと撫でて、涼ちゃんは部屋を出ていった。
俺はそのまま、深い眠りへと降りていった、
翌朝、俺は目を覚ますと、とんでもない夢を見てしまった、と焦った。なんで?そんな溜まってた?いや溜まってたとて、なんで涼ちゃん!?
夢にしてはスッキリしている自分もいて、でも下着に汚れもないし、なんだかな〜、と首を傾げながら部屋を出た。
「あ、若井おはよう〜。」
ダイニングチェアに座っていた涼ちゃんが、フニャッと声をかけてきた。俺は、なんだかすごく恥ずかしくて、目も合わさず、おぃ〜す、と軽めの挨拶をした。
顔を洗って、キッチンに行くと、向こうから涼ちゃんが話しかけてきた。
「僕さあ、昨日いつ帰ってきた?」
「は?普通に、10時くらいかな。覚えてないの?」
「うん、昨日元貴と…あ。」
涼ちゃんが頬を赤くして口を手で押さえる。なーんだ、昨日元貴ん家に行ってたんだ。俺は、ちょっとモヤッとした。
「…ごめん、若井のことが心配で、元貴に相談に行ってたんだ。最近ちょっと元気なさそうだったから…。」
「え、あ、俺?」
なんだ、俺のことを2人して心配してくれてたのか。俺はちょっとスッキリした。我ながら単純だなぁ。
「今度、話聞くからね。なんでも言って。」
「え、昨日話したけど…覚えてないの?」
「え、いつ?」
こんなに記憶無くすほど、涼ちゃん飲んでたかなぁ?とキッチンのゴミ箱に目をやると、綺麗に洗って缶がいくつか捨ててある。あれ、こんなの涼ちゃんいっつも放置なのに、珍しいな、なんて思った。
「酔ってたから…。」
「ん?」
俺は、『酔ってたからフェラしたの?』なんて口走りそうになって、違う違う、あれは俺の夢だ!と思いとどまった。
「…だいぶ酔ってたから、記憶なくしたんじゃない?」
「えー、僕お酒飲んでたの〜?それすら覚えてないよ、ヤバいかも。」
涼ちゃんがダハハッと笑う。そこに、昨日のような妖艶さは全くなかった。
俺は、その日はどうにも涼ちゃんの顔を直視できなくて、すごくぎこちない態度を取ってしまった。涼ちゃんは何も気にしてないようだったが、元貴に目ざとく見抜かれてしまい、ダンス終わりに俺は元貴の部屋で昨日のことを話した。
しかし、元貴には夢だったと結論づけられ、俺も無理矢理に納得して、その日は解散した。
家に帰ると、涼ちゃんがご飯を作って待っていた。そっか、今日は涼ちゃんの日か。食卓を覗くと、肉と野菜の炒めたやつ(キノコ入り)と、味噌汁(キノコ入り)だった。またキノコかぁ…と心で思い、俺は、もしやこのキノコってそういうお誘いの意味なんじゃ…なんて一瞬でも考えてしまった自分が情けなかった。
涼ちゃんのわんぱくな味のご飯を平らげ、それぞれの部屋で過ごしていた。ちょっと飲み物でも飲もうと部屋を出ると、涼ちゃんがソファーでくつろいでいた。俺は、冷蔵庫を開けると、まだお酒が数本残っているのに気づいた。
試しに、ちょっと飲ませてみようかな…、と俺は涼ちゃんを誘うことにした。決して何かを期待しているわけではない。
「涼ちゃん、お酒飲まない?」
「え?昨日も飲んだんじゃなかったの?若井そんな好きだっけ?」
「んー、昨日飲んで、ちょっと美味しいかなって。」
うそ。酒なんて何が美味しいんだか。でも、涼ちゃんは晩酌相手ができたことが嬉しいようで、乗り気になってくれた。
「すぐ潰れないでよ〜。」
「わかってるって、てか涼ちゃんもでしょ。昨日記憶なくしてんだから。」
「あは、確かに。」
俺たちは酒を飲みつつ、他愛もない話で盛り上がった。俺は意識的に、涼ちゃんに度数の高い酒を勧めて、涼ちゃんの様子を伺っていた。
次第に、涼ちゃんが船を漕ぎ始め、とうとう、あーーー、と言ってソファーに横になり始めた。
「ちょっと、自分の部屋で寝なよ…。」
ただ酔っ払って寝るだけか、酒のせいじゃなかったのかな…あのやたらと妖艶な姿は。俺は少しガッカリしながら、涼ちゃんを起こそうとソファーに近寄った。その瞬間、涼ちゃんは目を開けた。
「…滉斗。」
「…はい。」
「また、お酒飲んでるの?」
あ、これだ、と俺はピンときた。涼ちゃんが、妖艶な大人モードに入った。
「昨日あんなに潰れたのに、そんなにお酒が好きだっけ、君。」
大人涼ちゃんが身体を起こす。なんだか挙動ひとつにも色気を感じてしまう。
「え、昨日のこと覚えてんの?記憶なくしたんじゃないの?」
「んー、酔うと思い出す。」
「どゆこと??」
ワハハッと笑って、俺は大人涼ちゃんと席に戻って飲み直す。まあ、俺は大して飲んでないんだけどね。寝ちゃうから。
この日から、俺は夜になると、涼ちゃんを晩酌に誘った。涼ちゃんは単純に飲み仲間ができたと喜んでいたが、俺はただ、酔うと出てくる「大人涼架」を楽しんでいた。
何度も晩酌をしても、あの日の夢のような事は当然起きなくて、俺は心のどこかでガッカリしていた。いつも、フラフラになった俺を優しく部屋へと連れて行ってくれて、髪を撫でて部屋を出ていく。俺はその繰り返しを、楽しみにしていた。
何日か経って、涼ちゃんが元貴を晩酌に呼んだ。涼ちゃんはいつだって、元貴のことを気にしている。きっと、元貴のことが大好きなんだろうなぁ、と俺は勘付いていた。だって、今もほら、元貴を見る目だけは全然違うもんな。俺はなんだか悔しくなって、元貴に「大人涼架」のことを自慢した。俺は涼ちゃんのこんな一面も知ってるんだぞーって、小学生並みのマウント。
でも、なんだか元貴はすごく驚いて、そしてなんだか焦っているように見えた。俺はこの日、元貴が来てから酒のペースを乱してしまって、寝落ちた。
だんだんと、涼ちゃんが自室へ寝に行く時間が早まってきた。なんだか、最近睡眠が足りていないのだそう。俺は、晩酌に誘いすぎたか、と1人反省した。
しばらくは、やめておこう。大人涼架もお預けだな、と、部屋の中で漫画を読んで過ごしていると、部屋がノックされた。
ドアを開けると、涼ちゃんが佇んでいる。
「どした?」
「ん…ちょっとうまく寝付けなくて。晩酌でも、どうかな?」
あれ?と俺は違和感を持つ。この感じ、大人涼架に近い。
「涼ちゃんもう飲んでる?なんか大人涼架になってない?」
涼ちゃんは目を丸くして、その後に微笑んだ。
「夜になると、こうなるんだ、俺。」
「まさかの時間帯なの?なにそれおもろ。」
「まあ、いいじゃない。飲も?」
「涼ちゃんさぁ、悪酔いすんじゃない?だから眠りが浅いとか。なんか違うことしよーよ。」
「違うことって?」
「んー、なんか、おもんない映画観るとか。」
涼ちゃんがフフッと笑う。あ、可愛い、と俺は普通に思ってしまった。
「なんでおもんない、なの?面白いの観ようよ。」
「え、だって、おもんなかったら眠気くるかな〜って思って。早く寝たいんでしょ?」
「ん…滉斗と一緒に過ごしたい。」
俺はドキッとした。え、なに、これ。もしかして、もしかすると…。
涼ちゃんて、俺のこと、好き?
それからも数日、夜の時間を一緒に過ごす中で、俺の頭の中を、そんな考えが少しずつ大きくなっていった。
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💙💛のお話も楽しみにしていたので、嬉しいです✨ でも、もう胸が痛くなり始めてます🥲 続きも楽しみにしています!