テラーノベル
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今日も5人での仕事、と控え室に向かっていると涼ちゃんもほとんど同時にやってきたらしく、廊下で出会った。
「元貴!一緒にいこっ」
にこにこと涼ちゃんが俺の隣にいてくれる。それだけで凄く幸せだから不思議だ。
「涼ちゃんは変わらず元気だね···彼とは、どう?」
「えっ、なに急に···んー、えへへ、順調だよ」
あぁ、そうだよね···自分で聞いておいて、落ち込んで、何をやっているんだろう。その彼は一般の人、で涼ちゃんの昔からのファンだったらしい。ずっと応援してくれていてこんな風にテレビに出てファンも増えた今も変わらなずに愛してくれてる、素敵なひとだよね、暇さえあれば会いに来てくれてるみたいだし、と酔った綾華が前に羨ましそうにこぼしていた。
俺だってそうだ、恋人になったのは休止期間の頃だけどずっと涼ちゃんの側にいて、一緒に苦しんで一緒に笑って···涼ちゃんへの愛がそいつより劣っているなんていうのは1ミリも思わない、けど涼ちゃんが求めているほどに満足させてあげられるほどにデートして、いつでも呼ばれれば会って恋人としての時間を過ごしているかと言われるとそこはなんとも反論しようがない。
思わず考えていると足が止まってしまっていたようで、慌てて一緒に歩いてた涼ちゃんが戻ってきてくれる。
「僕のことなんかより···やっぱり元貴···顔色悪いし少し痩せた」
俺の前にくるっと周ると頬がその柔らかな手で包まれる。
「···そんなに優しくしないで」
「え?」
「俺の涼ちゃんじゃないのに···それ以上優しくしないで···」
戻りたいのに戻れない日々へのもどかしさを感じながらも、5人であることを嬉しく思ってしまう自分へ苛立ち。
そして涼ちゃんに優しくされるたびに触れたくて奪いたくて顔も知らない奴への嫉妬までして。
「もう俺···ぐちゃぐちゃ···なんか気持ち悪いかも···」
「元貴?!」
視界が真っ白になって、涼ちゃんの慌てた声が聞こえた気がした。
「···ここ、どこ」
気付けば真っ白な空間にいた。
ぱっと右を見るとそこには若井と涼ちゃんがいて、 左を見ると綾華と高野がいた。
あぁ、これって選べってことなのかな··· ありがとうございます、幸せな夢を見せてくれて。
けどちゃんとわかったよ。
わかってたけど、本当にわかった。
涼ちゃんが俺の恋人じゃない世界なんて、苦しすぎたよ。
他の誰かさんと愛し合ってるなんて考えただけでおかしくなりそうだった。
諦めきれない、あなただけは。
生きることに疲れるくらい寂しいから。
だから俺のところに帰ってきてください。
俺は大きく右に一歩を踏み出した。
「涼ちゃん···」
「もとき!元貴大丈夫?ごめんね、ごめん···」
涼ちゃんが泣いてる···泣かないでよ、俺が酷い事を言ったからかな。
ごめんね、いつも俺のせいで泣かせてばっかりで···。
「俺こそごめんね···涼ちゃんがいればそれで良かったのに、あんな事言って···」
身体を起こして見渡すとそこは俺の家の玄関だった。
もしかして···元の世界に戻ってる??
「僕こそごめん···酷い事言って。3人になってさ···楽しいこともいっぱいあったのに、辛かったり苦しかったこともあったなって。けどそれを乗り越えて今があるからこんなにも毎日楽しくて幸せで···色々考えて気持ちぐちゃぐちゃになってて、ちょっと不安になってて···元貴がそんなつもりで言ったわけじゃないのに、僕つい··· 」
ぐすぐすと泣きながら涼ちゃんが抱きついてくる。
俺はこんな状況なのにほっとしていた。いつもの俺の涼ちゃんだってわかって安心した。
「ううん···涼ちゃんは悪くないから。俺本当によくわかったんだ、涼ちゃんの大切さを···何を失っても涼ちゃんのことだけは諦めきれなかった」
「も、もときぃ···ごめんね、ごめん」
ようやく涼ちゃんをしっかりと抱きしめて、なんだか久しぶりにこうした気がした。
「良かった···涼ちゃんが帰ってきてくれて。もう絶対他の人になんか渡さない···」
「何の話···?」
「···内緒、とりあえず今はもっと涼ちゃんを抱きしめていたい」
「うん···僕も」
暫く玄関で抱き合ってから寝室へ移動する。涼ちゃんに腕枕をして抱きしめながら髪を撫でる。
「涼ちゃん、ほんとに帰って来てくれてありがとね」
「···若井から連絡がきて」
「うん?」
「若井が10年本当にありがとうって···元貴も涼ちゃんもいろんな想いがあると思うけど今、3人でいられることが全てだよねって···元貴にもありがとうって伝えてって。その通りだと思って···僕、今すごく幸せなの。元貴がいて、若井がいて自信をもって良かったって言えるよ。それは元貴が色々悩んで苦しんでそれでも進んでくれたおかげなんだって感謝すること忘れてた」
その笑顔は辛いことも苦しいことも乗り越えた綺麗な笑顔だった。
「それなら俺は俺と一緒にいることを選んでくれた若井と涼ちゃんに感謝だよ···俺を愛してくれてることも、ありがとう」
少し違えばこんな風に触れ合うことすら叶わなかったかもしれない。
「これからもずっと一緒にいて。20年先も30年先も」
「うん···ずっと一緒にいよう」
夢じゃないよね、これは。
涼ちゃんをもう一度しっかりと腕の中に抱きとめて目を閉じる。
一番大切なものをこの先も俺は絶対離さないと誓うよ、何ものにも変えられない大切な涼ちゃんだけは。
コメント
2件
💛ちゃんを取り戻せて良かったです🙌✨ ♥️くんも💛ちゃんも色々あった10年だからこそ、お互いの大切さを再確認ですね🥹