テラーノベル
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人混みを抜けると、夜の町は一気に静けさを取り戻していた。
提灯の灯りも遠ざかり、虫の声が耳に届く。
「美優は? もう少し寄って帰るって?」
咲が問いかけると、横で歩く悠真が頷いた。
「ああ。亮と一緒に行くってさ。……俺たちは先に帰ろう」
(お兄ちゃんと美優……ふたりで?)
咲は思わず口元を押さえ、笑いをこらえた。なんだか微笑ましくて。
気づけば道は二人きり。
浴衣の裾を揺らしながら歩く自分の足音と、隣の悠真の靴音だけが響いていた。
「……さっきの花火、きれいでしたね」
口を開くと、少し声が震えていた。
悠真は短く頷く。
「ああ。……でも」
不意に言葉を切り、咲を見やる。
「横で嬉しそうにしてる妹ちゃんの顔のほうが、俺には印象に残ったかな」
咲の心臓が跳ね、夜の静けさの中で鼓動の音だけが大きく響いた気がした。
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