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#へたくそだけど許して
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『今、駅の近くにいるんだけど』 心臓の音がうるさい。
ゆっくり顔を上げる。
さっきまでいた路地の出口。
暗闇の向こう。
見覚えのある影が、そこに立っていた。
「……え」
思考が追いつかない。
でも、体は勝手に動いた。
一歩、踏み出す。
相手も、こちらに気づく。
目が合う。
少し驚いた顔をして、それから、あの頃と同じように笑った。
時間が巻き戻ったみたいだった。
でも、違う。
ちゃんと前に進んでる。
言わなきゃいけないことが、ある。
今度は逃げない。
振り返る。
自販機は、もうなかった。
最初から存在しなかったみたいに、ただの暗い路地があるだけ。
ポケットの中の小銭は、確かに減っている。
——代わりに、胸の奥には、確かな熱が残っていた。
あの自販機は、たぶん。
何かを与える場所じゃない。
自分がずっと避けていたものに、向き合わせる場所だ。
そして。
本当に欲しかったものは、きっと最初から、手の届くところにあった。
数歩の距離が、やけに遠い。
でも、逃げなかった。
近づいていくたびに、昔の記憶が浮かぶ。
笑った顔。くだらない会話。言えなかった言葉。
全部、まとめて胸の奥に押し込めてきたもの。
「……久しぶり」
先に口を開いたのは、向こうだった。
変わらない声。
少しだけ大人びた顔。
「うん、久しぶり」
ちゃんと返せた。
それだけで、少しだけ安心する。
一瞬、沈黙が落ちる。
でも、前みたいに気まずくはなかった。
「なんかさ」
相手が、少し笑いながら言う。
「ほんとに、ちょうど連絡しようと思ってたんだよね」
「……ほんとに?」
「うん。なんか今日、妙に思い出して」
同じだ、と思った。
自分も、ここ最近ずっと考えてた。
でも、それを口にする勇気がなかっただけ。
——さっきまでは。
「私も」
自然に言葉が出る。
「ずっと、言いたいことあって」
相手の目が、少しだけ真剣になる。
「うん」
ちゃんと聞くよ、って顔。
逃げ場はない。
でも、それでいい。
「……あのとき、ちゃんと話さなくてごめん」
喉が詰まりそうになるけど、止まらない。
「怖くて、逃げた」
「うん」
「でも、本当は——」
続けようとした、そのとき。
ふっと、違和感が走った。
音が、消えた。
風の音も、遠くの車の音も、全部。
世界が一瞬、止まったみたいに静かになる。
「……?」
相手の顔を見る。
笑っている。
さっきと同じように。
でも。
——瞬き、してない。
「ねえ」
声をかける。
反応はある。
「どうしたの?」
普通の返事。
でも、何かがおかしい。
胸の奥がざわつく。
ゆっくり、気づいてしまう。
この人、こんな笑い方、してたっけ。
こんなに——
完璧だったっけ。
「……ねえ」
もう一度呼ぶ。
今度は、自分の声が少し震えていた。
「ほんとに、今まで何してたの?」
探るように聞く。
相手は、少しだけ首をかしげた。
「何って」
その仕草すら、どこか作り物みたいに綺麗で。
「ずっと、ここにいたよ?」
「……は?」
意味がわからない。
「ここって」
「ここはここだよ」
にこっと笑う。
変わらない。
変わらなすぎる。
その瞬間、頭の中にフラッシュバックみたいに浮かぶ。
——『再会 1000円』
——『勇気 300円』
——カチン、という音。
——ガラス玉。
——溶ける感触。
背筋が冷たくなる。
振り返る。
さっきの路地。
あるはずのない場所。
——白い光。
そこに、また。
自販機が、あった。
「……っ」
思わず後ずさる。
「どうしたの?」
優しい声が追いかけてくる。
でも、その優しさが怖い。
ゆっくり、理解してしまう。
これは、“再会”じゃない。
“作られた再現”だ。
じゃあ、本物は?
今、どこにいる?
「ねえ」
相手が、一歩近づく。
「続きを話してよ」
逃げたくなる。
でも、足が動かない。
まるで見えない何かに縛られてるみたいに。
「言いたいこと、あったんでしょ?」
にこりと笑う。
完璧な、あの頃のままの笑顔で。
——違う。
こんなの、違う。
「……やだ」
小さく呟く。
「え?」
「こんなの、やだ」
はっきり言った。
怖い。
でも、それ以上に嫌だった。
「こんなの、意味ない」
本物じゃないなら。
ちゃんと向き合ったことにならないなら。
それは、ただの逃げだ。
胸の奥の“勇気”が、熱くなる。
振り絞る。
「本物に、会いたい」
その瞬間。
世界が、ひび割れた。
ガラスが砕けるみたいな音。
目の前の景色が歪む。
相手の姿が、ノイズみたいに揺れる。
「……あ」
その顔が、一瞬だけ崩れた。
初めて、人間らしく。
寂しそうに。
「それ、選ばなかったんだね」
聞き覚えのない声で、そう言った。
次の瞬間、すべてが弾けた。
気づくと、路地に一人で立ってい初めて、人間らしく。
寂しそうに。
「それ、選ばなかったんだね。」
聞き覚えのない声で、そう言った。
次の瞬間、すべてが弾けた。
気づくと、路地に一人で立っていた。