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朝起きたら、指が増えていた。
右手の中指と薬指のあいだに、知らない指がひとつ。痛みはない。
むしろ、それがずっと前からあったような気さえした。
母に見せると、彼女は笑って「また夢を見たのね」と言った。
指は見えていないらしい。仕方なく包帯を巻いて隠すことにした。
学校では、友達がひとり足りなかった。
担任は最初からいなかったかのように出席を取り、クラスも何事もなかったように進んだ。
昼休み、机の上に置いた弁当を開けると、知らない箸が入っていた。三膳目だ。
それを使うと、味がやけに濃くて、涙が出た。誰の味だろうと思った。
帰り道、川沿いで子どもの泣き声がした。
近づくと、自分の顔をした少女がこちらを見上げていた。
「指、返して」
そう言われた気がした。けれど声は聞こえなかった。
そのとき、包帯の下で指が動いた。勝手に、まるで誰かを撫でるように。
私はそのまま走って逃げた。
夜、寝る前に鏡を見る。
指が増えている。
7本目の手が、小指と薬指の間から伸びていた。
優しい手つきで、私の肌を撫でる。
あたたかい、懐かしい。
思い出そうとしても、誰のものだったかはわからない。
でも、確かに知っている。
あのとき、私が川に捨てたのは手だけじゃなかった。
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