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やっと届いたドレスをトルソーに着せて眺めて見る。黒に近い青、水色を巧みに合わせて綺麗な配色。袖と首、肩部分には肌に密着する形でレースを這わせてある。綺麗だわ。マダム・オブレには感謝ね。私がうっとりと眺めているとカイランが訪ねてきた。


「やぁ、ドレスが届いたと聞いてね」


あれからカイランとは普通に接していられる。少し離れて接し方を忘れていたようだ。今は苦痛を感じない。


「やっとよ、間に合って良かったわ。レースに時間がかかってしまったの」


「綺麗だね。僕と君の色だ」


そう言って隣に立つ私の手を握ってきた。振り払わなかった私はその手を握り返す。


「楽しみだわ。夫婦になって初めての夜会よ。沢山の方に挨拶をしなくてはならないわ。忙しくてダンスは踊れるかしら」


「必ず踊ろう。君はきっと美しい」


ここ最近、カイランは甘いことを言い出している。私がリリアン様に見えるのかしら。仕事は忙しそうで夕食後は自分の執務室から出てこない。目の下に隈もできてる。


「眠れてる?疲れた顔してるわ」


「うん。領地の仕事が多くてね。父上はすごいよ。これに貴族院までこなしてたんだ。暇なんてなかっただろうな」


相当な量をハンクが回したのね。病気になって欲しくはないのに。


「まだ夜会まであるわ。眠る?」


カイランは真剣な目で私を見つめている。


「キャスリンが寝かせてくれる?」


どうしたの?何を言うの?怒りを抑える。カイランを傷つけるのはまだ先なのよ。今ではないの。溢れそうになる言葉たちを呑み込む。


「子守唄でも歌ったらいいのかしら?」


冗談ぽく流すしかない。でもカイランは笑わない。


「キャスリン、この前、護衛騎士の話をしたね?父上に許可は貰ってあるよ。呼んでいい」


なぜ今それを言うのか、敏いキャスリンは悟る。カイランの望みを叶えたら私の騎士をゾルダークへ連れてきてもいい、そう聞こえた。


「ありがとう。今夜の夜会に兄が来るの、その時お願いするわ。寝室で眠る?」


夫婦の寝室と私は言ったつもりだった、けれどカイランはそう捉えなかった。少し眠りたいと言って私の手をひき私の寝室へ向かう。ぎょっとして踏ん張りそうになるが我慢する。初めて入った私の寝室は珍しいのか観察している。


「キャスリンの匂いがする」


「そうかしら、自分ではわからないわ」


寝室の扉は開いたままそこから心配そうにジュノが見ている。目を合わせ大丈夫と伝えたが、ちゃんと届いただろうか。


「私、子守唄は一つしか知らないのよ」


私の寝台に寝そべるカイランにそう言うと、それでいいから歌ってくれと頼まれる。


「目を閉じて、夜会で倒れても連れて帰れないわよ」


気づくだろうか、この嫌味を。遠回しに伝えたからわからないかもしれないわね。忘れているかもしれないし。本当に私はしつこいわ。まだ許してないなんて。

私は微笑みながら歌う。カイランの胸を軽く叩きながら、昔母が歌ってくれた歌。


少し歌うとカイランの寝息が聞こえてくる。規則正しく胸が上下している。ちゃんと見るとハンクによく似ている。目元も眉も鼻も、唇はハンクの方が厚い。この数日触れてない。話もできない、子種もくれない。定期的にとはどのくらいの間隔なのかしら。

なぜかカイランは変わった。婚約者の時のような気安さに戻ったようだわ。初夜の日はあんなに私を突き放したのに。一体何をしたいの。

カイランを置いて寝室を出ると居室にジュノとトニーがいた。


「眠ってしまったわ。とても疲れているみたい、半時ぐらいで起こすわね」


トニーは深く頭を下げて、後で迎えにきますと言い退室した。


「カイランはどうしたいのかしらね。それよりダントルを呼べるわ。ジュノ良かったわね」


私がそう言うと首を振って答えるが二人が仲良しなのを知っているからきっと喜んでいるのだろう。ジュノの負担が減るといい。本当はゾルダークに信頼できるメイドができればいいのだけど、誰の味方かわからないから信用もできない。そこへ控え目に扉が鳴る。開けるとソーマだった。ドレスを見せハンクへ気に入ったと伝えて欲しいとお願いする。


「夜会が終わりましたら直ぐに馬車へ。旦那様がこちらの寝室で待つそうです」


ハンクが来る。私は微笑んで頷く。


「わかったわ。終わり次第直ぐに戻るわね」


「カイラン様は寝ていらっしゃる?」


「ええ、疲れた顔をしていて寝かしつけてくれと言われたのよ。どうしたのかしらね。何か知っていて?」


ソーマもわからないと言う。ソーマを見送り扉を閉める。

このドレスを着ている姿をハンクにみてもらえると思っただけで沈んでいた気持ちが浮上する。早く帰ってきたいわね。


半時がたち寝室の扉を開ける。まだカイランは眠っていた。私は彼の肩を揺さぶり起こす。カイランはゆっくりと目を開けこちらを見る。


「起きて。夜会の準備をしなくてはならないのよ?貴方も着替えてね」


「キャス、おはよう。良く眠れたよ」


寝ぼけているのか私の愛称を口にする。本人にその自覚はなさそうだ。こちらに手を伸ばそうとしたので、そっと避ける。


「さぁ素敵になるのよ。髪も解かしてね」


私は早く追い出したくてたまらなかった。これから湯に入り身綺麗にしてお化粧をしてドレスを着なければいけないのだから。カイランよりも忙しい。





ソーマは悩んでいた。報告すべきは理解している。主に隠し事などあり得ない、だがあれをなんと説明すれば穏便にいくのか。カイラン様はなぜ今頃キャスリン様に歩み寄ろうとしているのか。もう遅い、今さらなのだ。

ハンクの執務室へ戻ると先程のことを報告する。


「だからなんだ」


おや、悋気は起きない。あれだけ囲い込み所有欲をみせているのにこの反応はどういうことだ。ソーマもこのハンクは初めて対応するのでまだ掴めていない。普通の男ならば嫉妬に駆られるが、ハンクはなんてことない様子だ。


「キャスリン様に今夜のことは伝えました。ドレスを見せていただきましたよ。キャスリン様はとても気に入ったと旦那様に感謝を」


ハンクの反応はない。書類を眺めている。


「あれの護衛騎士がきたら連れてこい」


許可を出したのでディーターでも動くだろう。ソーマは頷く。





揃いの衣装を身につけ公爵家の豪華な馬車へ乗り込む。ハインス邸まで半時。


「綺麗だよキャスリン」


「ありがとう。カイランも素敵よ。よく似合ってる」


少し顔色も良くなっている。安心した。疲れた顔をして現れたらなんて言われるか。少しの隙も見せてはならない。カイランも体格が良いから衣装が似合うわ。ハンクが着たらボタンが弾けるかもしれないわね。緊張しているわ。おかしなこと考えてしまう。もう外は暗い。がたがた揺れながらやっとハインス邸に着く。

カイランの手をとり会場に入ると煌びやかな人達がゾルダーク小公爵夫妻を出迎える。現王妃の生家ハインス。今はその兄が当主として立っている。


「これはゾルダーク小公爵に奥様ようこそいらっしゃいましたな。相変わらずハンクは不参加かな?全くあいつの夜会嫌いは直らんのか」


ハンクと年の近いアーロン・ハインスは気安い感じで話しかけてくる。


「こんばんはハインス公爵。お招きありがとうございます。妻のキャスリンです」


「こんばんはハインス公爵様。お久しぶりですわ。お招きありがとうございます。とても素敵なお屋敷ですね」


「ああ、妻が張り切ってね大変だったよ。まあ楽しんでいってくれ」


アーロン・ハインスは次の客へ挨拶に行く。だが、普通は妻も共に挨拶回りをするものだけれど何かあったのかしら。私達は大広間につき顔見知りの人達へ挨拶していく。笑顔を張りつかせ弱味を見せず愛想を振り撒いて渡り歩く。


「疲れたな、飲み物取ってくるよ。ワイン?シャンパン?」


「シャンパンをお願い。あまり強くないのにしてね」


こんな所で酔いたくなかった。私は壁を背にカイランを待っていた。両手に飲み物を持った彼は会場の入り口を見ている。確かに騒がしい。


「一番弱いシャンパンだよ」


「ありがとう、喉が渇いてしまったわ。あそこはどうして騒がしいのかしら?」


カイランは気まずそうに告げる。


「アンダルが来てる」


男爵が公爵家の夜会に来ることはある。仕事の関係なり次男以降を婿に出したり、だが、アンダル様は今や醜聞の人物。臣下を軽んじた王族として有名になったのだ。その彼が参加しているとは。だからマルタン家の人達がいなかったの?事前に知っていたから避けたんだわ。マルタン家の長女ミカエラ様はアンダル様の元婚約者。あの騒動で一番傷ついた人。




貴方の想いなど知りません

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