テラーノベル
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リハーサルが終わった後も、シューヤの胸に消えない重圧がズシリと残っていた。
グループの着替え部屋で、他のメンバーたちが「お疲れー!」「今日この後ご飯行く?」と賑やかに話している中、シューヤは一人、下を向いたまま静かに私服に着替えていた。
11(今日は早く帰ろう、一人になりたい…)
7「シューくん」
不意に名前を呼ばれ、シューヤは肩を跳ねさせた。
振り返ると、私服に着替え終えたタカシが、柔らかい笑みを浮かべて立っていた。
7「今からちょっと時間ある? 事務所の近くにええ感じのカフェ見つけたねん。一緒にお茶でもせぇへん?」
11「…え、あ…ごめん、タカシくん。今日はちょっと…疲れちゃってて、早く帰って休もうかなって」
シューヤは視線を泳がせながら断った。今の自分はあまりにも顔に出てしまっている。一緒にいたら、タカシに余計な心配をかけてしまうと思ったのだ。
7「…そっか、疲れてるやんな。無理言ってごめんな」
タカシは嫌な顔一つせず、ぽんぽんとシューヤの肩を叩いた。
7「気をつけて帰りや? ちゃんとご飯食べて寝るんやで」
11「うん。ありがとう、タカシくん。お疲れ様」
頭を下げて楽屋を出ていくシューヤの背中を、タカシはどこか陰のある目で見送っていた。
その日の夜。
シューヤは自室のベッドの上で、再びスマートフォンを握りしめていた。
見るな、見たら傷つく。頭ではそう叫んでいるのに、指先が勝手にSNSの検索画面を開いてしまう。もう中毒のようだった。
『今日のシューヤ、ダンス明らかにやる気なかったよね』
『タカシくんの隣にいると、余計にシューヤの華のなさが目立つ』
『本当、なんでデビューできたのか謎。そろそろ脱退してほしい』
画面に並ぶ惨烈な言葉たち。
どれもこれも、自分の存在そのものを否定するような内容ばかりだった。
11「っ……あ……」
喉から引きちぎられたような声が漏れる。
視界が急激に滲み、ぽとぽとと画面の上に涙が落ちた。
11(みんなの足引っ張って、ファンのみんなをガッカリさせて…俺なんか、いない方がグループのためじゃん…)
一度溢れ出した思考の毒は、留まることを知らなかった。
胸が苦しくて呼吸が浅くなる。冷や汗が止まらず、指先が凍りついたように冷たくなっていく。
その時、机の上でスマートフォンがブルッと震えた。
画面に表示されたのはタカシからの通知だった。
メッセージではなく、着信。
シューヤは一瞬躊躇ったが、震える指で通話ボタンをスライドさせ、耳に当てた。
11「……もしもし」
7〔あ、シューくん? 夜分遅くにすまん直で電話してもうて。今大丈夫?〕
スピーカーから聞こえてきたのは、いつもの穏やかなタカシの声だった。その声を聞いた瞬間、溜め込んでいた感情が溢れそうになり、シューヤは必死に唇を噛み締めた。
11「うん…大丈夫だよ。どうしたの、タカシくん」
なるべく普通を装って声を張ったつもりだった。しかし、電話の向こうのタカシは、一瞬の静寂のあと、静かに、けれど逃がさないトーンで言った。
7〔シューくん。今、泣いてへんか?〕
11「え…?ううん、泣いてないよ。ちょっとあくびが出ちゃっただけで――」
7〔嘘つくの下手くそやなぁ。鼻声になってんで〕
タカシの優しい声が、シューヤの嘘をあっさりと暴いていく。
7 〔今からシューくんの家、行ってもええか?〕
11「えっ、でも…もう夜遅いし、明日も仕事だし…」
7〔今な、もうマンションの下におんねん〕
11「え…!?」
シューヤは弾かれたようにベッドから起き上がり、窓から下を見下ろした。
マンションのエントランス付近の街灯の下に、スマホを耳に当てた背の高い人影が立っていた。
7 〔断られても帰らへんよ。シューくんが顔見せてくれるまで、ここで待っとるから〕
そう言って、タカシは電話を切った。
数分後。
シューヤは玄関の鍵を開け、タカシを部屋の中へと招き入れた。
11「…ごめんね、部屋散らかってて」
7「ううん、急に押しかけた僕が悪いんやから気にせんで。お邪魔します」
タカシは手にしたビニール袋をリビングのテーブルに置いた。中には温かいスープやコンビニの飲み物が入っているようだった。
室内に入り、明かりの下でシューヤの顔を見たタカシは、あからさまに眉をひそめた。
真っ赤に腫れた目元、青白い唇、そしてやつれた表情。
7「…やっぱりな」
タカシは静かにため息をつくと、シューヤの肩を掴んでリビングのソファへと座らせた。自分もその隣に腰掛ける。
7「シューくん。昨日からずっと様子おかしかったで。今日のレッスンも、心ここに在らずって感じやったし……何があったん? 僕でよかったら話してくれへん?」
11「それは……」
シューヤは膝の上で固く拳を握りしめた。
アンチコメントの存在を言えば、また「気にしすぎだ」と思われるかもしれない。自分がこんなに弱い人間だと知られるのが、怖かった。
11「…なんでもないよ、レッスンの時も言ったじゃん、疲れてるだけだって…」
7「シューくん」
タカシはシューヤの言葉を遮り、まっすぐにその瞳を見つめた。
7「僕な、今日ずっとシューくんのこと見てたねん。レッスン中も、終わった後も。…画面、見てたんちゃうん?」
11「え……」
7「SNS。エゴサ、したんやろ」
核心を突かれ、シューヤの体が小さく跳ねた。
息が止まり、顔から一気に血の気が引いていく。
タカシはそれ以上問い詰めず、ポケットから自分のスマートフォンを取り出すと、静かに画面を操作してシューヤに見せた。そこには、SNSの検索画面が開かれていた。
7「僕やってな、エゴサくらいするで。だから知っとるよ。最近、新曲の番組出演の後に、シューくんのこと悪く言う書き込みが増えてたこと」
11「タカシくん、知ってたの…?」
7「知ってるよ。僕らの名前で検索したら、嫌でも目に入るからな」
タカシの声はどこまでも穏やかで、責めるような色合いは一切なかった。
けれど、その事実を知られていたという恥ずかしさと情けなさで、シューヤの目からぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちた。
11「…ごめん、タカシくん。そんなの気にしちゃいけないって分かってる…でも、全部その通りに思えてきちゃって…」
シューヤはポロポロと涙を流した。
溢れ出した感情は留まることを知らず、今まで胸の奥底に溜め込んでいた泥のような不安が、涙となって吐き出されていく。
タカシは何も言わず、泣き続けるシューヤの背中にそっと手を当て、優しくさすり続けた。
コメント
1件
このエピソード、めっちゃ刺さったわ…。SNSのアンチコメントに追い詰められるシューヤの心情描写が生々しくて、一緒に息苦しくなった。そこに気づいて駆けつけるタカシの優しさ、特に「嘘つくの下手くそやなぁ」からの「もうマンションの下におんねん」の流れ、完全に心掴まれた。泣き崩れるシューヤを何も言わずに背中さするだけのタカシ、熱すぎるやろ…次が待ち遠しい🔥
#ゆり組
有栖
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