テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
静かなリビングに、シューヤの啜り泣く声だけが響いていた。
ひとしきり涙を流し、息を荒くしながらうつむくシューヤの隣で、タカシは静かに立ち上がった。テーブルの上の袋から温かいスープのカップを取り出し、フタを開けてシューヤの前に差し出す。
7「はい、シューくん。ちょっと一口飲み。泣きすぎて喉カラカラやろ」
11「あ、ありがとう…」
震える手で受け取り、温かいスープを喉に通すと、強張っていた胸の奥が少しだけ解けていくような気がした。
タカシは再びソファに座り直すと、シューヤの目線に合わせて優しく微笑んだ。
7「全部吐き出せたか? すっきりした?」
11「うん…ごめんね、情けないところ見せちゃって……」
7「情けない?なにが?誰だって顔も名前も隠した奴らに散々なこと言われたら、傷つくに決まってるやんか。シューくんは真面目で、誰よりも一生懸命やから、余計に言葉を正面から受け止めちゃったんやろな」
タカシはシューヤの頭を、小さな子供をあやすようにぽんぽんと優しく撫でた。
7「でもな、これだけは言わせてな」
タカシのトーンが、少しだけ真剣みを帯びる。
7「顔も知らん誰かの数行の悪口と、毎日隣で汗流して練習してる僕らの言葉、どっち信じるん?」
真っ直ぐな瞳で問われ、シューヤは言葉に詰まった。
自分のことばかり気にして、画面の向こうの悪意ばかりを追いかけていた。自分を本当に愛してくれているファンの存在を、メンバーのことを、不安の影で見失っていたのだと気づかされた。
7「それにさ」
タカシは少し照れくさそうに笑いながら、シューヤの顔を覗き込んだ。
7「僕な、シューくんがおるからこんなに楽しく歌えてるんやで。勝手に一人で凹んで抱え込まんといて」
11「…タカシくん、」
7「辛いときは『辛い』って言い。愚痴ならいくらでも聞いたるし、美味いもん奢ったるから。僕ら仲間やろ?」
包み込むような温かい、どこまでも優しいタカシの言葉。
シューヤの心の中に溜まっていた冷たい泥が、温かい光に照らされてゆっくりと溶け出していくようだった。
11「…うん。ごめん、タカシくん。本当に…ありがとう」
今度は涙ではなく、少し腫れた目元に小さな、けれど確かな笑顔が戻っていた。
7「よし、ええ顔戻ってきたな! ほな今日はもうスマホ見るの禁止、僕が預かるからな」
11「…え、?」
7「あかん、僕が帰ったらまた見るつもりやったやろ? 明日の朝レッスン前に返すから、今日はもう温かい風呂入って寝るんやで」
11「う、バレてる……」
強引にスマホを取り上げられながらも、シューヤの胸には久しぶりの安心感が広がっていた。
翌日。
「はい、最初から通すよー! 位置ついて!」
振付師の声がスタジオに響く。
ミラーの前、定位置に立ったシューヤは、一度深く息を吸い込んだ。
隣を見ると、タカシがこちらを向いて親指を立て、悪戯っぽく笑ってみせた。
シューヤも小さく頷き、笑顔を返す。
音楽が鳴り響く。
体に染み込んだステップを踏み出し、声を出して歌う。
昨日のような身体の重さはもうなかった。
自分を信じてくれる仲間がいる。応援してくれるファンがいる。その実感が、シューヤの動きに力強さと美しさを取り戻させていた。
鏡に映る自分の瞳には、再びまっすぐな光が宿っていた。
コメント
1件
タカシくんの優しさが沁みました…。SNSの悪意って目に見えないぶん心に重くのしかかるけど、「隣で汗流してる仲間」の言葉を信じろって、本当にその通りだなって思いました。スマホ取り上げてくれる仲間、大事ですね。ラストの鏡に映る自分の瞳に光が戻った描写、すごく好きです🌙
323