──────いえもん視点──────
めめさんがそう追求すると菓子さんは押し黙る。その様子を見ても、めめさんはお構い無しに淡々と詰め寄る。
「はぁ…不思議に思ったんですよ。菓子さんから茶子さんの魂の輪郭が見えたから。──────菓子さん、あなた茶子さんから能力を継承しましたね?」
めめさんがそう詰めよれば、もう茶子さんのように喋ることは無い菓子さんが諦めたかのような、何かに縋るかのような声を小さく響かせる。
「そうよ…それの何が悪いのよ……共に長年を過ごしたガンマスさん、れいまりさん。そして茶子。森の人達に顔を合わせられないわ…。
──────だから反対したのよ…。森から離れることを。平和を手放すことを。」
そう言って、茶子さんと同じだった髪色が、服装が、顔つきが、透明な翼が。はらり、はらりと完成した作品を逆再生するかのように茶子さんだったものが欠けていく。目の部分も欠け、そこから菓子さんの鋭い瞳が、そのツートンカラーの瞳が、覗く。その瞳は我らが村長に対して、弱々しくも、鋭い光を帯びていた。
『目は口ほどに物を言う』。その言葉を体現してるからのようにその目が語る。
──────『お前のせいだ』、と。
しかし、めめさんは涼しげに言う。
「あなた達がその選択をしたと言うのに。私を責めるのはお門違いでは?そもそも、話をずらさないでください。能力の継承は非常に危ないんですよ?」
「…結果、成功してるんだからいいじゃない。それに、形見としても持たせて欲しいわ。」
めめさんの追求に対し、菓子さんが曖昧な返事をする。めめさんは、その追求の手をとめない。
「菓子さん、あなたが茶子さんの能力を継承したことによってあなたは最も重要なものを今、失いつつあるんですよ。」
「…?」
めめさんが真剣な眼差しで言う。菓子さんは無言で…いや、目で問いかける。『それはなんだ』、と。
「『能力の継承』。素晴らしい響きですよね。死んでしまう人の能力を己のものにして強くなれるんですから。亡くなった人のことを覚え続けられる──────そう、思うはずですよ。」
「…結論。」
めめさんが演劇のように、自身の次につながる言葉のお膳立てを長々としようとするのを見かねて、菓子さんは結論を急かす。そして、めめさんは、感情のない笑みでいう。
「茶子さんがあなたに与えた『呪い』は、自身──────つまり茶子さんの存在をこの世の全てから抹消することです。」
「…はッ!?」
菓子さんは飛び上がるように目を見開いて表情全てを使って驚きをあらわす。正直、俺も何を言ってるのかよく分からない。スケールが大きすぎて、漠然とした印象でしか感じられない。
「そりゃそうでしょ。茶子さんの能力はいわゆる『チート』。その力は神に反逆を企て用とできるレベルのもの…。茶子さんの罪を教えましょうか?『神に反逆したら愚か者』。」
めめさんは、感情の感じられない笑みで話を続ける。神?チート?反逆?──────茶子さんが?お茶が大好きで、優しくて、気配りもできる茶子さんが?植物を何よりも愛し、愛情を込めて育てている茶子さんが?
今まで知っている茶子さんの情報がフラッシュバッグするかのように思い出されていく。
信じられない。
その小さい単語だけで今の自身の気持ちを言語化できてしまう。それほどまでに茶子さんと、その言葉は結びつかなかったのだ。
「知らないんですか?まあ、本人も覚えてないでしょうし。なら、遺書公開の前に昔話でもします?」
「待って、なら茶子を忘れられないようにして欲しい。このままなら、茶子を忘れてしまうんでしょう?──────いやッ絶対に忘れたくないッ!!!」
めめさんが話始めようとする前に、菓子さんがそれを引き留める。
俺は、今、驚きを超える衝撃を覚えた。──────一瞬、茶子、と言われて声が分からなかった。茶子さんの声が思い浮かべられなかった。ぶわりと背中に冷や汗が大量に溢れる。先程まで思い浮かんでいた人物をそんな急に忘れるわけが無いのに。
「菓子さん…それは難しいですよ?」
「なッなんでッッ!?」
めめさんが申し訳なさそうな表情をうかべる。しかし、菓子さんはその表情に気づかず、激情を声に込める。
「だって、茶子さんが未練がましく現世に残り続けている…。つまり、存在し続けてるんです。」
「そ、それはいい事じゃ…ッ!!」
「…死神として言います。魂と結びついている能力が、菓子さんに継承されてるのに、魂が現世に残り続けている?これっておかしいんですよ。
簡潔に言いましょう。菓子さんと茶子さんの魂が繋がりかけています。そして、争っています。肉体の主導権を巡って。負けた方が『代償』を背負うことになる。つまり、存在が消えます。」
「な、何言ってるの…?」
「はっきり言います。どちらも生存することはできません。どちらかは死んで、代償を背負って存在が消えます。代償を消す方法は継承を取りやめるか──────代償という概念を消すか。」
めめさんは、淡々と、笑顔だったものは無表情へと変え、菓子さんに迫る。
「選んでください。どちらが生きて、どちらが死ぬか。」
「茶子に決まってるじゃない。それ以外ありえないわ。」
「無理です。彼女はもう怨霊へと成れ果てました。能力という魂の核を無くしたのに本人のままで入れるわけがありません。廃人を引き戻して何になるんです?」
「…何よ…それ。茶子を忘れろって言うの…?」
菓子さんが、ガックリと椅子から落ちるように地べたに座りこむ。
「嘘…茶子を忘れないように…継承したのに……?そんな…そんなのって…ッッ」
そう言って、目に大粒の涙がたまる。そんな雰囲気の中、八幡さんがふわっとしたような言い方をしながら話す。
「なら、代償という概念消しちゃおうよ。」
その発言にみんなが驚きをうかべるが、菓子さんはとうとう大粒の涙を流す。
「無理よ…概念になんて干渉する術なんてないわ…。それに、そんなことをしてはいけない…」
「ほんとに茶子さんを忘れたくないとは思えないね、その弱気な姿勢。」
八幡さんがそう煽れば菓子さんがキッと鋭い瞳を八幡さんに向ける。
「弱気とかどーとかの話じゃないのよ…!!出来ないのよ…っ!!」
「は〜…典型的な良い子ちゃんって感じ。皮肉を込めるなら応用力がない。たまには強欲に、傲慢にいこ〜?そ、こ、に。死んだはずの奴がいるじゃん?」
そう八幡さんは菓子さんから視線を滑らせぜんさんに向く。ぜんさんもぽかんとした後
「へ?はっ?ぽれ?」
と、驚きの声を発する。それに、と八幡さんは言葉を続ける。
「そこに魂に精通している『死神』さんもいらっしゃいますよ〜?」
そう八幡さんがにやけるようにいえば、めめさんは少しニヤリと笑う。
「えぇ、それなら最高神が定めた概念をぶっ壊して生き続けている龍もいますよ?」
と、めめさんが視線をやれば、八幡さんはにやにやしながら豪快にお辞儀する。
「どーも!神の概念から外された!八幡宮。改め『傲慢な龍』です。以後、お見知り置きを。」
…もしかしたら俺は、とんでもない空間にいるのかもしれない、と改めて再認識させられた。
ここで切ります!ひっさびさの投稿です!しばらく体調が悪くてお休みしててごめんなさい…。これからは投稿できる限り再開していきます。目指すは4月までに完結。それと、定期テストが近いので、また長い休みを貰うかもしれません。範囲が…!!範囲が広すぎるじゃ…!!
今回の物語についてまとめたかったのですが、そんな時間は無いのでおつはる!!
コメント
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や〜、もうなんか、うん すっごい、概念って消せるんだぁ…
やっぱスケールでかいなぁ