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重い買い物袋を持って帰宅する。いつもは2人で帰ってくるところだが、今日はせんせーが仕事だったので私1人だ。


「ただいまー」


なんて言っても、返事は返ってくるはずがない。

少し寂しさを感じながらものそのそとリビングへ向かう。


せんせーはいない


はずだった。


強い力で右の手首を掴まれ、突然のことに驚き買い物袋を落とす。大きい音が床に響き、先ほど買ったみかんが袋ごと買い物袋から転がり出る。最近高くなってきて久しぶりに買った卵の安否を気にしている余裕は私にはなかった。


電気を点けなかったおかげで暗い。けれど爽やかな匂いで確信した。


「せん、せー?」


相手は間違っていないはずなのにいつものような返答がない。掴まれた右手首の力が強くなる。


「いたっ!離して、せんせ」


最後の文字を伸ばす前にガバリと抱きしめられる。でもそれはいつものような優しいものではなかった。強く、強く、痛い。痛さと呼吸の難しさに彼の体を叩くが離してくれる様子がない。身体を捩り逃げようとしても背中に腕が回されていて成し遂げられない。このままでは本当に死んでしまうと思ったところでやっと力が弱まった。

突然流れ込んできた酸素に身体が波打ち倒れ込む。殆どえずくようにして身体を落ち着ける。


「な、に…」


表情が見られない。彼を怖いと思った。後ずさるにも後ろは壁。


何を考えているのかわからない。


どうしたいの、何が嫌なの


子供にするような質問が頭を巡るけれど1人ブラックホールの中に吸い込まれるような恐怖を覚え、その不釣り合いさにさらに恐怖を感じる。


「言ってくれなきゃ、分かんない」


絞り出すようにした情けない声で相手に問う。


「…俺じゃないん?」


相手の声を聞いて驚いた。

まるで、何かを怖がっているような声。


「俺じゃだめなん?他のやつの方が…」


「どういうこと?ちゃんと、説明して」


「…」


無言で写真を私に突き付ける。それは、私と、キャメさんの2人きりの写真。女性に人気のブランド物の袋を持ったキャメさんと満足気に隣で歩く私。側からみればまるでカップルのよう。

この日は___


「仕事の日、やったよな?」


仕事の日。私はせんせーとデートの約束をしていたこの日、仕事を忘れていたと何度も謝りせんせーも仕事なら、と許してくれた。


「まちこ、この日仕事で貰ったってこの袋持って帰ってきたやん」


ちゃんと、説明してはこっちだよ


消え入りそうな声でそう呟いたせんせーの、その時初めて見た目は私とは視線が合わなくて、まるで私の視線を怖がるように下を向いていた。

握られた手首を離され、私と少し距離を置くせんせーの頭を優しく撫でる。


「私とキャメさんは付き合ってないよ。お互い恋愛関係でもない」


その言葉に彼が少しだけ安堵したかのように見えたのは気のせいではないだろう。


「じゃあ何で嘘ついたん」


「この日予定を忘れてたのは本当。

私、キャメさんにじゅうはちの誕プレ選びを手伝って欲しいって頼んまれてたの。女性に何を送ればいいのかマジでわからんって。この写真だとわからないんだけどキャメさん2つ紙袋持ってて私が手伝ったお礼にって買ってくれたんだよね。せんせーに内緒にしてた理由は…」


もごもごと言い淀む。せんせーは下の唇を噛みながら顔を伏せていた。


「いいんよ。俺のこと好きじゃなくても」


彼なりに私が好きな選択肢を選べるように譲ってくれているのだろう。けれど目は口ほどに物を言うとは本当らしい。チラリと見えた目はまだ私の視線を避けるように彷徨っている。


「私もキャメさんに聞いたの。せんせーは何が好きかって。それで、プレゼント買った…サプライズで渡したくて」


「え」


「じゅうはちの誕プレ選びに行ったってことだけせんせーに言ったらよかったんだけど、うっかり口滑らしちゃうかもしれないって思って。口滑らしたらせんせーには誤魔化せないから、最初から嘘ついちゃった方がいいかなーとか思っちゃって…」


「…」


「ごめん」


「…」


「だから、私が好きなのはせんせーだよ」


「…」


口を閉じたままのせんせーにまだ疑いは晴れていないのかも、と思い自分の部屋から例のプレゼントを持ってこようと立ち上がる





つもりが、それは私の左手を掴む手によって阻まれた。


「よかった…」


そのまま手を引き寄せ、今度は優しく抱きしめられる。


彼を安心させるために、私はもう一度愛の言葉を囁いた。



















最初書いてる時はあまあましろまち〜とか思ってたんですけど読み返したら愛重すぎん?ってなったのであやふやなラストになりました。

最近不憫な彼女ネタ(作者名伏せます)読み漁っててちょっと近いものができました

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