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コンコン。
その時、社長室をノックする音が。
「神崎です」
「はい。どうぞ」
「すいません。そろそろ次の約束のお時間です」
すると神崎さんがドアを開けてそう伝える。
「あぁ・・もうそんな時間か・・。ごめん麻弥。全然時間なくて・・」
結局麻弥にもちゃんと納得してもらえないまま時間が来てしまった。
「いっくん・・・。いっくんがさ、透子さんのことそれだけ想ってるようにさ、私もずっとそれ以上にずっと前からいっくんだけのことが好きで諦められないの・・わかってね」
「麻弥・・・」
正直その言葉は、麻弥の今の全部の気持ちで。
その気持ちを痛いくらいわかっていても応えられない自分も辛くて。
「じゃあね。いっくん!」
そう明るく告げて、麻弥はこの部屋を後にする。
はぁ・・・。
結局麻弥はわかってくれたんだろうか・・・。
いや、麻弥は昔から物わかりいいフリをして、だけど最後には必ず自分の欲しいモノは手に入れようとする時がある。
一人っ子で母親がいない分、叔父さんに可愛がられて。
一度は我慢しようとはするモノの結局は我慢出来ずに叔父さんにお願いして手に入れる。
だから、麻弥のあの反応を見て、なんとなく嫌な予感がする。
オレも今までそんな麻弥が心配で妹みたいに接してたから、つい甘やかしてそんな我儘も許していた時も多くて。
だから、今回もそんなオレだから、麻弥はその我儘をきいてもらえるって思ってるかもしれない。
だけど、今回は今までとは状況が違う。
麻弥でも今回だけは受け入れられない。
「神崎さん・・・。ちょっとお願いがあるんだけど」
呼びに来たまま部屋で待ってくれている神崎さんに声をかける。
「どした?」
「もしさ・・今後透子がオレいない時に、オレか神崎さん訪ねて来たらさ、ここ連れて来て全部伝えてほしい」
「全部・・って?」
「会社が大変なことも、麻弥のことも、今までのことも。透子が知りたいって思ってること、神崎さんが知ってる全部」
「わかった」
「なんとなくさ。麻弥、このまま終わりそうにない気がして」
「まだ納得してない感じするのか?」
「多分ね。あの言い方は多分、麻弥どんなことしても思い通りにすると思う」
「それが望月さんにも影響するのか?」
「アイツ・・オレの気持ちは確かめたはずだけど、相手誰か確認してきたし・・。オレじゃなく今度は透子側にもなんかするんじゃないかなって」
なんとなく、予感なだけだけど。
だけど、麻弥のことはきっとオレが一番よくわかってる。
当たってほしくない予感だけど、実際は・・・。
「そこまで?」
「多分ね。思い過ごしで済んだらいいんだけど、万が一のことも考えてさ」
「なのに全部話して大丈夫なのか?」
「だからかな。透子がもし不安になることがあれば、神崎さんが助けになってあげてほしいんだ。また多分透子一人でいろいろ考えてツラい想いしてしまうかもしれないから」
「オレでその役目になるなら」
「多分、透子はそうなってもオレに聞くこと出来ないだろうから」
「本来なら樹の口から全部話す方がいいとは思うけどな」
「そうだね。でも透子は自分より他人の幸せ考えちゃう人だからさ。オレに言わずに決めちゃいそうなんだよね」
「まぁお前ら今までもそういうこと何度かあったしね」
「うん。あんなにさ、オレにとって必要な人で大切なんだって、いくら好きだって伝えても、なかなか自分の魅力に気付かないで自信持たない人なんだよ。だからさ、オレがどれだけ気持ちを伝えても透子は簡単に受け入れてくれないだろうし、なかなか説得出来ないのもわかってるんだよね」
こんなにもずっとオレの気持ちを伝え続けているのに、なぜかどこかしら自信がなくて、なかなかそんなオレの気持ちを信じてもらえなくて。
それは、それほど今はオレのことを透子も好きになってくれているからなのか。
それとも昔のトラウマで、相手が誰であったとしても、自信を持てないからなのか。
結局オレが透子への気持ちが大きすぎるから、透子が気持ちを返してくれたとしても、全然足りなくて。
もっと望んでしまうオレがいる。
だから、ホントの透子の不安や心配も、もしかしたらオレもわかっていないのかもしれない。
「それでも全部伝えてもいいのか?」
「うん。もう透子に出来るだけ隠し事はしたくないから」
だから今は、一つでも、少しでも、透子の心配や不安を無くしたい。
どんな状況であろうと、オレは透子が一番大切なのだとわかっていてほしい。
「はぁ・・でもな~多分そうなると透子別れるってなるんだろうな」
だけど、透子のことだからまたそれで考えてしまうかもしれないのもわかっているから。
正直今は自分でも何が正解なのかもわからない。
「まぁ今すぐ決められることでもないからな・・・」
「だからさ・・・神崎さん。もし透子が一人で悩んで別れる決心しそうだったら引き止めてほしい。オレを信じてもらえるよう説得してもらえないかな・・・」
なんとなく、そういう状況に追い込まれれば、きっと透子は自分じゃなく周りの気持ちや状況を考えるだろうから。
そしてきっとそれがオレの幸せだとか、麻弥の幸せだとか言って、一人ツラい選択をしてしまうだろうから。
全部知ってほしいと思いながらも、それがもしかしたら透子を悩ませる原因になるかもしれない。
だけど、やっぱりオレはそれでも透子といたくて。
離れようとするかもしれない透子を、誰かに頼んででも引き止めようとするほどカッコ悪くて。
「わかった。オレが出来る限りのことはするよ」
だけど、ずっとオレのそんな気持ちを知ってくれて、今の状況を全部わかってくれている神崎さんには、そんなオレのカッコ悪い姿を見せてでも本音を伝えられる。
そして、こうやって温かく受け入れてくれる。
「やっぱさ・・・透子と別れたくないんだよね・・・。でも、もし、万が一そうなるとしても、ちゃんと透子と話し合って答えを出したい。二人でちゃんと未来を決めたい」
透子が自分一人で悩んで決めて、ツラい想いをしてしまうのだけは嫌だから。
例えもしオレたちが、このまま結ばれない運命だとしても、この透子と出会えたオレの運命も二人で過ごした時間も、全部無かったことにしたくないから。
「もう少し、時間があればな・・・。樹の伝えたいことも気持ちもわかってもらえるのにな・・・」
全部知ってる神崎さんが、ふとそんな風に呟く。
そう。こんなにも早く二人の関係に答えを出さなければいけない時が来るとは思ってなかった。
透子と幸せになる為に、ずっとここまで動いて来た。
だけどそれがまだ形になる前に、二人の関係にもしかしたら不本意な選択をしなければいけないかもしれない。
「まぁ、今後結果がどうであれ。オレは諦めないけどね。透子のこと」
まだこの先実際どうなるかはわからない。
透子とこのままいれるかもしれないし、もしかしたら別れることになるかもしれない。
だけど、きっとオレは透子を好きでいる気持ちはずっと変わらない。
「樹・・」
「あっ、そろそろ時間かな。じゃあ会議行ってきます」
「あぁ・・」
そろそろ重役との会議の時間が近付いてきたのに気付いて、話を切り上げた。
先が見えない将来。
きっともう自分たちだけで選べる未来じゃなくなっていて、きっとどこかで強く守ってる想いも、貫けなくなり始めてることに、ホントは少しずつ気付き始めていて。
今どれだけ悩んで不安になっていても、いつかその時は来てしまう怖さも感じている自分がいて。
だけど、気付かないフリをして、今目の前のことを頑張っていれば、もしかしたらそれは来ないかもしれないなんて、そんな小さな希望を望んでみたり。
そんな希望は、きっと実現しないこともやっぱりわかっていながら、だけど、ほんの少しでもそんな気付きたくないいつかの現実に、まだ目を背けていたくて。
少しでも長く、今のままでいられるなら、そんな時間がずっと来なければいいのに。
時間さえあれば、もっとオレが頑張れれば、いつか本当にその望みは叶うかもしれないのに。
オレの望みは、ただ透子とずっと一緒にいたい。
ただそれだけなのに・・・。