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7 - 第7話白い治安

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2022年08月20日

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声を出したつもりだったが、聞こえてくる音は相変わらず無音のままだった。おそらく、向こうの声もこちら側に届いているとは思えない。つまり、今の自分は誰にも認知されていない状態なのだ。

しかし、この白い世界で一人ぼっちというのは寂しいものだ。こうなった原因を突き止めるため、とりあえず元いた場所に戻ろうと思った。幸いなことに、来た道を戻ることは簡単だったので迷うことはなかった。

さて、問題はどうやってここから出るかということだ。今まで歩いてきた道を引き返すわけにもいかないし、他に出口があるとは思えない。となるとやはり進むしかないのだろうが……。

うーん、やっぱり無理じゃないかなあ。

僕は諦めることにした。

どう考えても、これ以上先に進んでも同じ光景が続くだけだと思うんだけど。

それでも行くっていうなら止めはしないけどね。

とりあえず、今できる範囲のことをやってみようかな。

そう思って足を踏み出した瞬間、急に強い風が吹いた。その勢いに押されるようにして前につんのめり、地面に倒れ込んでしまう。何が起こったのか理解できず、呆然と立ち尽くしたまま風の吹く方角へ顔を向けると、そこには真っ白な扉があった。

なんだこれ……。

近付いてみると、扉の表面には見たこともないような文字が書かれていることがわかった。

読めないよ! どうしろって言うんだよ!! 途方に暮れながらも、扉を押し開けようとする。すると、あっさりと開いた。中の様子を窺おうとして恐る恐る覗き込むと、その先にあったのは全く同じ風景だった。

どうなってるんだろう。

まさかとは思うけれど、ここは一方通行とかそういう類の空間なんじゃないだろうか。

そうだとしたら、この先に進む意味はあるのか? ここで引き返した方が賢明かもしれないぞ。

でも、戻れる保証なんてどこにもないんだよなぁ。

このまま当てもなく彷徨っているだけでは、何一つ事態が進展しないどころか、さらに迷うだけだ。

そこで僕は、一先ず道標のようなものを見つけることにした。

手始めに近くにあった岩に触れてみることにする。

触ってみると、ひんやりとした冷たさが伝わってくると同時に、その質感もはっきりとわかった。間違いなく自然の産物であり、人工物ではないはずだ。

とりあえずこれで次の目的地が決まったわけだが、問題はどこに向かえば良いのか全く見当がつかないことだ。適当に進んだとしても行き止まりになる可能性の方が高い。さすがにここまで来て無駄足を踏むのだけは避けたいところなのだが――。

困った時は原点に立ち返れと言うが、ここはまさにスタート地点だ。これ以上進むべき方向なんて存在しない。

ふと思いつき、足元に転がっていた石を拾って投げてみると、放物線を描きながら遠くの方へ飛んでいった。つまり投げた石がそのまま地面に落ちない限り、僕の立っている位置は常に変わっていないということになる。ならば僕がいるこの場所が起点となるはずなので、そこから真っ直ぐ進めば必ずどこかに出られるはずだ――と思った瞬間、視界いっぱいに青い空が広がっていた。

見渡す限り一面に広がる青々とした草原を眺めて思うことは一つだけだった。ああ、僕はとうとう死んだんだなあ。あまりにもあっさりとした終わり方だったので実感がわかないけれど、まあいいか。

「おめでとうございます」

突然声をかけられたので振り返っみると、そこには見知らぬ女性が立っていた。年齢的には二十代半ばといったところだろうか。とても整った顔立ちをしている上にスタイルも抜群なのだが、何より特徴的なのはその髪の色だ。銀色に輝く長い髪を背中辺りまで伸ばしており、太陽の光を浴びてきらきらと輝いている。

「えっと、あなたは誰ですか?」

当然のことではあるが、まったく心当たりのない人だった。

「私は天使です。名前はありません」

天使と名乗った女性は淡々と答えた。

天使って本当に存在したんだなあと感慨深く思いつつ、質問を続けることにした。

「ここはどこなんでしょうか?」

「天国です」

こちらの質問に対し、天使を名乗る女は淡々と答えた。

先ほどまでの恐怖心は既に消え去り、今度は怒りに似た感情が湧き上がってきた。冗談じゃないぞ! こんなところにいつまでもいたら頭がおかしくなりそうだ!! そう叫びながら立ち去ろうとしたものの、何故か足を動かすことができなかった。どうやらこの場所からは移動できないらしい。これじゃあまるで牢獄じゃないか……。

それでも何とか抜け出そうともがき続けていると、突然どこからか声が聞こえてきた。その声の主を探すために辺りを見回したが誰もいない。まさか幻聴かと思いかけたとき、再び同じ声で呼びかけられた。

「あなたは自分の人生に不満を感じていますね」

さっきまで何の反応もなかったはずの空間から急に声をかけられ、心臓が激しく鼓動し始めた。動揺する気持ちを抑えつつ、慎重に言葉を選びながら返事をする。

ああ、確かに不満だらけだよ。

毎日のように上司の小言を聞かされるわ、同僚とは些細なことで喧嘩になるわ、休日になれば家でゴロゴロするか買い物に行くくらいしかないわで退屈な日々の連続だ。しかも、このまま一生独身で過ごすことになるかもしれないなんて考えるだけでも憂鬱になってくるよ。それに、恋人どころか友達すらろくにいないせいでストレスも溜まる一方だしね。

そんな私にとって唯一の楽しみといえば、仕事帰りにレンタルショップに立ち寄って新作映画を借りてくることだった。何しろ、私は映画館へ足を運ぶような金のない小市民なのだから。

その日はいつもより早く帰れたので、寄り道せずに真っ直ぐ家に帰った。本当は駅前の大型スーパーに寄ろうと思っていたんだけどね。しかし、いざ自宅に到着してみると留守番電話サービスのメッセージが流れて来ていたので仕方なく自室に直行するしかなかったわけさ。

再生ボタンを押すとすぐに若い女性の声が聞こえて来た。

「もしもし、こちら○○警察署です」

「○○さんですね?」

「はい、そうですけど」

「○○さんのご自宅に強盗が入ったとの通報がありまして」

「犯人は○○さんをナイフで刺した後、逃走しようとしたところを警察に確保されました」

「幸いにも一命を取り留めたとのことですが、意識不明の状態で病院へ搬送されたようですね」

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