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異世界への扉が開かれたとか、不思議な力を手に入れたとか、そういった話ではないらしい。まあ、当然と言えば当然の話ではあるが。
じゃあ、自分は死んだのか? いや、それも違うはずだ。さっきまで普通に生きていたわけだし、痛みもちゃんと感じられた。それに、もし仮に肉体的に完全に消滅したとしても魂だけは残りそうなものだし、魂だけの存在として存在するなんていうこともないだろう。
というかそれ以前に、今ここで思考していること自体がおかしいような気がする。
そうだ! 確か、僕は病院にいたはずなのだ。それで、何だかよくわからないけど急に意識を失って、それから……。……ダメだ、思い出せない。記憶が混濁していて、断片的な情報しか出てこない。とりあえずここはどこなんだ?……それに、僕と一緒にいたはずの人達はどこに行ってしまったんだろう? もしかして、みんな僕の見間違いだったという可能性はあるんだろうか。だとしたら、早くこのことを確かめないと―――。
そこで僕はようやく目が覚めた。いつも通りの朝が始まるはずだった。ところが今日に限って目覚まし時計が鳴る前に起きてしまったらしく、ベッドの上で目を開けても、部屋の中は真っ暗なままだった。寝ぼけ眼のまま体を起こしてみると、何だか妙に体が重い気がする。おまけに手も足も動かない。
嫌な予感がしたのでとりあえず目隠しをしてみたところ、やはり予想通りだったらしい。
どうやら何者かによって拘束されているようだった。
「うーん……」
僕は大きく伸びをした。さすがにこれだけ長時間同じ姿勢のままでいると、腰の辺りにも痛みを感じる。このままの状態でいるわけにはいかないと思い立ち、早速脱出を試みてみることにする。まずは手始めに腕を動かそうとしたところ、指先が硬い物に触れた。どうやら金属製の手錠がかけられているようで、鍵がなければ外せなさそうだ。次に足の方を調べてみると、こちらは特に問題なく動かせた。なのでひとまず安心することができたのだが、ここから脱出するにはさらなる困難が予想された。というのも、手足を縛る鎖のようなものはいくら引っ張ってもビクともしないし、目隠しのせいで視界は閉ざされている。おまけにドアらしきものも見当たらなければ窓もなかった。まさに絶体絶命の状況といえるだろう。
それでも何とか気持ちを落ち着かせて周囲を観察した結果、どうやらここはどこかの部屋の中のようだということに気付いた。床も壁も天井さえも真っ白な部屋の中で、机の上に一冊のノートが置かれていることに気が付いた。恐る恐る近付いてみると、表紙に書かれた文字を見て心臓が止まりそうになった。そこには『日記』と書かれているではないか! 慌てて中身を確認しようとしたが、なぜかページを開くことができない。何度も試したが結果は同じだった。仕方なく諦めることにした。おそらく他人の日記を読むなどあってはならないことだからだ。
次に、壁に貼られているカレンダーを確認したところ、ちょうど十年前の日付になっていることがわかった。その瞬間、嫌な予感がした。なぜなら今日は七月二十六日なのだから。
つまり自分は今十八歳ということか? いや、違うはずだ。確かに記憶を失っている可能性はあるが、さすがにそこまでではないと思う。ということは、これがタイムスリップというものなのだろうか? そうだとしたら、なぜこの場所にやってきたのだろう。過去の自分に何かを伝えようとしているのかもしれない。あるいは単に運良く過去へ来られただけなのかもしれない。いずれにせよ、ここにいても何も得るものはないと判断して外へ出ようとしたとき、突然ドアが開いて誰かが現れた。
「おはようございます」
反射的に振り向いたが、そこに立っていた人物は見知らぬ人だった。
しかも、いきなり話しかけられてしまった。
とりあえず挨拶を返しておくことにした。
「あぁ、お、おはようございましゅっ!」
「えっと、君は確か」
見覚えのある女の子がそこにはいた。名前は知らないけれど、どこかで見たことがあるような気がする。
「わ、私の名前はですね! ひ、柊といいまして、あなたとは昨日も会ったんですよ?」
彼女は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしているものの、なぜか嬉しそうな表情をしている。いったい何なんだこの状況は? ここはどこで、君たちは誰なんだ? 僕にはさっぱり理解できないぞ。
「ふぇ? そ、その前に、貴方のお名前を聞かせてくださいよぉ~」
僕の名前を呼んだ直後、白衣を着た医者らしき女はその場に倒れてしまった。慌てて駆け寄り、声をかけても反応は無い。完全に意識を失ってしまったようだ。脈はあるようなので生きてはいるらしいが、この状況は非常に不味い