テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それから数週間が過ぎたある夜、9時を少し回った頃、仕事を終えた瀬名が理人の待つマンションに帰ってきた。
今日は理人がどうしても外せない用があるとかで、きっちりと定時に上がってしまい、会社を出る時は少し寂しい思いをした。
だが、その後スマホに「部屋で待っている」と一言メッセージが届いた時は、嬉しくてつい頬が緩んでしまった。
思わずニヤけそうになる口元を引き締め、鍵を開けて玄関の扉を押し開ける。すると、ふわんと食欲をそそる、スパイシーで温かなカレーの匂いが漂ってきた。
靴を脱ぎ、吸い寄せられるようにキッチンへ足を向ける。そこには、エプロン姿の理人が鍋の中を真剣な顔でかき混ぜている後ろ姿があった。その光景を見た瞬間、瀬名の胸の奥がじんわりと熱くなる。
「ただいま、理人さん……。珍しいですね、理人さんがキッチンに立つなんて」
愛おしさが昂じ、背後から吸い付くように抱きしめた。肩と腰に腕を回して拘束し、無防備な耳元に軽く唇を寄せる。くすぐったそうに首を縮める仕草が可愛らしくて、そのまま白く項垂れた首筋に深く唇を押し当てると、ピクッと小さく肩が震えた。
「……すごく、美味しそう」
腕の中から鍋の中を覗き込む。コトコトと小気味いい音を立てて煮込まれたそれは、深みのある黄金色をしており、漂う香りが容赦なく食欲を刺激してくる。
「ま、まぁ……今日はたまたまカレーが食いたい気分だったんだ。だから……」
「うん、カレーもだけど、理人さんが、ですよ」
「あ? はっ!?」
耳元で甘く囁き、驚きに開いた唇から舌を差し入れながら、空いた手をシャツの中に滑り込ませた。不意打ちを喰らって逃げようとする身体を強引に抑え込み、耳を嬲りながら胸の突起を指先で強く摘まみ上げる。
「ぁっ……ば、ばか……っダメだっつってるだろうがっ」
秘めた敏感な部分は、瀬名の爪が薄い皮膚を掠めるだけで、すぐに芯を持って固く尖ってきた。そこを執拗に、弄ぶように責め立てると、理人は瀬名の手から逃れようと身を捩りながらも、次第に熱い吐息を漏らし始めた。
「ん……は、はなせっ……てっ」
「ん? ココだけでイっちゃいそうなんですか? 可愛いなぁ、理人さん」
「ち、ちが……んんっ……」
コリコリと強弱をつけて芯を刺激するたび、理人の口から切なげな声が零れ落ちる。このままここで押し倒し、エプロンを剥ぎ取ってしまいたい衝動に駆られたが、瀬名は残った理性でなんとかそれを抑え込み、理人の身体を解放した。
「は、はぁ……は……っ」
「ごめんなさい、ちょっと調子に乗りすぎました。せっかく理人さんがご飯作ってくれたのに。……続きは、食べてから、ですね」
「……っ、クソ……あ、当たり前だ。馬鹿……っ」
赤くなった顔で睨んでくる理人だが、その瞳の奥にほんの一瞬、物足りなげな、不満そうな色が浮かんだのを瀬名は見逃さなかった。 だが、理人のほうも自分の正直な反応に戸惑っているようで、すぐに誤魔化すように眉間に深い縦じわを寄せて睨みを利かせてくる。
「……っ」
その、強がりと情欲が入り混じった表情があまりにも扇情的で、瀬名はゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。本当にこの人は、どうしてこうも無自覚に煽るのが上手いんだろう。せっかく押さえ込んだ欲望が、沸々と鎌首をもたげ、今にも暴走してしまいそうだ。
「……? どうした?」
「いえ、なんでもないです。それより、僕も何か手伝いましょうか?」
瀬名は必死で平静を装うと、何事もなかったかのように微笑みかけた。
「いや、もうほとんど出来上がってるから、お前は先に風呂入って来い」
「……理人さんと一緒に入りたいんだけどなぁ」
甘えるような口調でねだると、途端に理人から鋭い視線を投げかけられる。どうせ却下されると分かっていながら、ワザと言っているのだ。案の定、呆れたような溜息が返ってきた。
「チッ……いいからさっさと行け!」
「はーい」
瀬名を追い払うようにシッシと手を振る理人にクスッと笑って、瀬名はそのまま浴室へ向かった。
入浴を終え、リビングへ戻ると、テーブルの上には既に二人分の食事が用意されていた。理人も丁度洗い物を済ませたところらしく、手を拭きながら戻ってきた。
「すみません、全部やらせちゃって」
「構わねぇよ。今日は気が向いただけだ」
理人はぶっきらぼうに答えると、瀬名の向かい側に座った。そして、早く食えと言わんばかりに顎でしゃくってみせる。
瀬名は苦笑すると、「いただきます」と呟いてスプーンを手に取った。一口食べると、数種類のスパイスが複雑に絡み合った旨味が、舌の上で溶けるように広がる。
「どうだ? 美味いか? ……美味いだろう?」
瀬名が黙々とカレーを口に運ぶのを見て、理人は何処か不安げに、けれど自信を滲ませて問いかけてきた。強気な言葉とは裏腹に、その瞳は瀬名の反応を待って緊張に揺れている。
「はい、とっても。……今まで食べたカレーの中で、一番ですよ」
「そ、そうか……」
瀬名の感想を聞いて、理人は何処かホッとしたような、誇らしげな表情を浮かべた。
「それにしても、市販のルーを使ったんですよね? なのにすごくコクがあって美味しいです。何か隠し味とかあるんですか?」
「……それは、その……」
何気なく尋ねた言葉に、理人は何故かもごもごと口籠る。
「理人さん?」
「……」
瀬名が先を促すと、理人は少し恥ずかしそうに俯いたが、やがて観念したのか、ボソッと小さな声で答えた。
「……その……明日は、バレンタインだろう? だから……」
瀬名は一瞬目を見開くと、すぐにその言葉の意味を理解して、破顔した。
「あぁ、そういう……。ふふ、そっか……それで、チョコを……」
「この時期に買うの大変だったんだぞ! 男一人で専用ブースになんて行ってみろ、若い女どもには変な目で見られるし、味の想像もつかねぇし……!」
チョコ専用ブースで悶々と悩み、気まずそうに会計をする理人の姿を想像すると、不謹慎だが愛おしくて笑えてしまう。
「ありがとうございます。嬉しいです、すごく」
瀬名が素直に礼を言うと、理人は照れ臭そうにそっぽを向き、残ったカレーを急いで口の中に頬張ると、そそくさと席を立った。 そんな理人の一挙手一投足が愛おしくて堪らない。どうしよう、顔がニヤけて止まらない。
「――理人さん」
その後を追いかけ、流しに皿を置こうとした理人の腰に腕を絡めた。反射的に顔を上げたその唇に、チュッと触れるだけのキスを落とす。
「なっ!? ――ンっ!」
驚いた理人が文句を言おうと口を開いた隙に、すかさず舌を差し込んだ。逃げるように引っ込められた理人のそれを捕らえ、執拗に絡みつく。
「っ、ん……ぅ……」
歯列をなぞり、上顎を舐め上げると、理人の身体がピクンと震え、甘い吐息が洩れた。
「ふふ、カレーの味がしますね」
「っ! 当たり前だっ!」
真っ赤になって俯いてしまいそうになる顎を持ち上げ、再び唇を塞ぐ。
「ん……ふぁ……」
鼻から抜けるような色っぽい吐息は、ギリギリ保っていた瀬名の理性なんて、簡単に吹き飛ばしてしまいそうだった。もっと深く味わいたくて、角度を変えて何度も舌先を絡ませていると、理人の身体からうっとりと力が抜けていく。理人の腕が瀬名の背中にしがみ付くように回され、身体が密着した。
「はぁ、可愛い……」
普段はあんなに強がっているくせに、こうして瀬名に触れられると、すぐに快楽に流されてしまうところが堪らなく愛らしい。
(もっと、もっと気持ち良くさせてあげたい……)
そんな邪な感情が沸き上がってくるのを感じながら、瀬名は理人を壁に押し付け、より一層激しく口内を貪った。
「ん、ふ……んん……瀬名……もっと……」
「……ッ」
理人が求めるように腰を擦り寄せてきて、熱い吐息が耳に掛かる。トロンと蕩け切った表情を見せられれば、我慢なんて出来るわけがない。
「ベッド、行きましょうか」
耳元で囁いてやると、その気になってきたのか、理人はコクリと頷く。欲しくて堪らないのか、股間をいやらしい手つきで撫でられ、瀬名の理性が飛びそうになった。
「っ、もう……煽ったのは理人さんだからね」
瀬名は理人の腰を抱き寄せると、そのまま寝室へと足を向けた。明日を待たずに、今夜は彼を存分に味わい尽くすつもりで。