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きなこもち
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「メチャ南。お前、死んだんじゃなかったのか」
久々の出勤で再会した同期、アジカンこと味野環九郎はだいぶ疲弊していた。
顔色は悪く、言葉に力がないし、なんだかふらついている。
「ちょっとプライベートが忙しくて休暇とっていただけだって。同期を勝手に殺さないでくれ」
同期で話そうと屋上のヘリポートに移動する。まだ残暑が厳しく、空には青空が広がっていた。
「俺らの同期ってさぁ、10人ぐらいいたよね」
「いたね」
「最近起きてないの?」
無言になる同期。
「ガヴァイは?」
「闇堕ちした」
「ジェイミーは?」
「闇堕ちした」
「ぺんぺんは?」
「週一ぐらいで起きてくる」
「勇者は?」
「たまに起きてくる」
「あと誰だろう。ぷちおとか?」
「他は死んだ」
10人いた同期のうち、ほぼ毎日出勤しているのはアジカンだけ。たまに起きてくるのが2名、2名が闇堕ち。それ以外、長い間出勤していなかった同期は死んだことにされていた。アジカンの言い方だとは思うが勝手に殺すなよ。
「俺、プライベートが落ち着いたからこれからは遅い時間になるけど出勤できるようになるよ」
「そうか。それは助かる」
とはいえ、自分が不在だった間に、同期はランクを上げ警察の主力として成長していた。素直にすごいと思うが、おいて行かれたような気もした。
そんな自分の表情を見たのか、感じ取ったのか、同期から思いがけない言葉をもらった。
「おいていったりしないよ」
「………」
「また一緒に並んで走ればいい」
「………そうか」
同期はこの時、何を思っていたのだろう。先ほどより少し声が明るい感じがした。
「そう言ってくれて、ありがとう。これからはそばにいるよ」
ついでに最近の警察の様子を聞こうとしたらタイミングよく無線が入る。
─── BMCにピエロ。至急来てください。
無線を聞きすぐさま動き、同期のパトカーの助手席に乗り込む。
「ピエロって何?」
「行けばわかる。銃撃戦になる」
「ええ?どういうこと?」
同期は相変わらず説明が下手なようで頭の中に浮かぶのは疑問ばかりだ。
そうこうしているうちに報告のあったBMCに着いた。
そして同期の言った言葉通りの風景が目の前にあった。
見たことのない格好の心なき───おそらくピエロ───が無差別に銃を乱射していた。少なくとも自分が休暇に入る前は見かけなかった光景だ。
同期が撃った銃声に我に帰り、すぐさま制圧を開始する。
─── どんだけいんだよ
相変わらず状況は把握できていない。ただ目の前にいて市民の脅威となっている相手を制圧する。
どれほど撃ち続けたか。ようやく目に見える範囲の脅威は制圧できた。BMCの従業員は店舗内に避難していたらしく無事。ピエロが現れた時に店舗にいたキャップが応戦の上ダウン。
他にダウン者がいないか辺りを見回すと、同期は倒したピエロを調べていた。
「アジカン、何してんの?」
「こいつらの持ち物を調べている」
「何か出てくるの?」
アジカンの隣にしゃがみ込み、別のピエロを同じように調べてみる。
「カードとかコインとか色々」
確かに調べてみるとなぜかメカニックツールが出てきた。アジカンに聞くと破棄していいらしい。
片付けが終わり署に戻る途中、ピエロのことを聞いてみた。
「このピエロってたまたま?」
「いや、最近ずっとこうだよ。U.F.O.も出たし」
話は聞いてみたが、世紀末かSFのようで現実味がない。
「普通の犯罪は?大型とか」
「それも普通にある」
「警察足りてる?」
「どうだろ」
─── 本署にピエロ!襲われている!
今度は本署か。本当に休む暇もない。これで普通の犯罪もあるんでしょ?それはアジカンもあんな風になるわ。
無線を聞いたアジカンのパトカーは加速した。やることは決まっている。襲われたのなら相手を制圧するだけだ。
本署に戻り、すぐさま制圧に入る。先ほどより署員が多かったため早めに制圧はできた。同じように持ち物を調べ片付けをする。
「アジカン。さっきも聞いたけど、毎日こんな感じ?」
「そう。だいたい深夜になると襲撃が来る」
隣で黙々と片付けをする同期を見る。こんな事が毎日が続けば疲れる。
自分も含めて同期があまり出勤せず、周りは先輩ばかり。長時間勤務で体も心も疲れているように見えた。
仕方がなかったとはいえ、申し訳なさが募る。
口下手で抱え込む癖のある同期。せめて、これからはバディとして行動を共にしようと思った。
夏が終わりかけ秋に入りかける頃、ピエロの襲撃が激化し、市全域に戒厳令が出された。この危機に公務員も市民も犯罪者も直面していた。市長やブラックビジネスの関係者からこの危機を回避するための依頼があり、警察はそのミッションを取り仕切るE5バーガーや市との折衝が増えた。
本来なら署長をはじめとした上官でもさらに上のクラスの署員が対応すべき事案だが、突然呼び出されることもあり、毎日長時間勤務をしているアジカンが対応することが多い。
だが、アジカンで大丈夫か?ランク的には上官ではあるが口下手で説明が下手。その場で判断すべきことがあっても経験が足りない。情報や問い合わせで溺れやしないか?
案の定、他署員に説明を求められてうまく説明できなかった。明らかにキャパをオーバーしている。
出勤した時はバディとしてできる限りアジカンのそばにいよう。これ以上、疲弊している同期を見たくはない。
アジカンがそれを望んでいるかは知らないが、少しでも楽になればいいと思う。
市長から全人類転送が発表され、いわゆる最終決戦の日が来た。同期とはほぼ持ち場が離れ、自分は砂漠署を守ることになった。
市民、犯罪者と協力し、とにかく目の前の事象に対応する。
やがてアナウンスが流れ、地上にいたのに空中に投げ出され、意識が途絶えた。
新しい世界線の街に移った頃には季節は冬になっていた。年末が迫る中、警察に再採用され、似たようで異なる街で過ごす。
本署自体もミッション・ロウから西のベスプッチにある施設に移った。
この街では血痕や指紋といった証拠を調査するシステムが変わっていた。えびすさんと共にこのシステムを調べ他署員に教えていく中、科捜研所属となった。特殊車両に関する裁判をきっかけに法律上の相談などを以前より積極的に行うようになった。
「メチャ南、お前説明上手いな」
ある日、少し複雑な事件の状況説明をした時、キャップからそう言われた。
「アジカンは覚えているけど説明はあまりうまくないからな。お前の説明は端的でわかりやすい。この調子で頼む」
同期はあいかわらずアジカン以外は滅多に起きてこない。たまにぺんゆきやが起きてくるくらいだ。
科捜研や報告、法律関係。どれも簡単なことではないけれど、少しでも同期の手助けになればいいと思う。
「まぁ、俺がいる時は説明するから。なんでも言ってくれ。あと、たまには休め。遊びに行け」
あいかわらず口数の少ない同期だが、小さい声で返事があった。
「ありがとう。助かるよ。うまく説明するのが苦手なんだ」
警察の仕事はこれからも続く。科捜研や法律関係に詳しい署員はまだ少ない。
ただ、ずっと頑張っている同期が報われるよう、生きやすいようサポートするのも同期の仕事だろ。
「任された」
同期と並んで空を見上げる。
そこには夏の青空が広がっていた。
コメント
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第9話、読み終えました。 「置いていったりしないよ」「また一緒に並んで走ればいい」──この台詞が本当に沁みました。休暇明けで周りとの差に焦りを感じていた主人公に対して、口下手な同期がかける言葉だからこそ、重みがある。 ピエロの襲撃が日常化していて、長時間勤務で疲弊しているアジカンの姿が目に浮かびました。それでも「これからはそばにいるよ」と思える関係性が、この作品の根っこの強さなんですね。 世界線が変わってからは立場が逆転して、今度は主人公が説明上手なところで同期を支える。お互いの足りないところを補い合える同期っていいなあ、と温かい気持ちになりました。