「……言いにくいことなのか?」
「い、いえそんな……。ああ、でも、言いにくいことかも……」って、一人で勝手に焦りまくって、発言が支離滅裂になってるし……。
せっかく彼が散歩に誘ってくれて、話しやすいいいムードを作ってくれていたのにも関わらず、雰囲気ぶち壊しで嫌な汗でも吹き出してきそうで、テンパってポケットにあるだろう汗を拭くハンカチを探した。
すると、上着のポケットで、シャランと金属的な音がした。
コレってもしかして……と、探ってみると、ポケットから自宅のカギの付いたあのキーホルダーが出てきた。
そうだ、合鍵の方は忘れないようにとカバンに仕込んでおいたけれど、今日は寝坊して遅くなりそうだったから、急いで家を出た時に、こっちの鍵はカバンにしまわずに、ここへ突っ込んで──。
取り出した鍵をじっと見ていると、
「カギが、どうかしたのか?」
と、彼に尋ねられた。
「えっと……これ、あのキーホルダーなんです」
何から話せばいいのか迷って、裏っ返しになっていたキーホルダーを表にして、彼に見せた。
「ああ、あのペアのか。家の鍵を付けていたんだ。……これに、何か関係のある話なのか?」
「はい……あのチーフは、今はキーホルダーはどこへ?」
チーフのカバンからは、いつの間にかキーホルダーはなくなっていた。周囲からいろいろと噂をされていたこともあったし、外しても別によかったのだけれど、行方がやや気になっていた。
「キーホルダーは……君と同じだ」
「えっ、同じって、もしかして……?」
「ああ」と、彼が頷く。「家の鍵に付けている。カバンに付けたのは、元は君へのアプローチだったから、もう目立せることもないと思ってな」
まさか、彼の方も自宅の鍵に付けていたなんて……。だけどそれなら、会話もスムーズに運べるかなと考えあぐねていると、
「そうか、その話か……」と、チーフがふと察したように呟いて、「君が、そんな風に思ってくれて、嬉しいよ」と、私の肩をそっと抱き寄せた──。