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だいきが離れても、体の火照りは一向に引かない。それどころか、視界がふわふわと揺れて、スウェットの襟元がひどく窮屈に感じられた。
「やばい……顔が抜けない……」
熱を逃がそうとスウェットを脱ごうとするが、腕に力が入らず、布地が頭に引っかかったまま動きが止まる。暗闇に閉じ込められたような、情けない今の状況がおかしくなって、思わずふふっと笑いが漏れた。
「いつきくんも酔ってんのかよ。マジで全員手がかかりすぎ……」
呆れたような、でも少しだけ温度の低いりゅうせいの声。あ、今のちょっと本性出たな。酔うと甘えん坊どころか、毒舌になるタイプかよ。そんな発見がまた可笑しくてたまらない。
ぐいっと布を引っ張られ、ようやく頭がスポッと外に脱出した。けれど腕はまだ袖の中に捕らえられたままだ。
「りゅうせい、引っ張って……」
「これくらい自分でやってくださいよ。子供じゃないんだから」
「怒らないで……楽しい夜なんだから……」
「うわっ、ちょ、いつきくん?!」
「ふふ、捕まえたぁ」
ふざけて、脱ぎかけのスウェットをりゅうせいの首にひっかけるようにして、その体を自分の方へ引き寄せた。
……一瞬、鼻腔をくすぐる匂い。懐かしい、俺の好きな人の匂いだ。
「……もうっ、お酒臭い! シャワー浴びてきたらどうっすか?!」
どさくさまぎれに抱きしめようとしたが、すぐに腕をすり抜けられ、マジトーンで怒られた。……そうだよな。もう俺のことなんて、好きじゃないよな。ただの酒臭いおっさん上司に絡まれて、迷惑なだけだよな。
あー、やばい。突き放されたのに、心臓がうるさいくらいに脈打っている。
酔っているとはいえ、俺、とんでもなく大胆なことをした気がする。明日になったら「記憶にない」フリを徹底しなきゃ。
「いつきくん……俺も、だっこぉ……」
「ん~?」
振り返ると、ベッドで横になっていただいきが、薄目を開けてこちらに腕を伸ばしている。そうだ、こいつの誘いに乗るふりをして「泥酔したおじさん」を演じきれば、さっきの失態もうやむやにできるか……?
「いつきくん、先シャワーです! だいきくんはもう寝て!」
「いでっ!」
りゅうせいに軽く頭を叩かれただいきを見て、俺は耐えきれずに爆笑した。おかしくて、おもしろすぎて、少しだけ酔いが覚めていく。
「はは、シャワー行ってくるわ。……りゅうせいも、一緒に浴びる?」
本当に、これは下心なんて微塵もなく出た言葉だった。ただの冗談、その場のノリ。なのに、言った直後のりゅうせいの顔を見て、俺は「しまった」と硬直した。
「シャ、シャワーとか、そんな一緒に入れるわけないでしょ?!」
顔を林檎みたいに真っ赤にさせて、りゅうせいは「下着買ってきます!」と財布をひったくるように掴むと、逃げるように玄関を出ていった。
パタン、とドアが閉まる。
……ちょっと待て。今の反応、俺のことまだ好き説、ないか? 興味ない相手なら、もっと冷たくあしらうか、笑って流すはずだろ。普通、あんなに動揺して飛び出していくか?
「……俺が一緒に入ろうか?」
ベッドの上、いっちゃんの隣のだいきがニヤニヤしながらこっちを見ている。なんだよ、さっきは寝ぼけてたんじゃないのかよ。
「俺は、好きな人としかシャワー一緒に入らないの」
「うわ、マジかよ。やっぱ若くないと無理かー」
「バカ。そこだけじゃないだろ」
「……いい子だもんね、りゅうせい」
だいきがポツリと、どこか寂しそうに、でも全てを悟ったような声で呟いた。