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初音ライダー剣
第19話
“誘惑”
ミク/ブレイドらが水族館の内外でサーペントアンデッドらと戦っていた頃、リンはキヨテルと嶋により心理療法を受けていた。
キヨテル「さて、それではいいですか?リン。」
リン「…」
キヨテルはリンにケアの開始を促す。だが、リンは乗り気ではなく、頬杖をついて連れない態度で流す。その様子を見ていた嶋はリンにもう一度声をかける。
嶋「リン君、どうした?」
リン「…別に。てゆうか、何で私を出撃任務から外すのさ?」
リンは戦闘から外されたことで拗ねていた。
キヨテル「情緒不安定な者を戦闘に出すわけにはいきませんから。」
リン「…情緒不安定?」
嶋「リン君、君が以前より変わっていっていることは君自身も分かっているはずだ。だから今回は君を戦闘から外して、こうして心理ケアを実施してみることにした。」
リン「…」
キヨテルと嶋が交互に説明するが、リンはまだ気が乗らない。むしろ、何故自分にこんなことが?といった感じの目で、両腕を組んでひねた態度で座っている。
嶋「リン君、皆君のことを心配している。君さえ良ければ、こうして話をさせてほしい。」
リン「…」
嶋は親切丁寧な感じでリンに話を求める。だが、リンは未だ話す気がしない。その様子を察した嶋は一度退くことを考えた。
嶋「…すぐには無理か。仕方ない。キヨテル君、今日はこれまでにしよう。」
キヨテル「…そうですね。何の託も無しにこういうことをしたのも良くなかったかもしれません。」
キヨテルも嶋の意見に賛成し、この日は席を畳むことにした。
嶋「…リン君、今後も心理ケアは続けるつもりだ。よろしく頼む。」
リン「…」
嶋は今後も心理ケアを続けようとリンに言う。
翌日もキヨテルと嶋はリンの心理ケアを検討した。
キヨテル「…これで効果があると良いですね。」
嶋「焦らず行こう。彼女を救う術は必ずあるはずだ。」
2人はリンを助けるべく、あれこれと考えを張り巡らす。心理ケアを専門としていないキヨテルだが、嶋は心理分析を得意としており、温厚な性格と相まって的確な知識と方法でアドバイスしていく。そんな中、ウタが2人の間に声をかける。
ウタ「チーフ、お客さんが来られてます。」
キヨテル「私に?…誰ですか?」
ウタ「女の人です。それもキレイな。」
キヨテル「女の人…?」
キヨテルはウタの報告を訝しがる。そのキレイな女の人が自分に何の用だ?と。
嶋「行ってくるといい、キヨテル君。リン君のことは私とMEIKO君で面倒を見る。あまり女性を待たせるのは良くないというからね。」
嶋はリンのことは任せろと言い、キヨテルを後押しする。
キヨテル「…分かりました。」
キヨテルは釈然としないが、嶋の勧めに従い、「キレイな女の人」に会ってみようと思い、客間の方へ足を運ぶ。
客間に来たキヨテルは相手の顔も窺わずに挨拶する。こちらを早めに切り上げて、仕事に戻りたいと思ったからだ。
キヨテル「お待たせしました。私がここの支部長を務める氷山キヨテルです。」
?「あ、はじめまして。キヨテルさん。吉永みゆきです。」
キヨテル「?」
キヨテルは少し驚いた。自分を訪ねてきた女性・吉永みゆきはウタの言ったとおり「キレイな女の人」だった。
ウタ「チーフ、どうしたんですか?」
キヨテル「あ…ああ、すいません。失礼します。」
キヨテルはやや顔を赤くして客間のソファに座る。
キヨテル「…して、私に何か用ですか?」
みゆき「実は私、友人にあなたの噂を聞いてから、会ってみたいと思っていたんです。実際にお会いできて嬉しいですわ。」
キヨテル「そ…そうですか。」
キヨテルはややぎこちない表情で会話をする。みゆきはそこにアプローチをかけてくる。
みゆき「キヨテルさん、せっかく会えて嬉しいのですが、ここはあなたの仕事場ということで、あまり突っ込んだ話ができそうにありません。ですから、外へ食事に行きませんか?」
キヨテル「は、はい、良いですね。では、行きましょう。私もこう見えて、割とオシャレな店を知っていますから。」
みゆき「本当ですか?是非、行きましょう。」
みゆきは妙齢の女性らしい上品な微笑でキヨテルに近づく。そうして、2人は出かけて行った。その様子をウタは腑に落ちない様子で見ていた。
ウタ「…何だかなぁ…」
それから一週間と経った後でも、みゆきは毎日キヨテルを訪ねてきては彼をデートに誘って行く。当初はぎこちなかったキヨテルも今となっては乗り気な感じで、顔がややにやけている。キヨテルもまた、仕事中でもみゆきのことを考えているのだろう。
みゆき「キヨテルさん。」
キヨテル「みゆきさん。」
みゆき「今日はどこへ行きます?」
キヨテル「La Salleへ行きましょう。あそこは私も気に入ってましてね…」
みゆきはBOARDに来るなり、早速キヨテルに声をかけて2人でどこかへ行ってしまう。その様子を気にかけていたのはウタだけでなく、ミクとMEIKOも一緒だ。
ウタ「…どう思う?」
ミク「どうって…そうだな、チーフにも春が来たね。」
ミクは以前のルカの件同様に楽観的だった。そのため、ミクはアテにならないかもと思ったウタはMEIKOに話してみる。
ウタ「MEIKO先輩はどう思います?」
MEIKO「…そうね。一言で言うと、怪しいのよ。」
MEIKOはみゆきを「怪しい」と睨んでいた。
ウタ「やっぱりですか?」
MEIKO「ええ、知り合いでもないのにいきなりチーフに近づくなんて、何か企みがあるとしか思えない。ミク、行くわよ。」
ミク「へ?どこに?」
MEIKO「決まってるでしょ。チーフたちを尾行するの。」
MEIKOはキヨテルらを尾行すべく、ミクに声をかけて出動しようという。その矢先、リンが来た。
MEIKO「リン、あんたカウンセリングは良いの?」
リン「今日はもういいよ。それよりさ、出動するんでしょ。私も行くよ。」
リンはやや強引にMEIKOとミクに付いていく。
料理店「La Salle」ではキヨテルとみゆきが窓側の席に座って楽しそうに会話をしながら食事を進めていた。その様子をMEIKO、ミク、リンは窓の外から一定の距離を置いて見ていた。
ミク「…こうして見ると普通なんだけどな。」
MEIKO「まだ分からないでしょ。」
リン「…」
3人は隠れながらキヨテルとみゆきの様子を見ていた。そこに、1台のバイクが泊まった。バイクからはルカが降りてきた。
ミク「あ!」
リン「!」
ルカ「何をしてる?」
ルカは驚くミクとリンをさておき、3人に声をかける。だが、ルカは3人が視線を遣っていた方に目を向けると、みゆきの存在を見て、彼女の正体を確信した。
ルカ「…カテゴリーQ。」
MEIKO「へ?」
ルカの一言にMEIKOは驚く。ミクはそこを追求する。
ミク「本当?」
ルカ「間違いない。あの窓際の女はアンデッドだ。」
リン「じゃあ、今からでも…」
MEIKO「待って。ストレートに騒ぎを起こすとまずい。」
リンはすぐにでも店に殴り込もうとするが、MEIKOはそれを制止する。そんなとき、キヨテルとみゆきは会計を済ませたらしく、店から出てきた。
MEIKO「ん?チーフ?」
MEIKOはキヨテルが小包を1つ持っていることに気付いた。
ミク「何?あの小包…」
MEIKO「さあ?もう少し尾行を続けましょう。」
ミクは小包について勘繰る。MEIKOはそれを探るべく、もう少し尾行を続けることを提案する。ミクとリンもそれに賛同し、3人はさらにキヨテルとみゆきを追うことにした。
ルカ「…」
ルカはミクたちには同行せず、無表情で3人の後を見送った。
キヨテルとみゆきは池の公園のベンチに腰を掛けた。MEIKO、ミク、リンは2人に気付かれないように尾行を続け、2人の視線が届かない物陰から2人を見張った。
みゆき「キヨテルさん、その小包、何ですか?」
キヨテル「え?ああ、みゆきさんに渡そうと思っていたものです。」
みゆき「私にですか?」
キヨテル「ええ。つまらないかもしれませんが、良かったら…?」
キヨテルは小包を膝の上に置き、みゆきに中身を渡そうとする。だが、蓋を開けるとその小包は間違って持ってきたものだと気付いた。
キヨテル「いけない。私としたことが…間違って持ってきてしまいました。」
キヨテルは小包の中を確認して驚いた。中にはBOARD開発部から届いた無骨な機械が1つ入っていた。
みゆき「何ですか?それ。」
キヨテル「い、いや、これは組織の備品です。うっかり持ってきてしまいましたね。恥ずかしい…」
キヨテルは赤面して謝罪する。だが、みゆきはそれをよそに小包の中の無骨な機械を手に取る。
キヨテル「え?みゆきさん?」
みゆき「ありがとう、キヨテルさん。これ、頂きますね。」
みゆきは機械を手に取ってキヨテルに礼を言う。次の瞬間、みゆきは正体・オーキッドアンデッドに変化した。
キヨテル「え?」
驚くキヨテルだが、その暇もなくオーキッドアンデッドは蔦を伸ばしてキヨテルの首を絡め取る。
キヨテル「み、みゆきさん…」
みゆき「ははは、男ってマヌケね。私は最初からこれを狙ってたのさ。もうお前に用はない!」
オーキッドアンデッドは蔦でキヨテルの首を絞めつける。キヨテルは両手で蔦を解こうと足掻くが、圧倒的な力に歯が立たず、次第に顔が青白くなっていく。だが、オーキッドアンデッドを横から銃撃が襲う。オーキッドアンデッドは銃撃に怯み、キヨテルの拘束を解いてしまう。
みゆき「何!?」
オーキッドアンデッドが振り向いた先にはMEIKOがギャレンラウザーを構えて立っていた。その両脇にミクとリンもいる。
MEIKO「怪しいとは思ってたけど、やっぱり!」
ミク「チーフ、大丈夫ですか?」
ミクはキヨテルの元に駆け寄り、息を切らして膝をついている彼を気遣う。
キヨテル「…何とか…大丈夫です…」
ミク「良かった。」
キヨテル「それより…ラウズアブゾーバーを奪われました…取り返さないと…」
ミクはキヨテルの無事を確認して少し安心する。だが、キヨテルはそれよりラウズアブゾーバーを奪われたことが問題だという。
ミク「何ですか?あれ。」
キヨテル「以前から開発していた強化パーツです…」
キヨテルはオーキッドアンデッドに奪われた無骨な機械が強化パーツ・ラウズアブゾーバーだという。
ミク「任せてください!」
ミクは立ち上がってブレイバックルを取り出し、腰に装着する。同時に、MEIKOもギャレンバックル、リンもレンゲルバックルを取り出して装着する。
ミク「変身!」 MEIKO「変身!」 リン「変身!」
「TURN UP」 「TURN UP」 「OPEN UP」
ミクはブレイド、MEIKOはギャレン、リンはレンゲルに変身し、オーキッドアンデッドに挑む。オーキッドアンデッドは配下のアンデッド・モスアンデッドを呼び出し、2体で3人のライダーに当たる。ブレイドはラウズアブゾーバーを奪還すべく、まずオーキッドアンデッドに斬りかかるが、モスアンデッドが毒液を噴出してこれを妨害する。ブレイドは咄嗟に身を反らして毒液を回避する。毒液はブレイドをかすめ、公園のベンチに飛び散ってベンチを溶かした。次に、ギャレンがギャレンラウザーでオーキッドアンデッドを狙うが、レンゲルが先行してオーキッドアンデッドに接近したため、狙いをモスアンデッドに切り替えた。しかし、モスアンデッドは銃撃を受けると毒の鱗粉を飛ばして目をくらませる。毒鱗粉により目が眩んだギャレンは思考力が鈍って狙いを定められず、銃撃が当たらない。一方、オーキッドアンデッドに挑むブレイドとレンゲルもまた、モスアンデッドの毒鱗粉に苦しみ、膝をついた。オーキッドアンデッドはその隙を逃さず、蔦を鞭のように振るい、ブレイドとレンゲルを攻撃する。
ミク「うっ!?」 リン「くっ!」
ブレイドとレンゲルは蔦の鞭を受けて倒れそうになる。毒鱗粉により動作と思考力も鈍ったライダーたちは苦戦を強いられる。
MEIKO(せめて、アブゾーバーだけでも…)
毒鱗粉で倒れそうになったギャレンはラウズアブゾーバー奪還の隙を伺っていた。そんな時、オーキッドアンデッドはアブゾーバーを持っている左腕を掲げた。
みゆき「取ってみろよ!」
オーキッドアンデッドはアブゾーバーを頭上に持ち上げてライダー3人を挑発する。これをチャンスとみたギャレンはオーキッドアンデッドの左腕を狙ってギャレンラウザーを撃つ。
みゆき「くっ!?」
油断していたオーキッドアンデッドは銃撃を受け、ラウズアブゾーバーを手放してしまう。ブレイドは毒鱗粉に苦しみながらも奮起してアブゾーバーを拾った。だが、そのままでは使い方が分からない。そこをキヨテルが離れたところからフォローする。
キヨテル「ミク、Q(クイーン)のカードをセットして、J(ジャック)のカードをラウズするんです!」
キヨテルの説明を聞いたブレイドは左腕にラウズアブゾーバーを装着し、♠QとJのラウズカードを取り出す。そして、Qのカードをアブゾーバーにセットする。
「ABSORB QUEEN」
ブレイドは次に♠Jのカードをラウズアブゾーバーにラウズする。
「FUSION JACK」
Jのカードをアブゾーバーでラウズした次の瞬間、ブレイドは金色の光に包まれ、装甲の一部が金色に輝き、背中には翼・オリハルコンウィングが展開され、飛行能力を得た。また、ブレイラウザーもディアマンテエッジを装着したことにより刀身が延長し、強化された。
みゆき「何!?」
MEIKO「ミク?」
リン「ミク姉…?」
パワーアップしたブレイドに周囲の視線が集まる。ブレイドは強化型ブレイラウザーから♠2と6のカードを取り出し、ラウズする。
「SLASH」
「THUNDER」
「LIGHTNING SLASH」
2枚のカードの絵柄がブレイドにオーバーラップされた後、ブレイドは背中のオリハルコンウィングを展開し、猛スピードで空中を飛んでオーキッドアンデッドとモスアンデッドの間を抜け、そのスピードのまま上空へ飛び上がり、空中から電撃のエネルギーを帯びたブレイラウザーを振るってオーキッドアンデッド目掛けて急降下する。
ミク「くらえ!」
みゆき「く…」
ブレイドは上空から急降下しながらブレイラウザーを振り下ろす。オーキッドアンデッドは蔦を伸ばしてモスアンデッドを捕らえ、自分の身代わりにした。モスアンデッドは当然、ブレイドの斬撃をくらって大ダメージを負い、その場に倒れ伏してアンデッドクレストを開いた。ブレイドはそこにブランクのラウズカードを投げてモスアンデッドを封印する。オーキッドアンデッドはその隙に退散した。
MEIKO「チーフ、これって…」
キヨテル「これが以前から開発していた強化案・ジャックフォームです。」
ミク「ジャックフォーム…」
ギャレンはキヨテルに説明を聞く。キヨテルはブレイドの今の姿こそが以前より開発されていたブレイドの強化プラン・ジャックフォームだという。ブレイド=ミクはオーキッドアンデッドを逃がしたことは遺憾だが、それ以上に強化された自分=ブレイドの姿に並ならぬ高揚感を感じた。