眼前にひろがる黒。
どこまでも、どこまでも遠くへ続く世界。
あたしはこの世界に、確かにいた。まだ自分の跡を、残していないだけで。
目が覚めてすぐ、いつもの天井が見えなかったことに異変を感じた。
プププランド上空に位置するクラウディパークに建てられているアトリエ兼仮住宅。昨日まではちゃんとそこで眠っていたはずだった。それがどうして、こんなにも暗く、寂しい場所に来てしまったのだろう。どうしようもない孤独を感じ、不意に数ヶ月前のとある出来事が頭をよぎる。まさか、また“彼ら”が襲ってきたのだろうか?
…そんなことはない、はずなのに。
(それにしても…ここは本当、どこなんだろう…暗くて静かで、怖いよ…)
止まっていても事態は変わらない。そう判断して歩きだしたのはいいけれど、他よりもひときわ少ないあたしの体力では、あっという間に力尽きてしまう。ぺたん、と崩れおちた地面は、とても冷たかった。
(誰も、いないの…?)
立ちあがろうと腕に力を込めて、すぐにまたへたり込む。きついのは、体力的にだけではなかった。ずっと歩いたのに変わらなかった景色に、どうしても不安を覚えて。微細な変化も起こらないものだから、気が滅入るのも当然だろうか。
「…出られない?」
ふっと。怖い想像がよぎる。口に出したら、本当になるような気がして。もはや懐かしい顔ぶれが浮かんだ。それに手を伸ばしても、またふっと消え。
静かに状況を理解しようとしている頭に、ノイズが響きはじめた。一聴するとただの雑音だが、さっきまで自分の音しかなかったが故に、とても惹きつけられるものがある。幻聴かもしれないとも思ったが、疲れきった体はまだ動かない。立ちあがるための力を、自分の聴力に回す。
――だ、―けて―こに、―ら、―つけて、
解読は、とてもじゃないができそうにない。それでも、この声のようなノイズは、意思を持っている…と、そう考えられる気もしてきた。つまるところ、この空間には、あたし一人しかいないわけではないかもしれないということだ。
(もし本当に誰かいるのなら――まだ、諦めない)
ぐっと起きあがる。回復しかけた体力を使い、また歩きだす。ここで誰かに逢うまでは、決して諦めたりはしない。そう、強く想った。
気づいたらひとりでいて。こわくてたまらなくて。
だからキミを見つけたとき、どうしても手放したくなかった。
ぼくの声が、どうか伝わっていますよう。
切実に。
切実に。
「…ふふっ」
はやく、ぼくを見つけて――
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