「あのさ〜そのお通夜みたいな顔すんのやめない?」
教室の前の席に座った明日香がシンに声をかける。
「……」
シンは黙って明日香を睨むと勉強を再開した。
「んもー!聞きたくないけど、聞くよっ!アキラさんと何かあった?」
「……」
「2人してそんな顔してんのに何も言わないって何かあったんでしょ?」
シンの手が止まる。
「2人って…」
「昨日アキラさんの店に行ったら、常連さんとは普段通り話してたけど、いなくなった途端に悩んでる風で何かあったか聞いたんだよね。でも何も答えてくれなくてさ」
「……」
「シン。アキラさんと何があったの?」
「……」
シンは明日香の方をチラッと見ると直ぐに顔を下げる。
「……んっ?」
「……………襲った…」
「襲ったぁぁ!!?」
びっくりして思わず出した声の大きさに思わず口を押さえる。
「シン、ちょっと来いっ!」
シンの腕を掴んで廊下に連れ出す。
「襲ったって、アキラさんを?」
「他に誰がいんだよ!」
「ちょっと、シン。それはマズイだろ…」
「そんな事お前に言われなくてもわかってるよ」
「で…最後まで……」
シンが口を開きかけると
「あ“ーっやっぱいいっ!聞きたくないっ!」
明日香は耳を押さえて首を振る。
「してねーよ…」
寂し気にシンが言った。
明日香はホッと胸をなでおろすと
「焦り過ぎなんじゃない。シーンちゃん。笑」
からかうように言う。
「お前は悩みなんて無さそうでいいよな…」
シンのその言葉に明日香は少しムカつきながら小声で
「俺だって悩み位あるよ…」
「…話しはそれだけか?勉強あるから教室戻るけど」
「アキラさん心配してたぞ…」
「……」
「勉強頑張り過ぎてないかって…お前の事いっぱい聞かれた」
「……」
「たまには店に顔出してあげなよ」
「……」
シンは答えなかった。
あんな事しといて…今更どんな顔して会いに行けばいいんだよ…
その夜、シンの携帯の着信音が鳴った。
「!」
「シン。息抜きしたくね?」
湊からだった。
「…どうして……」
「海。一緒にいかね?」
「だって…」
「なんだよ!俺が途中で襲われて泣いてもいいのか?笑」
その時シンの家の前をバイクが通った。と、同時に湊の声の後ろからも同じ音が聞こえた。
「えっ!」
シンは慌てて勢いよく窓を開ける。
「よっ!」
窓外に湊が立っていた。
シンは階段を駆け下り外へ飛び出す。
「早いな~。笑」
「何してるんですかっ! 」
「何って、海。一緒に行こうって言ったろ?」
「……そうじゃなくて」
「そんな薄着じゃ風邪ひくぞ。上着着てこいよ。笑」
「冬の海風は冷てぇな~」
湊の後を黙って着いていたシンが口を開く。
「怒ってないんですか…」
「何が?」
「何がって…」
「怒ってるよ」
「……」
「お前が、会いません。って書き置きした事」
「えっ…」
「さすがにあれは堪えた…笑」
「そっち……?」
「お前の気持ち知ってて誤解されるような行動した俺が悪い。毎日必死に受験勉強してるのに頭くるのも理解できる。それに、挑発に乗って煽るような発言されたらそりゃ怒って当然だ。全て俺の蒔いた種だ。大人気なかったって反省してる。お前は何も悪くない………ただ…」
「ただ…?」
「たとえ数ヶ月だとしても、会わない。なんて…言うなよ……」
「……」
湊はシンに近づき肩に顔を埋める。
「あったけぇ……」
「湊さん……」
「お前が忙しいのはわかってるよ…だけど、会わないって決めつけんのはヤダ…」
シンは湊を抱きしめた。
「嫌われたかと思ってた…」
「あんなんで嫌いになるかっ!ばかっ!」
「……良かった…」
「お前にお願いあるんだけど…」
「なんですか…?」
「お前の隣、空けといてくんね?」
「えっ!?」
「お前が卒業したら、きちんと話すから。それでもお前が俺でもいいって思ったらそこ、俺の指定席な」
「…えっ…と…それって」
「どうなんだよっ!」
「空けとくに決まってるじゃないですか……あんた本当にずりぃよ…」
湊を抱きしめる腕に力を込める。
「もう俺の事、好きって言ってる…」
「うるせぇー。まだ、言ってねーよ!」
まだ…
あんなに悩んでたのに…その言葉だけで全部吹き飛んでしまう…
やっぱあんたには敵わねーよ…
シンは湊の髪に口づける。
湊は少しくすぐったそうにしたが、シンの背中に腕を回し抱きしめた。
「シン。クリスマス空けとけよ…」
「もちろんです!」
「手ぶらで来いよ。何か持ってきたら家には入れない!」
「でも!」
「料理は俺が用意する。時間はきっちり2時間」
「へっ?」
「勉強の息抜きと飯の時間合わせたら2時間が限度だろ?」
「せっかくのクリスマスなのに?」
「嫌ならこの話しは無しっ! 」
「わかりました!2時間あれば十分です!」
「決まりだな。笑」
帰り道2人は手を繋いで歩いていた。
「湊さん…明日、会いにお店行ってもいいですか?」
「あたりまえだろ…いつでも会いに来いよ…」
このまま離したくない…
シンは繋いだ手を引き寄せ湊を抱きしめる。
「おやすみなさい。湊さん…」
「おやすみ…シン」
後ろ髪をひかれる思いで互いに繋いだ手を離した…
【あとがき】
三連休。皆様いかがお過ごしですか?
土曜は、匠拓がメディアに出ずっぱりで嬉しい一日でしたね♪
そろそろ第2章も終わりに向かってます。
もう少し書きたい事があるので、よろしければお付き合いいただけると嬉しいです。
それでは、また次回作でお会いできますように…
月乃水萌
コメント
4件