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デビュー前には、事務所の売り方をさんざん拒んだあたしは、デビューしてからは、一度も事務所に反発したことはなかった。
どうせなら、行けるところまで行ってやろうと。
「七瀬リオ」っていうアイドルが、どこまで上がっていけるのか、見極めてやろうと、そう思ってた。
シゴトと呼べるシゴトは、なんでもした。
恥じらいをかなぐり捨てて水着になり、手が痛くなるまで握手会をし、顔が引きつれそうなほどに笑顔を振りまいて、
あたしは、無理やりにでも15歳のアイドルを演じて見せた。
全ては、あたしが「七瀬リオ」を、売り込むために。
そう、今やアイドル・七瀬リオのプロデューサーは、あたし自身だった。
だけど人気とともに、あたしと、あたし自身であるはずの七瀬リオは、いつしか真っ二つに分かれ切り裂かれていった。
あたしが、あたしのままであっては売れない。
だったら、あたしを切り離して、七瀬リオというもうひとりのあたしを、作ればいい。
テレビの中で、リオになり切ることなんか、簡単だった。
カメラの前では、あたしは七瀬リオ以外の、誰でもなかった。アイドルの仮面は、かぶってはいたけれど。
人気を勝ち取るためになら、どんなことだってする。
だんだんに人気が高まっていくのを感じるうちに、あたしはあんなに嫌がっていたはずのアイドルでいることが、いつしか楽しくてしょうがなくなっていった。
誰でも、みんなだって、そうでしょう?
人気があれば、楽しくて。
それだけ、勢いもついて。
ほら、動画配信なんかを見てくれる人が増えて、ランキング入りした時とかの、あんな感じ。
気もち的にも舞い上がって、おもしろくて仕方がなくて。
ますます勢いづいて、調子づいて。
でもさ、本当はランキングに入ることなんかよりも、その人気を持続させていくことの方が、ずっと大変なんだけどね。
だいたいの場合、初めて見るようなものには、誰でも興味本位で飛び付くもんなんだから。
興味が薄れれば、一気に下降線。
ランキング圏外へ、真っ逆さま。
そうやって消えていくアイドルなんて、それこそ大量にいるんだよ。
人気が落ちて、放置されっぱなしなアカウントといっしょで。
見向きもされないアイドルだって、本当にいっぱいいるんだよね。