次の日もまた、匡は図書館へ向かった。
もう手紙が来ないかもしれないと昨日から落ち着かなかった。
図書館に着くなりあの書庫に向かった。
相変わらずあの本は同じ場所にある。
匡はおそるおそる本を開く。
中に入っていたのは1枚だけだった。
心臓の鼓動が速くなっていたことに気づいて、匡は苦笑いする。
“返事を書いていただいて、ありがとうございます。
私もこの本が大好きだったので嬉しいです。
ですが探しものを見つけるのは難しそうです。
もうここに挟むのもこれでやめようと思います。
最後に素敵な出会いをありがとうございました。 なつ”
匡は最後まで読んでハッとした。
「なつ、、、」
手紙の最後に聞き覚えのある名前が書いてある。
“いつかこの本みたいなお話を作るから、できたら最初に読んでくれるかな、、、”
“もちろん!なっちゃんの作ったお話楽しみにしてるね。”
─あぁ、そうだった、、
名前を聞いた瞬間に過去の記憶が色がついたように鮮明になってくる。
昔ここで一緒に本を読んだなっちゃん。
いつもいろんなお話を聞かせてくれたなっちゃん。
そして、この本を教えてくれたのもなっちゃんだった。
匡は今まで忘れていた。
大切な思い出だったはずなのに、まるで夢の中の出来事だったかのようにぼやけてしまっていた。
匡は本を抱えたまま部屋を出て辺りを見渡す。
あの頃の顔はぼんやりとしか覚えていない。
歳はそんなに変わらなかったはずだ。
─もしかしたら、、
匡は急いで階段を駆け上がった。
いつものあの席にいたあの子。
最初にここに来たときに見えたノートの文字は、この手紙と同じようにとてもきれいだった。
匡が息を切らして学習スペースに入ると、そこにいるみんなの注目を浴びた。
「、、、すっくん?」
手に持った本を見て、あの子が言った。
久しぶりに聞いた”すっくん”というのは、小さい頃の匡のあだ名だった。
「なっちゃん、、、」
静寂の中に2人の名前が響いた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!