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校舎内はやけに静かだった。
体育館の方から運動部の声が聞こえるだけだった。
16時前、まだ居るだろうか。
なぜか足音をたてないように近づいた。ゆっくり扉から中を覗くと、ひとり静かにキャンバスに向かって鉛筆を動かしていた。
「、、あ」
「わっ、……何してんの」
何を言おうか迷いながら言葉を発したら、こうなった。
「、、あ、まだ居るかなって」
「絵ならまだ全然完成してないよ」
「今日は何描いてるの」
「、、そこから見える?」
宇治は私の方を向いて言った。
教室の中に入って、荷物を置いた。
「風景画?」
「うん、夏の風景画」
「すごい、綺麗だね」
宇治は小さい声でありがとうと言った。
「あのさ、お祭りの日助けてくれてありがとう」
私がそう言うと、宇治はこっちを向いて軽く笑った。
「何、急だね」
「、、それを言いに来たから」
「わさわざ?変な人」
変、なんて言われたことないんだけど。
「相原とご飯行ったんじゃなかったの」
「うん、けど玲花帰らないといけなくなって」
「そっか」
少しだけ沈黙が続いた。
「あ、部活、だいたい月水金と土曜にやってる。結構変更になるときもあるけど」
「、、そうなんだ、運動部大変そう」
「美術部は何曜とか決めてる?」
「行きたい日に行ってる。来るの俺だけだし」
「そっか」
宇治は描く手を止めて口を開いた。
「祭りのあと、佐倉からなんか連絡あった?」
「え?ああ、うん」
「、、注意不足でごめんとか、言われた?」
人多くて危なかったのにごめんね、と佐倉くんに言われた。
「、そんな感じのことは」
「そっか、だよね」
「ごめん、佐倉にきつい言い方して空気悪くした」
「いや、私は全然」
「、、佐倉も優しいから、怒るわけないだろって」
佐倉くんに謝ったのだろう。
「ていうか、あんな、、」
宇治は言葉を詰まらせた。
「何?」
「、、あんな偉そうなこと言ったの、ごめん」
「大丈夫だって。気にしてないよ」
私がそう言うと、宇治はそう、と言ってまた描く手を進めた。