テラーノベル
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世界が少しの落ち着きを取り戻してどのくらいたっただろうか。
しばらく平穏な暮らしが続いていたクラピカは、賞金首ハンターとして、とある依頼を受けることになった。
依頼主からは、情報提供者として自分の娘を連れて行ってほしいということだった。
念能力も使えない、若い女を守りながらの任務は1人では厳しそうだと言うことで、キルアに同行してもらうことにした。
簡単な依頼のはずが、やたらと強気で出しゃばる依頼主の娘は、事あるごとに余計な仕事を増やしてくれる。
じわじわと冷静さが欠けていくクラピカの前で、その女はキルアにべったりとくっついた。
「ほんと!キルアくんて、かっこいいだけじゃなくて頼りになる~!!」
馴れ馴れしく甲高い声で必要以上にキルアに絡む姿を目の当たりにして、クラピカの嫉妬の炎は無意識のうちに静かに燃え広がっていった。
確かにキルアはかっこいい。
子供の成長期とは早いもので、あっという間にクラピカの身長を追い越し、まだあどけない顔立ちを残してはいるものの、目立つ銀髪と整った顔立ちは、周囲の目をひくのは当然のことだった。
当のキルアは、特に気にする様子もなく
「別に、たいしたことしてないけど…」
そうキルアがいい終わる前に彼女は再びキルアの腕に絡みつこうとしたその瞬間。
ついにクラピカのその感情が限界を超えた。
「…キルア、少しいいか」
「え、ああ、うん、どうかした?」
「いや、お前に少し確認しておきたいことがあってな…」
言い方は穏やかだが、冷たい眼差しに、キルアは一瞬で察し、彼女に
「ちょっとここで待ってて」
と、短く告げ、クラピカの後を追った。
人の気配がない路地裏に入ると、クラピカは腕を組み、キルアを睨んだ。
「お前、あの女とは本当に初対面なのか?妙に馴れ馴れしいし、お前もまんざらでもなさそうだ」
「まんざらって…アンタ、もしかして嫉妬してる?」
「…していない」
「いや、してるだろ」
「していないと言っている」
「言い方がもう嫉妬だし。顔真っ赤だし」
「…黙れ」
キルアはふっと笑った。
からかい半分などではなく、心の底から嬉しそうに。
「アンタがそういう顔するの、オレだけが知ってるんだな」
クラピカはカッと目を見開く。
その瞬間、軽く体を押されて、壁際に追い込まれた。
すでに自分よりも背の高い年下の恋人は、難なく自分を追い込み、逃げ場を奪う。
近すぎる距離に、自然と動悸が増す。
「な…!キルア…!」
「オレが他の女に気があるとでも思った?アンタ以外、誰が目に入るかよ」
耳元で囁かれた声に、クラピカの心臓が大きく波打つ。
「嫉妬してくれるの、嬉しかった」
「……そういうことを、さらっと言うな。というか、嫉妬などしていない」
「言うよ。だって、オレの恋人だもんな?…ってか、いい加減認めろよ」
真っ直ぐ見つめられ、クラピカはついに観念したようにため息をついた。
「…私がこんなふうに感情的になるのは、お前のせいだ。責任を取れ」
「はいはい。全部オレのせいでいいよ。だから――」
そっと、クラピカの唇にキスをした。
「アンタの可愛いとこ、もっと見せて」
「…調子に乗るな」
けれど、その声はやわらかく、優しかった。
クラピカの機嫌が治ったところで、無事に娘を依頼主のもとに送り、任務を終えた2人は帰路についた。
「あのさ、アンタは気付いてないかもだけど、アンタも色んな男から狙われてるの、知ってる?」
「…は?そんなことはないが」
「だから気付いてないんだってば!その度にオレ、心配で心配で仕方ないんだよ?」
「…私の心が動くことはない」
頬を赤く染め、視線を外すクラピカの手をキルアはそっと握った。
クラピカはピクリと反応するが、そのまま指を絡ませ、2人で静かに歩き出した。
嫉妬とは、ときに恋物語の甘いスパイスとなるのだろう。
2人はまた一歩、恋の深みへと落ちていった。
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