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キャラ崩壊○
残酷表現?や少し苦しめの表現が苦手な人はブラウザバック
パクリ×
おんりー主人公
夜の編集
キーボードを叩く指が止まった。
変換候補の並びが、ほんの少し違う。
「おんりー」が、いつもの位置にいない。
“よく打つ単語”のはずなのに、下の方へ沈んでいた。
「……?」
声にするほどでもない違和感。
作業の合間に起きる、よくあるちょっとしたバグ。
そう思ってそのまま続けた。
けれどふとした瞬間、
変換候補の並びが毎回違う
——そんな気がした。
翌朝
靴を置く場所をメンバーそれぞれが決めている。
端から順に、ドズルさん、ぼんさん、おらふくん、MEN……そしておんりー。
そのはずなのに、自分の場所だけ微妙に隙間が広い。
誰かが靴を置き間違えてスペースがおかしくなるのはよくある、よくあるけど——
「……俺、そんな端だっけ」
たったそれだけ。
でも、脳の奥の奥にうっすらと影が落ちる。
他愛ない会話
談笑の中で、MENが笑いながら言った。
「今日の夜の配信するの誰やっけ」
「俺」
とおんりーが言えば、
「あー、そっかそっか」
と笑って流される。
ただ、それだけ。
ただ、それだけなのに——
まだ“思い出した顔”じゃなくて“納得した顔”だった。
本当に“忘れていた”ときの表情ではなかった。
そこが引っかかった。
でも言うほどのことじゃない。
ゲーム中
ゲーム内。
何気ない会話で。
「さっきのチェスト、誰開けた?」
ぼんさんの問いに、
「俺」
と返す。
ぼんさんは「あ、そっか」ではなく、
「……おんりーか」
と“確認するように”言った。
別に珍しくはない。
けど、ほんの ワンテンポ ずれていた。
そのワンテンポが胸の奥に残る。
動画ファイル
家に帰り、PCを開く。
保存している動画ファイルのフォルダ。
いつもなら自分の録画ファイルは
“QN_”から始まるものが固まって表示されるのに、
今日は間に別のメンバーのファイルが挟まっている。
読み込み順の問題、と言われればそれだけ。
でも、
“おんりーのデータだけ規則から外れている”
ように見えた。
ほんの、ほんの気のせい。
そう言い聞かせながら整理する。
小さなズレが積もった夜
通話に入る前、
おんりーはヘッドセットを手にしたまま動けなくなる。
最近起こった違和感を並べれば、すべて些細なこと。
靴の位置、名前の変換、会話の間、ファイルの順番。
どれも「疲れてるだけ」で済む程度。
けれど——
すべてがおんりー“だけ”に集中している。
胸の奥に、ゆっくり沈む石のような不安があった。
でも言葉にすれば、ただの気にしすぎになる。
「……気のせい、」
自分で言ってみた。
その言葉が、妙に軽く、頼りなく響いた。
通話を開いたとき、
いつものメンバーの声が聞こえた。
変わらないはずなのに、
どこか遠くで響いているように感じた。
翌朝
朝、目が覚めた瞬間に違和感があった。
寝不足とは違う。
体の奥が重たく、世界が一枚薄い膜越しに見えるような倦怠感。
「……だるい」
声が喉に引っかかる。
微熱があるような、でも体温計では出ないような曖昧な体調の悪さ。
着替えながら、頭の中で予定を確認する。
編集、収録、打ち合わせ。
問題はないはずなのに、
“忘れている何かがある気がする”違和感が胸に引っかかった。
収録前の日常
ドズルさんが台本を読み上げていた。
「えーっと、今回の役割は……ぼんさんがこれ、おらふくんがこれ、MENが……」
一瞬、読みが止まる。
「……で、おんりーだ」
その沈黙の一秒で、
おんりーの肺がぎゅっと縮んだ。
ぼんさんが返事をする。
「りょーかーい」
軽く流される。
でもそれは、“名前を飛ばした”のではなく
“すぐに浮かばなかった”だけと言う空気だった。
胸の奥で冷たいものが転がる。
ゲーム中
プレイ中言葉を発すると、イヤホンの片側から音がふっと消えた。
「……?」
機材トラブルかと外してみるが、すぐ戻った。
おんりーだけの環境で起きた不調。
ただの偶然にしてはタイミングが悪い。
なんか、“俺を通る音だけ弱くなった”みたいな?
首を振ってリセットする。
体調
夕方。
撮影が終わる頃には、頭がじんじんしてきた。
痛いというより、
自分の意識の輪郭が曖昧になる感じ。
「顔色悪いよ?」
おらふくんが心配そうに声をかける。
「あー、ごめん。なんか少しだるいだけ」
そう言ったら、おらふくんが一瞬だけ「……誰だっけ?」というような、
ほんの数秒だけ表情を浮かべた。
その一瞬が、
胸の奥に鋭い棘みたいに刺さる。
「……病院行こ」
小さく呟いて、そのまま向かった。
病院
受付。
診察券を渡す。
受付の女性が画面を見て、首をかしげる。
「あれ……?」
「あ、いえ、大丈夫です…すみません」
すぐに笑い直したけれど、
“何かを探していた”視線だった。
「お呼びしますので、少しお待ちください」
待っている間も、周りの話し声が妙に遠い。
自分だけ空気の密度が違うみたいだ。
診察室へ。
医師がカルテを確認しながら言う。
「ええと……おん……りーさん、ですね?」
“読むのに一拍置いた”。
そこがひどく気になった。
医師は続ける。
「倦怠感と、軽い認識の不安定感がある、と」
「認識の……?」
「ええ。話し方の断片からそういう印象を受けたんですが……最近、人の名前や自分に関する情報で違和感は?」
喉が詰まる。
おんりーは、嘘をつくように短く言う。
「……ちょっとだけ」
医師は眉を寄せ、端末を見つめた。
「この症状……“失名症候群”の初期に似ていますね」
その単語が落ちると同時に、
背中に冷たい汗が流れた。
「……名前を、忘れる病気?」
「自分の名前を認識するときに“ノイズが入る”ような違和感を持つ状態です。
周囲との齟齬(そご)を自覚する人もいます」
“周囲との齟齬”。
最近の違和感が、一気に胸の中で形を持った。
医師は淡々と説明している。
心配してくれているのも分かる。
でも、おんりーの耳にはほとんど届かなかった。
世界との接続が、
少しずつちぎれていくような嫌な感覚。
胸がぎゅっと縮み、息が浅くなる。
「……なんで」
自分でも驚くほど小さな声。
なんで俺だけ……?
外に出た瞬間、
自分の影が妙に薄く見えた気がした。
病院を出た帰り道
外に出ても、空気が妙に重い。
街の人混みに紛れても、
なぜか「自分のいる場所だけ風が止まっている」ような感覚がつきまとう。
その違和感を振り払うように深呼吸して、
ポケットの中のスマホを取り出した。
通知が数件。
その中に、メンバーのグループからのメッセージがある。
『ただの疑問なんだけど、今日ってみんな揃ってたよね?』
胸がきゅっと固まった。
既読はすぐに全員ついたのに、1分ほど開けても誰も返信しない。
『んー、いたはずですよ?』
そう、返される。
ただの返信なのに”はず”が強調されて見える
「いたよ。普通に」
と呟く
『あー、そうだよね!変な質問してごめん!』
普通の返信に、また普通の返信が戻ってくる。
でも、あまりにも自然すぎて逆に怖い。
動画コメント
家に戻って、今日の配信アーカイブを開く。
コメント欄をスクロールする。
「編集誰?」「声誰?」は昨日からある。
でも今日は、もっと小さくて、もっと“リアルなズレ”が混じり始めていた。
『この声、前からいた?』
『今日やけに影薄くなかった?』
『あれ?おんりーの立ち回り”見逃した”かな』
“見逃した”じゃない。
そこにいたのに、見えていなかったような文脈。
そして、一つ。
『今日おんりー喋ってた?』
一瞬息が止まった。
喋ってた。
むしろいつも通り喋ってた。
でもそのコメントには悪意はない。
本気で“喋っていなかったように感じた”人の書き方だった。
胸の底がじわっと冷える。
通話
夜の打ち合わせ通話。
画面には全員のアイコンが並ぶ。
でも今回、何故か——
誰もおんりーに声をかけない。
いつもはぼんさんが軽くイジったり、
おらふくんが挨拶を返してくれるのに。
今日は、
“おんりーが入ったこと自体に反応が遅れている”ように見えた。
沈黙に耐えかねて、おんりーが先に話す。
「今日の動画、コメントちょっと変じゃなかった?」
その瞬間、
画面の向こうで四人が息を呑む気配が感じる。
気まずそうに目線を逸らした。
ドズルさんが言う。
「……まあ、視聴者も色んな人いるし!深く考えんでいいよ!」
明るく返してるけど、
口調に不自然な“慌て”がある。
ぼんさんが続く。
「でも俺も、ちょっと思った。なんか……編集で、抜けがあったんかなって」
抜けてたのは編集じゃない。
おんりーの存在のほうだ。
胸に鈍い痛みが走る。
二度見
通話の終盤、
おんりーが軽く会話に入った瞬間、
おらふくんが振り返るような小さな声で、
「あ、いたんだ」
と言った。
すぐに「いや違う違う!声小さかったから!」と笑って誤魔化したけれど、
その最初の無意識の声が、刺さる。
“そこにいるのに、存在を認識されていない”ような感覚。
おんりーの胃がじわりと縮む。
深夜
通話を切ったあと、
部屋の静けさがやたら耳に刺さる。
医者の言葉が頭の中で反芻される。
——失名症候群の初期。
——自分や他者の名前の認識にノイズが入る。
——周囲からも“齟齬”が感じられる。
「……これ、やっぱやばい病気なんじゃ」
呟いた声が、
まるで他人の声みたいに聞こえた。
怖い。
でも“怖い”って言葉で片付けたら軽すぎる。
もっと深いところで、
自分という存在を世界が忘れ始めているような恐怖。
椅子にもたれたまま、
息を吸っても吸っても肺が満たされない。
目を閉じると、
今日のメンバーの視線、言葉、ズレが全部蘇ってくる。
気のせいじゃない。
確かに、
ゆっくり、じわじわと、
おんりーの輪郭だけ世界から薄くなっている。
それが始まりだった。
おんりーはスマホを握りしめたまましばらく動けなかった。
胸の奥がざわざわして、
体の重さと心の重さがどっちも地面に落ちていくような感覚。
“失名症候群”
医者から聞いた言葉が、
耳の奥でまだじんじん鳴っている。
気のせいだと思い込みたい。
でも、今日だけで気のせいじゃないことが積もりすぎた。
そして
“検索したら後戻りできなくなる気がする”
という直感があった。
それでも指は動いた。
「失名症候群 自分の名前
認識できない
原因」
手が震えて、文字が何度も打ち直しになる。
エンターを押した瞬間、
胃の中がぐらっと揺れた。
検索結果はほとんどヒットしない。
医学論文ですら項目がない。
その中で、一つだけ場違いなほどアクセス数が少ない海外の医療事例ブログが引っかかった。
タイトルはシンプルだった。
『自己固有名詞消失症例:世界に3〜4例のみ確認』
呼吸が止まった。
震える指で開く。
文章は短くて、専門用語も少なかった。
けれど一行目で、心臓を直接掴まれたような衝撃が走る。
『患者は徐々に自己の名前の認識が薄れ、
周囲も同時期にその人物の名前を思い出しにくくなる』
喉の奥が詰まり、呼吸が浅くなる。
少し「あれ?」と思うが読み進める。
スクロールするたび、
症状がおんりーの今日一日の出来事とぴたりと重なる。
『初期症状:軽い倦怠感、周囲の反応との僅かなズレ。
本人の自覚は弱いが、体感は強い不快感として現れる』
『中期症状:親しい人が名前を即答できない。
存在の“気配”が薄れるような錯覚』
手が震え、スマホを落としかける。
心臓が異常に速くなって、
視界がじん、と白く滲んだ。
そして——
ページの一番下に、たった一行だけ赤字で書かれていた。
『重症化すると、
名前だけでなく“存在そのものの認識”が途切れる場合がある。
現在、治療法は存在しない。』
世界が揺れた。
音が消えた。
手からスマホが滑り落ち、
床に当たる音が異様に遠く響く。
おんりーの肩が細かく震えた。
呼吸が浅く、苦しく、足の裏の感覚すら曖昧。
“存在そのものの認識が途切れる”
頭の中でその言葉だけが何度も何度も繰り返し再生される。
今日は名前だけだった。
明日は、声かもしれない。
明後日は、姿かもしれない。
そして——
メンバーたちの世界から、
視聴者の世界から、
1人ずつ、おんりーがいなくなる。
最後には、自分すら自分を認識できなくなる。
そんな未来を想像してしまって——
膝がガクッと落ちた。
「……やだ」
漏れた声はかすれて、
まるで他人の声みたいだった。
“治療法は存在しない”
その文字が、
何より重く、何より冷たく、
何より残酷だった。
スマホを拾い上げた手がまだ震えている。
ページの最後に書かれていた赤字の一行を、何度読み返しても息がうまくできなかった。
——重症化すると、本人も自分を認識できなくなる。
頭の奥がズキンと痛む。
その言葉が、自分にいつ降りかかるのかわからない恐怖。
だが——
おんりーはふと違和感を覚えた。
“自分の名前だけは、普通にわかる。”
「……俺は、忘れてない」
ページに書かれた他の症例では、
みんな“自己の名前の認識が崩れていく”とあった。
家族や友人と同じタイミングで、本人自身も“自分という人間”の輪郭が曖昧になっていく。
でも、おんりーは——
名前を忘れていない。
声も聞こえる。
姿も鏡に映る。
理解もできる。
おんりーだけ、正常だ。
なのに消えていくのは“周囲の認識”だけ。
世界のほうだけが、おんりーを削り取っていく。
その“可笑しさ”が、逆に背筋を凍らせた。
もう一度ページをスクロールする。
途中にひっそりと並んだ文が目に入った。
『極めて稀に、逆型の症例が存在する。
本人の自己認識は正常のまま、
周囲の認知だけが崩壊するパターン。
確認された症例は世界に1例のみ。
症状の進行が極めて速いことが特徴。』
呼吸が止まる。
世界に1例。
その“1例”がどうなったのか記述を探すが、
記事は途中で途切れていた。
続きを示すリンクも、存在しない。
まるで削除されたかのように、何も残っていなかった。
「……は?」
喉の奥から音にならないうめきが漏れる。
自分と同じタイプの症状が、
世界にたったひとつしかなかった。
その情報が消えている。
“情報の消滅”すら、この病の症状なのか?
ページのスクロールバーが勝手に動いたように感じて、
おんりーは慌ててスマホを握り直す。
「周りだけ……俺を忘れる……?」
声に出した瞬間、
寒気が首から背中へ、ぞわっと走った。
おんりーの記憶は健在。
むしろ、いつもより鮮明なくらいだ。
なのに、
今日だけでもメンバーが名前を出せない瞬間が何度もあった。
視聴者が「声がしなかった」と言った。
受付が首をかしげた。
おらふくんが「あ、いたんだ」と言った。
“存在を見逃される”瞬間が増えていた。
しかも、それは自分じゃなくて周りだけ。
おんりーは、
自分を忘れる世界の真ん中に、
唯一“正常な記憶”を持ったまま取り残される形。
他の例よりも、ずっと孤独なタイプ。
孤独な上に——
進行が速い。
その言葉が頭にこびりついた。
「……ちょっと、待てって」
スマホを置こうとしたのに、
握った手が言うことを聞かない。
震えが止まらない。
“自分だけ、全部を覚えている”という事実が、
何より恐ろしかった。
周りの忘却から逃げられないまま、
ただ、ひとりで失われていく跡を見続けるしかない。
目の端がじわじわ熱くなる。
「やだ……やだな……」
ほんの小さな声。
でもその声は、
暗い部屋に吸い込まれるように消えていった。
この病気に、対処法はない。
他の例の結末も、わからない。
そしてなにより——
おんりーだけ、逆型で。
周囲が先に“おんりーを失う”。
手は震え続け、
胸の奥がぎゅうっと潰れそうだった。
世界のほうが、おんりーを忘れようとしている。
その残酷な事実だけが、
夜の中で静かに息をしていた。
翌朝
靴を履いて玄関を出ると、
隣人とすれ違った。
「あ、おはようございます」
軽く頭を下げたのに、
相手はおんりーの真横をすり抜けて行った。
まるで声が届かなかったみたいに。
普段なら気付く距離なのに。
相手がイヤホンでもつけていたのかと確認したが、耳には何もない。
おんりーは自分の声を疑い、喉に手を当てる。
「……聞こえてない?」
囁き声のように呟いたその声だけ、妙に耳の奥で響いた。
スタジオ
収録のためスタジオへ。
ドアを開けると、いつもの四人がいる。
ぼんさんがピザの話で盛り上がって笑っていた。
おんりーは「おはよ」と声をかける。
その瞬間。
何秒かだけ、全員の目が“おんりーの方向を素通りした”。
ほんの一瞬。
でも、おんりーにはその“空白”がはっきりわかった。
すぐにおらふくんが振り向いて、
「あっ、おはよう!ごめん、気づかんかった!」
と明るく言う。
気づかんかった、じゃない。
“見えてなかった”ような反応だった。
ぼんさんも、
「声小さかったかも!ごめん!聞こえなかった!」
と笑って肩を叩いてくれる。
でもその“誤魔化しの速さ”が逆に痛かった。
みんな無意識にズレを感じているのに、気づきたくないように見える。
名前を呼ばない返し方がまた、おんりーの心を苦しめた。
ドズルの言葉
撮影後、ドズルさんがメモを取りながら言った。
「明日、四人で回してみる? 手分けして……あっ」
言い間違えた、というより、
“最初から四人と考えていた”口調だった。
ドズルさんはすぐに笑って、
「ごめんごめん!五人だ!」
と誤魔化したけれど、
目がわずかに揺れていた。
その揺れに、
“本人も気づいているズレ”を感じた。
気づいているけど、認めたくない。
そんな顔だった。
帰宅後
家に帰ってスマホを見ると、
視聴者のコメント通知が来ていた。
「今日の放送、なんか一人だけ影薄くなかった?」
「編集の都合?空白多くなかった?」
「声認識バグってた?」
「五人いるはずなのに四人に見えた気がする」
最後のコメントを見た瞬間、
背筋が凍った。
“……四人に見えた?”
胸がぎゅっと掴まれたように痛い。
みんなが忘れていっても、
おんりー自身は全部覚えている。
だから、ズレが鮮明に見える。
その“鮮明さ”が残酷だった。
世界のノイズと欠損の中で、
おんりーだけが“正気”で取り残される。
自分が薄れていくのを、
自分だけがはっきり見てしまう。
胸の奥で、
小さくて細い“ミシ”という音がした気がした。
たぶん、まだ誰も気づかないほど小さな破綻の音。
でもおんりーには、
その音が耳の奥に焼きつくほど鮮明だった。
朝
インターホンの音が鳴った。
宅配の人だ。
いつも通り「はーい」と返事をしてドアを開ける。
だが配達員は一瞬、
おんりーの横を探るように視線を動かした。
「あ……すみません。いらっしゃいました、ね」
“いらっしゃいました、ね”。
まるで、
最初はそこに誰もいないと思った、
と言いかけたような口調。
荷物を受け取りながら、
おんりーの胸に冷たいものが広がる。
「……俺いるよ、ここに…」
呟いても、声が部屋に吸い込まれるだけだった。
収録前
収録の準備をしていると、
ドズルさんがリストを確認しながら言った。
「今日の収録メンバー……
ぼんさん、おらふくん、おおはらMEN、で……」
おんりーの名前の部分で、
数秒の間が空いた。
「……で?」
おんりーが自分で言っても、
ドズルさんの反応は鈍い。
「あ、ああ……おんりーも、な。いるよね。うん」
“いるよね”。
確認しないと確信できないような口調。
またか、と思った。
おんりーは、笑えなかった。
喉が、笑うための形にならなかった。
ゲーム中の“異常に早い忘却”
ゲーム中、
おんりーが敵に追われているのを見て、
ぼんさんが叫ぶ。
「やばっ、こらだめだって!!……えっと……誰だ…っ?」
“追われてる相手”を一瞬で忘れた。
1秒前に名前呼んでたのに。
おんりーは思わず声を荒げる。
「俺だろ!」
「あー!!……そうそう、そうだった!!ごめん!」
ぼんさんは本気で困惑していた。
遊んでる感じじゃない。
“消えた記憶を無理やり拾い直すような目”だった。
心臓が痛い。
息が苦しい。
“忘れられる”瞬間を、
毎回おんりーだけがはっきり見ている。
その地獄に気づいた。
休憩室
休憩室でポテチを食べながら、
おおはらMENがぼんじゅうるに聞いた。
「今日さ……五人で来てたっけ?」
五人で。
ぼんじゅうるが首をかしげる。
「四人じゃなかった?」
おらふくんも、
「え、でも……なんか、違和感はあった」
“誰を忘れてるか思い出せない顔”。
その場におんりーが座っているのに、
4人は“足りない誰か”を探そうとしている。
その“誰か”が目の前にいるのに。
おんりーの喉がつまる。
声を出したくても出なかった。
怒りでも泣きでも叫びでもなく
ただ、静かに胸が砕ける感覚だけがあった。
控室
控室の鏡をなんとなく見る。
映っている。
顔も体も、髪も、服も。
でも、
鏡の中のおんりーの 輪郭だけ少し薄いように見える。
色が淡い。
光が弱い。
背景よりも、ほんの少しだけ霞んでいる。
目を瞬いたら元に戻る。
でもまた見ると、やっぱり薄い。
「……なんで、俺だけ」
言い終わる前に、胸がひりついた。
会話の輪の外側
雑談中、
自然と形成される円の中心から、
おんりーだけ少し外に押し出されている。
意図じゃない。
でも無意識に、
メンバーの立ち位置が“おんりーを含まない円”になる。
ぼんさんが話を振る。
「で、おらふくんはどう思う?」
「僕ですか?」
「MENは?」
「俺はこう思うわ」
そして数秒、
ぼんさんの目が“誰かを探すように泳いで”
おんりーを素通りする。
「あー……まぁ、こんな感じやな!」
おんりーに意見を求める流れが、
すぽん、と抜け落ちた。
胸が、冷たく沈む。
声を出す気力すら削がれる。
帰宅後
風呂に入り、
照明を落とした部屋に戻る。
ベッドに座るだけで、呼吸が重くなる。
胸の奥に、鉛のような疲労が沈んでいる。
「……なんで、こんな……」
声に出すと、余計に苦しくなる。
周囲が忘れていくたび、
おんりーはその瞬間を確実に覚えている。
記憶が残るからこそ、
傷が蓄積していく。
忘れてしまえたら、どれだけ楽か。
でも忘れられない。
この病は“おんりーだけ”正常だから。
今日一日で、
心は何十回も削られた。
そのうちどこかで、
ぽきっと折れるんじゃないか。
そんな恐怖だけが、
静かに胸の奥で膨らんでいった。
今日の出来事をすべて覚えている脳が、
その重さで頭蓋の内側を圧迫しているような感覚。
靴を脱ぐ音すら、息をする音すら
耳に届く前に空気の中で吸い込まれてしまう。
部屋の静けさが、優しさじゃなく“自分の存在の薄さ”みたいに感じる。
昔は、この静けさが好きだったはずなのに。
ソファに座る。
背もたれに体を預ける。
胸の中央が鈍く痛い。
“忘れられる”という事実が、
生理的な痛みになって体内に広がっていく。
息を吸うたび、胸の奥がひりついた。
吐くたび、重たい塊が下腹部に沈んでいく。
息が浅くなる。
「……しんど」
たったそれだけの言葉が、
喉を通るときに小さく震えていた。
“しんどい”
“つらい”
“怖い”
そう思っているのに、
口に出したらと胸が締め付けられる。
言葉にした瞬間、
その現実が「本当だと認識」していると言うことになるから。
自分の名前を言うよりも、
心の痛みを言う方が怖い。
心の奥で、
何か固いものがずっと軋んでいる。
でも誰も聞いていない。
誰にも届かない心の悲鳴ほど、苦しいものはない。
目は乾いている。
泣けば少し軽くなるのは分かっているのに、
涙が出ない。
泣くほどの大きな感情じゃない。
でも、耐えられるほど弱くもない。
“泣くほどの痛みじゃないのに、泣けないほど深い痛み”。
そんな矛盾が胸の中で渦巻いて、
なにも発散できないまま心だけ摩耗していく。
なんとなくSNSを開く。
視聴者の声を見る。
褒めてくれるコメントも、応援の声もある。
でも、それが音として入ってこない。
みんなの笑い声も、メンバーの声も、
今日あれだけ聞こえづらかったせいで、
頭の中で再生するときに
すべてが少しだけ遠く、平坦に聞こえる。
嬉しいも悲しいも、
どこか“輪郭だけ残して色が抜けてしまった”みたい。
喜ばなきゃいけない。
怒らなきゃいけない。
悲しむべき。
なのに、心が動かない。
体だけ生きていて、心が遅れている
そんな感覚がずっと続く。
忘れられる瞬間の数が増えるほど、
おんりーの心は「怒り」でも「混乱」でもなく、
もっと淡い、もっと危険な方向へと傾いていく。
“諦め”に近い疲労。
「またか」
「これもか」
「はいはい、俺ね」
そう思うたび、
心の表面が一枚ずつ剥がれていく。
怒る気力も、悲しむ気力もなくなる。
心が“反応しないように”自分を守り始めている。
でもそれが余計に苦しい。
反応できない心は、
痛みを逃がせないからだ。
「……俺は、ここにいるって」
そう言っても、
自分の耳に入る声があまりにも弱い。
声量の問題じゃない。
音が通る道が狭くなっているみたいに、
自分の言葉が自分の胸に届かない。
“存在の証明”をする言葉すら薄く聞こえる世界。
その中にいる自分が、
ひどく孤独で、ひどく疲れている。
疲労じゃない。
摩耗でもない。
喪失でもない。
なんという名の感情か分からない、
名前のない痛みがゆっくり浸食してくる。
名前のない痛み。
対処法のない痛み。
「……ほんっと、やめてほしいな」
震える声でつぶやいた。
誰も聞いてくれない。
聞こえない世界の中で、
おんりーだけが“全部を覚えている”。
それが、何より苦しかった。
収録が始まる。
ドズルさんが全体をまとめる。
「じゃあ今日は、
ぼんさん → ここのギミック担当
おらふくん → 探索
おおはらMEN → 細かいタスク
で、あとは……」
“あとは”で止まる。
空気が張りつめたような静けさ。
何かを思い出そうとするように、
ドズルさんは視線を宙に泳がせる。
おんりーは息を吸って、
声が震えないように押し殺して言う。
「……俺」
その声は思った以上に細くて、
自分の耳にも弱々しく聞こえた。
ドズルさんの表情が、
一瞬苦しみに似た形になる。
「あ……そう、だった。ごめん。ほんとに……ごめん」
謝る声が痛い。
謝られるほど、自分が“忘れられている”事実が濃くなる。
胸がじん、と硬くしびれた。
家に帰ると、
電気をつける気力がなかった。
暗い部屋の中、
バッグだけ投げ出して床に座り込む。
今日は名前を呼ばれた回数を数えるまでもなく、
自分が“いなかった扱い”を受けた瞬間が多すぎた。
怒りたいのに怒れない。
泣きたいのに泣けない。
心が疲れすぎて、
感情のボリュームが壊れている。
怒りも、悲しみも、
全部、遠くの音みたいにぼやけている。
ただひとつだけ鮮明なのは
“俺だけ全部覚えてる”という絶望。
忘れていくのは世界だけで、
その忘却の全過程をおんりーだけが見ている。
名前が呼ばれなくなるたびに、
心がすり減る。
声が届かないたびに、
心の奥で何かが削がれる。
それでも気づかれていない、という事実が、
おんりーの胸をひりつかせた。
「……もう、やだな」
ようやく絞り出した声は、
誰にも届かない。
届かない声を出し続ける苦しさが、
胸の奥で静かに積もっていく。
撮影が終わったあと、
ドズル社の控室にはいつものように笑い声があった。
ぼんさんがハイテンションでふざけ、
おらふくんが照れ笑いし、
おおはらMENがツッコミを入れる。
その中心に、おんりーも“確かにいる”。
でも会話の輪は、無意識のうちにおんりーの形だけ避けるように流れていく。
笑っているはずなのに、
胸の奥がじわりと冷える。
手は震えていないのに、
心が震えていた。
ぼんじゅうるがみんなに声をかけた。
「なぁなぁ、明日の企画なんだけどさ!」
「これどうする?」
「いやここはこうじゃないっすか?」
「え、それは違うやろ!」
みんなの声が重なる。
おんりーはタイミングを見て言おうとした。
「……俺は―ッ!」
その声は、
たしかに喉から出ていた。
息の振動も感じた。
でも誰も振り向かない。
その言葉だけ、
まるで空気に吸い込まれていった。
“まただ。”
胸の奥が、静かに小さく折れた。
ドズルさんがホワイトボードに名前を書いていく。
ぼんさん
おらふくん
MEN
ドズル
そして最後の一枠だけ、
ペン先が長く止まる。
「……ん?あと……誰や……?」
ぼんじゅうるも
おらふくんも
おおはらMENも
“そこにいるのに”、
“目の前にいるのに”、
名前が出てこない。
おんりーは、
胸の真ん中が締めつけられる感覚に耐えながら、
小さく言う。
「……俺」
その瞬間、胸に鋭い痛みが走った。
“なんで俺は言わないと存在できないんだ”
その思いが胸の中で膨らみすぎて、
息ができなくなりそうだった。
——誰より先に、おんりー自身が驚いた。
耐えていた何かの糸が、
音もなく切れた。
気づいた時には、
頬を伝う前に 一粒の涙がぽろっと落ちていた。
自分でも驚いた。
泣くつもりなんてなかった。
むしろ泣く余裕なんてなかった。
涙なんて出るほどの感情じゃない——
そう思っていたのに。
ぽたり、と床に落ちた音がするような錯覚。
その一粒を、
世界がやっと見つけたみたいに。
ぼんさんが最初に気づいた。
「……え?」
その声で、他のメンバーも顔を上げる。
おらふくんの目が大きく見開かれ、
おおはらMENが立ち上がり、
ドズルさんがすぐ駆け寄った。
「待って……泣いて……?」
「……え、ちょ……大丈夫……?」
「なんで……?」
みんながおんりーの前に集まってくる。
みんな、顔が真剣で、焦りが宿っていて。
そこにやっと久しぶりに“全員の視線”が集まった。
けれど——
誰も、おんりーの名前を呼べなかった。
焦って、心配して、駆け寄っているのに。
何か言おうと口を開いて、
そこで詰まる。
「あ……えっと……」
「ちょ、待って……名前……」
「……なんやっけ……ちょ、名前………」
名前を聞くことに躊躇っているような表情。
忘れようなんてしていない。
なのに、出てこない。
おんりーは、その瞬間だけで、
何十回も心が切れた気がした。
「……っ……もう、むり……」
声は自分のものに思えなかった。
喉がひりつき、
胸がぎゅっと締まり、
視界が歪む。
膝が落ちるように崩れ、
手が震えながら顔を覆った。
抑えようとしても、
声が漏れる。
「なんで……っ、なんで、誰も……
俺の……名前……っ……!」
言葉がつっかえ、
泣き声に変わっていく。
「俺……ここに……いるのに……っ……
いんのに……見えないの……っ……
やだ……っ……やだよ……っ……!」
涙が止まらない。
呼吸がうまくできない。
胸の奥が割れるように痛い。
耐えていたすべてが、
この瞬間一気に崩れ落ちた。
——名前だけがどうしても出てこない
ぼんじゅうるが震えた声で叫ぶ。
「ちょ、待ってって……!大丈夫だって……!
落ち着けって……!」
おらふくんは半泣きで、
「ご、ごめん……!
名前……なんで出ない……?」
おおはらMENはおんりーの背中に手を伸ばすが、
触れていいのか分からず手を止める。
ドズルだけが震える声で言った。
「君は……ここにいる。
ちゃんと、いるよ……
だけど……名前が……ほんと……
出てこない……なんで……」
誰にも悪意がない。
誰も忘れたいわけじゃない。
でも、
出てこない。
それが何より残酷だった。
おんりーは
顔を覆った両手の奥で、
まだ泣いていた。
抑えようとしても抑えられない、
喉の奥をひっかくような震え。
呼吸のたびにか細い声が漏れ、
涙が指の隙間からぽたぽた落ちていく。
「……っ、ひぐ……っ……
なんで……なんで……っ……
俺、いるのに……いんのに……」
肩が小刻みに揺れ、
呼吸が乱れて、
胸が潰れそうに痛む。
泣くつもりなんてなかった。
でも、もう止められない。
名前を呼んでもらえない
その一点が、
何よりも自分の存在を否定された気がして苦しかった。
おんりーの泣き声を前に、
メンバーは全員、同じ顔になっていた。
“何かがおかしい”
と気づいてしまった人間の顔。
ぼんさんが、
喉の奥がひっくり返ったような声で呟く。
「なんで……名前……出ないんだ……
ずっと活動一緒にしてきた”仲間”だろ……?、俺……」
手が震えている。
おらふくんは唇を噛んだまま、
何度もおんりーの名前を言おうとして、
そのたびに声が途中で詰まった。
「おん……お……
……っ、なんで……
なんで言えないん……?」
目の端が赤くなっている。
自分が“忘れていた”事実に怯えていた。
おおはらMENは眉を寄せ、
やっと絞るような声を出した。
「……俺、今日の収録……
なんで五人おったって思ってへんかったんやろ……」
その声は自分自身に対する恐怖だった。
ドズルは一番強く感情を押し殺しながら、
おんりーの近くに膝をつく。
しかし、
伸ばした手は震え、途中で止まる。
触れて確かめたい。
でも“触れた瞬間に消えそう”で怖い。
そんな矛盾が手の震えとして現れていた。
ぼんさんが言う。
「最近な……声、
ときどき……聞こえんかっんだよ……
マイクの故障とか、そういう問題じゃなくて……なんか……空気に溶けてるみたいで……」
おんりーは両手で顔を覆ったまま、
泣き声だけで返す。
「……いや、だって……
……俺、ちゃんと……しゃべって……た……っ……」
「分かってる、分かってる……!」
ぼんさんの声が震える。
おらふくんの視線が泳ぐ。
「視界の端に……映らなかったの、
おんりーが……
いや、映ってるんだけど……
“脳が読み取れない”っていうか……
……説明できなくて……ごめん……」
正確すぎる違和感の表現に、
ドズルが息を呑む。
「僕も……
最近……君を何回も数に入れ損ねてた……
でも忘れたいわけじゃない。
自分でも怖い……
なんで……ほんとになんで……」
メンバーはみんな、
言葉にならない恐怖に飲まれ始めている。
そしてその中心で——
おんりーだけが泣き続けている。
名前を呼ばれない。
認識が遅れる。
存在がスルーされる。
それが積み重なって、
心の奥にあった“強がり”が全部砕けた。
「……っ……なんで……
俺……なにしたの……っ……
なんで……なんで……
なんで名前が……で、ない……」
手で顔を覆ったまま、
ゆっくり崩れていく。
呼吸が乱れ、
涙が途切れず落ちていく。
心が弱っているとかじゃない。
強い弱いじゃない。
存在そのものを揺さぶられる痛みは、
そんな次元じゃなかった。
おんりーの泣き声の中、
ドズルさんがぽつりと言う。
「……これ、違和感とかのレベルじゃないというか……
なんか……もっと……」
ぼんじゅうるが震える声で続ける。
「“忘れそうになる”とかじゃなくて……
“忘れさせられてる”って感じ……
おん……いや……その……
“君”の……名前を……」
言いながら、自分でも怖くなったのか、
ぼんじゅうるの喉がひくっと鳴る。
おらふくんは泣きそうになりながら言う。
「……僕、今日……
おんりーのこと、初めて見た気がして……
……怖い……
でも、そんなはずないのに……」
おおはらMENは静かに呟く。
「……気づかんかった。
絶対、毎日一緒におるのに……
なんで“今日初めて認識した感覚”があるんだ…
おかしい……
ほんとにおかしい……」
“おかしい”
その言葉に、全員がうっすら震えた。
誰も、この現象を正常と言えなかった。
おんりーはまだ泣いている。
「……っ……やだ……
俺のこと……
忘れないで…………
お願い……」
その弱々しい願いすら、
誰かが拾ってくれる確証がない。
メンバーは全員、
おんりーを見ているのに
“名前だけ欠損している”。
それがどれだけ残酷か、
やっと全員が理解し始めていた。
誰も笑えない。
誰も誤魔化せない。
違和感は、
もう確かな“崩壊の前兆”になっていた。
そしてその中心で、
ずっとおんりーはひとり泣いていた。
肩が上下に揺れ、
呼吸がうまくできず、
涙が止まらない。
ぼんじゅうるも、
おらふくんも、
おおはらMENも、
ドズルも、ただ見守るしかできなかった。
名前が出てこない。
呼びたくても、呼べない。
その残酷さに、
全員の顔に焦りと恐怖が混ざっている。
泣きすぎて言葉が混濁し、
おんりーは意識の膜が薄くなっていった。
理性の鍵が外れたみたいに、
ぽろっと声が漏れる。
ほんの小さな声。
誰にも聞かせたくなかった声。
「……おれ……
……びょうき……なんだ……」
空気が、一瞬凍った。
ぼんさんが息を呑む音がした。
「……病気……?」
おらふくんの手が震える。
おおはらMENは眉を寄せたまま固まり、
ドズルさんの喉がごくりと鳴った。
おんりーは涙で滲む視界の中、
苦しそうに言葉を続けてしまう。
「……わすれられる……病気……
……なおんないって……
しんりょ……の……ひと……
いって……た……」
声になっていない。
息が詰まりそうな中で、
絞り出すみたいに言ってしまう。
“漏らすつもりなんてなかった”。
隠したかった。
言ったら壊れると分かっていた。
でも涙と一緒に、
本音が零れてしまった。
泣き続けるおんりーの前で、
メンバーは誰も声を出せなかった。
“忘れられる病気”
あまりにも重く、
あまりにも信じたくない言葉。
ぼんじゅうるは震えた声で言う。
「……そんな……
そんな病気あるわけ……」
けれどすぐ言葉を飲み込む。
目の前で起きている現象が、
その病気の存在を否定できないほど異常だったから。
おらふくんは唇を噛み、
しぼり出すような声で呟く。
「……ごめ、っ……
何も気づけなくて……
……知らなくて……」
おおはらMENは胸に手を当て、
呼吸を整えようとしているが、
手の震えは止まらない。
ドズルはそっと言った。
「……帰ったほうがいい。
このままここにいるほうが……しんどいでしょ」
優しい声だった。
優しいけれど、痛いほどに重い。
おんりーは涙で濡れた顔を隠しながら、
小さく頷いた。
足元がふらつきながら控室を出ていく背中を、
誰も止められなかった。
ドアが閉まる音は、
部屋の空気をさらに重く沈ませた。
全員が黙ったまま立ち尽くす。
さっきまでの喧騒が嘘みたいに、
壁時計の音だけがやけに大きく聞こえた。
ぼんじゅうるがゆっくり言う。
「……なぁ。
忘れられる……病気って……
本当にある……?」
声が震えている。
おらふくんは携帯を取り出しながら呟く。
「……僕、調べる……
そんなの、ありえない……って思いたいけど……
今日の感じ……ほんとは……」
おおはらMENも眉を寄せてスマホに手を伸ばす。
「……俺も見る。
……気のせいだって言うためにも……すぐに、また名前呼べるって信じるためにも、確認したい」
ドズルは深く息を吸い、
静かに言った。
「……全員で調べよう。
最近の現象……
偶然とか忘れっぽいとかじゃ、もう片づけられない」
それぞれが、震える指で検索を始める。
“忘れる病気”
“名前を認識できない”
“存在が薄れる症状”
入力するたびに、
胸の奥が冷えていく。
そして——
検索結果に現れた、ほとんど知られていない“症例”。
「……これ……」
ぼんじゅうるが声を失う。
「……世界に……数人……?」
おらふくんが息を呑む。
「……“周囲だけが忘れる例”が……
……ひとつある……」
おおはらMENが画面を震える手でスクロールする。
「……おんりーの……やつ……
……これじゃん…」
ドズルは唇を強く噛んだ。
血がにじむほど。
「……お前……
ひとりで……こんなの……
抱えてたの……」
控室は重く、痛く、
泣きそうなほど静かだった。
おんりーの泣き声の残響だけが、
壁に染みついているようだった。
控室は音が消えたような静けさに包まれた。
誰も喋らない。
誰も動かない。
ただ、さっきまで泣いていたおんりーの姿が
脳裏に焼き付いて離れなかった。
その沈黙を破ったのはドズルだった。
「……忘れたく、ない」
その一言で、
全員がそれぞれの“抗う方法”に走り始めた。
———名前を失わないための執着
ドズルは机にノートを開く。
ぼんじゅうるも隣で同じように紙を出す。
ふたりはペンを握り、
無言で書き始めた。
おんりー
おんりー
おんりー
おんりー……
ページが真っ黒になるほど何度も。
書いても書いても不安は消えず、
書いてるそばから
“さっき書いたはずの名前の感触”が薄れていく。
ぼんじゅうるは手を止めず呟く。
「……書かないと……
書かなかったら……
次に思い出せる保証が……どこにもない……」
字が震えてにじむ。
けれど止めない。
ドズルも声を低く震わせたまま言う。
「名前を忘れたら……
本格的に……おんりーがいなくなるような気がして……
……怖いよ」
二人は食べ物も手をつけず、
何時間もただ名前を書き続けた。
時計の針が回る音すら聞こえないくらいに集中して。
——思い出の証拠にすがる
おらふくんは震える手でスマホを取り出し、
おんりーとのツーショット、ゲーム録画、配信の切り抜きを次々再生する。
「……これ……俺ら……
ちゃんと一緒に笑ってた……
ほら……ほんとは……忘れるわけ……」
声が震え、
途中で言葉が詰まる。
画面に映るおんりーは笑っている。
ふざけている。
照れて下向いている。
でも——
映像を見ている間ですら、輪郭が少しだけぼやける瞬間がある。
「……なんで……
なんで動画の中の人まで……
ちょっと薄くなんねん……」
声がかすれた。
「ごめん……
ごめん、おんりー……
忘れたくないのに……」
繰り返し動画を再生し続けるおらふくんの目は、
真っ赤に腫れていた。
MENはひたすら資料をあさる。
日本語だけじゃない。
英語、海外の医療論文、心理研究、都市伝説めいたブログまで。
「……なんでもいい。
手がかりだけでも……
治る可能性が……一パーでもいいから……」
スクロールする指が震える。
「……“周囲が忘れる型”……
……ただ一例だけ……
……結末が……不明……?」
画面を読みながら奥歯を噛みしめる。
「不明って……
なんで一番大事なとこだけ……
残ってへんねん……!」
怒りでも絶望でもなく、
自分の無力さへの悔しさだった。
目の下のクマが濃くなっていくのも気づかず、
画面を追い続ける。
気づけば夜が明けかけていた。
スタジオの蛍光灯が白く滲む。
ぼんさんの手は書きすぎて震えている。
ドズルさんの目は充血して、声がかすれていた。
おらふくんは涙を拭いた跡がそのまま残り、
MENは机に手をついたまま肩で息をしていた。
ドズルさんがぼんさんの顔を見て、
ぎょっとする。
「……ぼんさん……
いつから寝てない……?」
ぼんじゅうるは笑う。
「ドズさんこそ……
その顔でよく言うわ……
何時間書いてるんだよ……」
その言葉を聞いたおらふくんが、
怒鳴るように声を上げた。
「何日やってたんっすか!?
顔……真っ青ですよ!!」
MENも続ける。
「ドズルさんもぼんさんも……
自分が壊れたら意味ないでしょ!
俺らだって……
必死に思い出し続けて……
忘れへんようにしてるねん……!」
怒りというより、
“怖さの裏返し”だった。
「……なら……
全員で……おんりー呼ぼ」
ぼんじゅうるも頷く。
「一緒に……
過ごそ。
今……離れたら……
本当に忘れてしまいそうで……」
おらふくんは力強く言う。
「思い出……
全部話しましょう。
初めて会ったときのことも、
楽しかったことも……
ぜんぶ」
MENが続ける。
「ご飯食べて……
話しながら……
“名前”と“存在”を刻み直す」
その“決意”だけが、
壊れかけた空気の中にしっかりと残った。
家にいるおんりーを、静かに呼びに行く
玄関の前に立つメンバー四人。
目は真っ赤で、
疲労で体は重い。
でも全員、
“忘れたくない”という必死の願いだけで来ていた。
ドズルさんが震える手でインターホンを押す。
「……おんりー。
……一緒に……ご飯食べよ」
涙を必死に堪えながら。
「忘れないために……
おんりーとの全部……覚えていたいから」
ぼんさんも声を重ねる。
「おはようも、おやすみも、
大切だよも、全部言う」
おらふくんが続ける。
「ずっと一緒に居る……
今日だけじゃなくて……
明日も……忘れないために……」
MENが言う。
「病気に負けたくない。
絶対に」
その声は震えていたけれど、
強かった。
インターホンの音が鳴る。
おんりーは
ソファにうずくまったまま、
心臓がひどく重く脈を打つのを感じていた。
もう誰も来ないと思っていた。
来るはずがないと思っていた。
震える足で玄関に向かう。
ドアノブを握る手が、汗で少し滑った。
「……?」
ドアをゆっくり開ける。
目の前に立っていたのは
ドズルさん、ぼんさん、おらふくん、おおはらMEN。
全員、
目は真っ赤。
頬はこけ、
唇は乾き、
手は震えていた。
ぼんさんとドズルさんの手には、
“おんりー”と何百回も書かれた紙が握られている。
おらふくんは
スマホでおんりーとの写真をまだ再生したまま。
MENの指は検索履歴の消えていない画面を握りしめている。
みんなは、
立っているのが辛いほど疲れ切っていた。
おんりーの呼吸が止まった。
驚愕
というより、
“こんなに必死なのか”
という衝撃。
おんりーの視界が、
ふっと滲んだ。
涙が出そうになるのを堪えかけたけど、
こらえられなかった。
ぽたり、と小さく落ちた。
「……なんで……
そんな顔してんの……」
震えた声だった。
みんなの目に宿る疲労と焦りと恐怖と、
それでも“おんりーを忘れたくない”一心の努力が
痛いほど伝わってきた。
それが嬉しくて、
苦しくて、
胸がぎゅっと締めつけられた。
ドズルさんが弱い声で笑う。
「おんりーを……忘れたくない。
ほんとに、それだけなんだ」
ぼんさんは震えた声で続ける。
「名前、書いてた。
忘れないように。
……何時間も……
何回も……
書いても書いても、不安で……」
おらふくんは涙で濡れた顔のまま。
「動画とか写真ずっと見てたよ……
声とか、笑い方とか……
忘れたくなくて……
忘れたら……終わりやと思って……」
MENも続ける。
「治す方法を……探してた。
俺ら……何もできんかもしれんけど……
何もしないわけにはいかなかった……」
その言葉の一つ一つが、
おんりーの胸に深く、温かく刺さる。
おんりーは
涙をぬぐいながら、
苦しそうに、でも確かに笑った。
「……そんなの……
そんなの……泣いちゃうじゃん……」
声が掠れているのに、
気持ちはちゃんと乗っていた。
「俺のために……
そこまで……
必死になってくれるなんて……
思ってなかった……」
胸を押さえながら続ける。
「……忘れられるの……
ほんとに怖い……
でも……
みんなが……こうやって……いてくれて……
……すごく……嬉しい……」
涙がまたこぼれた。
笑いながら泣く、
苦しそうで、
でも確かに“救われた”涙。
ドズルがそっと言った。
「一緒に……飯食べよ。
思い出……全部話しながら」
ぼんじゅうるも言う。
「忘れないように……
俺らで刻もう。
おんりーを……何回でも」
おらふくんは目を赤くしながら。
「今日のことだけじゃなくて……
全部……話そう……
初めて会ったときのこと……
最初に名前呼んだときとか……」
MENも静かに。
「記録しよ。
言葉でも、心でも……
おんりーを忘れないために」
おんりーは涙を流しながら、
小さく、でも力強く頷いた。
「……うん……
一緒に……行く」
その声は弱いけれど、
確かに“みんなに届いた”。
ドアの向こうにあったのは、
忘却に抗うために必死になった仲間だった。
おんりーはその事実に救われ、
泣きながらも笑った。
ドズルが選んだのは、
昔メンバーでよく来ていた、
少しだけ静かな居酒屋だった。
店内の柔らかい灯りが、
おんりーの影を淡く照らす。
席に着いた瞬間、
おんりーの胸がふっと震えた。
“ここ……俺、何回も来た”
過去の記憶は確かにある。
けれど、誰かに忘れられることが続いたせいで、
その記憶ですら“自信を失いかけていた”。
そんなおんりーの不安を察してか、
ぼんさんがそっと言う。
「ここだ。
最初に五人で集まった日……
ここだった」
その一言で、
胸の奥がじんと熱くなった。
おんりーの目がゆっくり潤む。
料理が運ばれる。
湯気が淡く広がり、
みんなの顔をふわっと柔らかく照らす。
けれど全員、
箸を持つ手が微かに震えていた。
「食べよ」
とドズルさんが言っても、
誰もすぐには口をつけなかった。
おんりーを忘れまいと必死にしてきた痕跡が、
みんなの顔に濃く刻まれている。
おらふくんは腫れた目元を指で押さえて、
そっと笑った。
「……おんりーの、
好きなメニュー頼んどいた」
おんりーは驚いて目を見開く。
「……覚えて……?」
「忘れないように、
ずっとメモ見てた……から
あの……“これ美味い”って言ってたやつ……」
その言葉が
胸の奥に優しく落ちた。
おんりーが一口食べた瞬間、
胸の奥がじわっと温かくなって、
同時に痛みも走った。
懐かしさと、
さみしさと、
嬉しさと、
恐怖と。
全部混ざった味がした。
喉の奥で涙がせり上がる。
「……美味しい……」
小さく呟いた声に、
全員がほっとしたように微笑んだ。
最初に話し始めたのは、ぼんさんだった。
「なぁ覚えてる?
おんりーが初めて来た日、
挨拶の声ちっさすぎて聞こえなかったやつ」
おんりーの目が揺れる。
「あ……覚えてる……
めっちゃ緊張してて……
声……震えてた……」
みんなの顔に笑みが浮かぶ。
だけどその笑みはどこか切なかった。
次にドズルさんが語る。
「その時ね
“この子絶対伸びる”って思った。
なんでか分からないけど、
芯があるって感じがした」
おんりーは目を細め、
震える声で返す。
「……ありがとう……
ドズルさんがそう言ってくれたの、
めっちゃ覚えてる……」
自分の記憶が“確かだ”と感じられた瞬間、
胸がじんと熱くなる。
おらふくんはタオルで目元を拭いながら言った。
「おんりー、
僕の配信の初コラボのとき……
緊張しすぎて急に無言になって……
コメント欄ざわついてたよな」
おんりーが照れ笑いを浮かべる。
「……あれ、マジでやばかった……
声出んくなってた……」
「僕、隣でめっちゃ焦って……
“やばい、本気で固まってる……”って……
でも……
あの時、
“無言でもいいよ”って笑って言ってくれたの、
今でも……めっちゃ覚えてるよ」
おんりーの目がまたにじむ。
MENも言葉を重ねる。
「俺な……
おんりーが編集教えてくれた日、
あん時のメモ……
まだ全部残してるよ。
ただの切れ端に書かれたものだったけど……
めっちゃ分かりやすかった」
「……嬉しい……
そんな覚えてくれてるの……
ほんとに……」
言葉が震えて途切れる。
ドズルが静かに言う。
「今日の話、全部……
思い出すためだけの会話じゃない。
“忘れないため”の会話だ」
ぼんさんも頷く。
「そう。
おんりーがここにいること、
俺らが一番分かってるって証」
おらふくんが言う。
「忘れても……思い出す。
なんども、なんどでも……」
MENも口を開いた。
「忘れるたびに……
おんりーが泣くんだろ?
そんなの……見たくない
絶対に」
その言葉が、
おんりーの胸の奥に深く響く。
涙がまたこぼれる。
おんりーは
涙を拭いながら、
ぎゅっと唇を噛んで、
ゆっくりと言った。
「……こんなに……
俺のこと、思ってくれてて……
ほんとに……ありがとう……」
声は震えていたけれど、
その奥には確かな“温度”があった。
「……俺……
みんなと一緒に……いたい……
忘れられたくない……
……だから……
みんなが努力してくれてるの……
ほんまに嬉しい…
でも…」
最後の”でも”は掠れていて聞き取れないくらい小さなものだった。
全員の喉が詰まる。
一瞬、
暖かくて、
でも泣きたくなるほど切ない静けさが流れた。
「飲み物追加で頼もうか、お──」
ドズルの口が止まる。
名前が出ない。
ぼんじゅうるの目が揺れる。
「昨日……
一緒にいたよな。
一緒に……おん……り……?」
言いかけた言葉が途中で薄れる。
おらふくんが小声で呟く。
「怖い……
覚えてるのに……
声にしようとすると抜ける……」
努力しているのは伝わる。
必死に意識を繋ぎ止めているのも分かる。
でもその努力が続くたび、
体がすり減っていく。
メンバーの顔色は悪く、
指は震え、
声はかすれている。
昨日からまともに食べていない。
眠っていない。
心も体も限界に近い。
その姿は、
“忘れたくない”と必死で抗っている証拠だった。
だが——
おんりーは、そんな姿を見たくなかった。
自分のために壊れていくのを見ている方が、
忘れられるよりつらかった。
胸の奥が、きゅっと潰れる。
おんりーは静かに呟く。
「……もう……いいよ」
その言葉に、
全員の動きが止まる。
おんりーはゆっくりと、
笑うでも泣くでもない、
痛みに満ちた表情で続けた。
「……もう、十分。
みんな……これ以上、無理しないでいい。
俺のために……壊れないでほしい」
声は震えていたけれど、
その奥には覚悟があった。
ぼんさんが首を強く振る。
「無理とか関係ない!
忘れたらだめだろ!!
忘れたくないから頑張ってるんだ!!」
ドズルさんも必死に言う。
「残らせる。
絶対に……
おんりーのこと、消させたくない」
おらふくんは涙声で叫ぶ。
「いなくなるなんて……嫌や!
嫌や……!」
MENも拳を握りしめながら。
「情報調べる!治す方法絶対ある!
俺ら、まだ……やれる、から!」
その声が、
おんりーには痛かった。
努力してくれているのは嬉しい。
心が温かくなる。
でも、
その努力がどんどん死に近づいているみたいだった。
おんりーの胸がひりつく。
「……違うんだ……」
涙が一筋落ちる。
「みんなに……俺のせいで……
苦しんでほしくないんだよ……」
その瞬間、
胸の奥に刺さった何かが完全に折れた。
おんりーは静かに考えを進めた。
“自分が消える”選択をすることの考えを。
おんりーが涙を落とした拍子に、
スマホに保存していたページが急に更新されたように見えた。
今まで読めなかった“症例の続き”。
スクロールすると、
文字が現れる。
『存在希薄化症例:逆型』
──周囲が忘れるタイプ(1例のみ)
症状末期には、
周囲の認識負荷が極端に増大する。
患者が消えまいと願えば願うほど、
周囲の人間の精神疲労は高まる。
患者と関わる者が
自律神経失調や記憶混濁を起こす例も記録。
おんりーは息を呑む。
スクロールする指が震えた。
『備考:患者の意志』
もし患者が強く“残りたい”と願う場合、
周囲の認識負荷は上昇し、
逆に患者が“自ら消える”選択をした場合のみ、
混乱は収束する傾向がある。
「……俺が……残ろうとすると……
みんなが……壊れる……?」
吐息が震える。
『残された1例の患者の言葉』
“自分が消える選択肢をした人へ
また誰かと出会った時、
その人のために、あなた自身を『言葉』として残しなさい。
忘れられる痛みより、
誰かを傷つけずに消える優しさを選んだ私は、
それを後悔しなかったから。”
“大切な人との記憶を語ってから行きなさい。
自分の記憶は残っても、心の痛みはきっと残らない。”
おんりーは
画面を見ながら、
静かに涙を流した。
「……そっか……
俺が……残りたいって思ったら……
みんなが……もっと苦しむのか……」
白く滲む画面を見つめたまま、
唇を噛みしめる。
そして振り返り、
みんなの顔を見る。
涙に濡れた優しい顔が並んでいた。
おんりーは、
泣きそうな笑顔で言った。
「……ごめんね。
俺……決めた」
声は震えていたけれど、
その瞳には決断の光があった。
「……みんなのこと、
大好きだから……
もう……苦しんでほしくない」
涙がまた落ちた。
「だから……
俺……消える。
その代わり……
最後に……全部話す。
思い出も……出会いも……
全部」
静かな決意が、
夜の居酒屋に落ちた。
その瞬間、
全員の心がひどく揺れた。
おんりーが
「消える」と言った瞬間、
テーブルに落ちた空気は
息をひそめたように静かだった。
全員の喉が詰まり、
誰もすぐには言葉を出せなかった。
その沈黙の中で
おんりーが自分から、そっと口を開いた。
「……話すよ。
全部……話す。
俺と、みんなの……始まりと……全部」
声は弱かったけれど、
どこか穏やかだった。
覚悟を決めた声だった。
「最初は……
俺が緊張しすぎて、
“まともに声も出んかった日”だった」
おんりーは
少し笑って言う。
ぼんじゅうるが苦笑いを返す。
「覚えてるよ。
“よろしくお願いします”のつもりだったんだろ?
“……よろ……す……”ってしか聞こえなかった」
おんりーは照れながらも続ける。
「でも……
その日の帰りだったたよね、
ドズルさんが言ってくれたじゃん?」
ドズルは小さく頷く。
「“君は、絶対伸びる”って言ったな」
その言葉を聞いて、
おんりーの目が少し潤んだ。
「……あれ、ほんとに……嬉しかった」
思い出を語るたび、
声は震えて、
でも確かに笑っていた。
おんりーを見るメンバーの表情は、
涙を堪えながらもどこか優しい。
おらふくんが話す。
「僕、おんりーとの初コラボ……
今でも覚えてるよ。
“話すタイミングわからん……”って
小声で言ってたの、可愛かった」
おんりーは照れ臭そうに笑う。
「今もだけどね」
MENも噛み締めるようにして呟く。
「俺な……
おんりーに動画編集教えてもらった日、
“覚え悪くてすみません”って言ったら
“そんなことないです”って笑ってくれたやん」
「……俺、あれで救われてたよ。
自信なかったから……」
おんりーは優しい声で返す。
「MENは最初からできてたで。
俺より飲み込み早かったもん」
MENは少し涙を拭う。
おんりーはひとりひとりの目を見ながら話す。
「ぼんさんのツッコミ……
俺、最初あれ本気で怒ってるんかと思ってた」
「えぇ!?まさかの!?」
とぼんさんが驚いて笑う。
「違う違う。
俺、距離感わからなくて……
でも、すぐ分かった。
めっちゃ優しい人だって」
「……やめろや、泣くぞ……」
とぼんじゅうるが鼻を啜る。
“忘れてほしくないけど、壊れてほしくない”
おんりーの声が
ふっと細くなる。
「……ほんとはな、
忘れられたくないよ。
怖かった……
めっちゃ怖かった……
みんなの名前……
呼ばれない時……
ここにいても……
いないみたいで……
やばかった」
涙が頬を伝う。
でもそのあと、
優しく微笑んだ。
「でも……
それ以上に……
みんなが苦しむの……
見てるほうが……
もっと怖かった」
こらえていた涙が溢れる。
「だから……
俺は……
みんなが苦しむくらいだったら……
消えるほうがいい」
全員の胸が刺されたような痛みを覚えた
ぼんさんの拳が震えた。
おらふくんは泣きながら
口を押さえている。
MENは肩を震わせ、
テーブルを見つめている。
ドズルさんは唇を噛み、
声を絞り出す。
「おんりー……
……そんな言い方……
反則だよ……」
でも続く言葉は
怒りではなく、
痛みからくる優しさだった。
おんりーは
涙の跡の残る目で、
ひとりひとりを見た。
声は震え、
でも、芯があった。
「……だから……
お願い。
俺が消えても……
みんなは、ちゃんと生きて。
笑って。
無理しないで。
忘れてもいいよ。
そのために……
俺、こうして話してる」
涙が落ちる音が聞こえた気がした。
「また……
誰かと出会ったときに……
俺みたいなやつがいたら……
その人に優しくしてあげてほしい」
胸が痛くて、
声が出ないほど繊細な願い。
「俺が消えるのは……
みんなのため、とか言いつつ
苦しむみんなを見たくないって言う、
自分のためだから……」
その“優しさ”が残酷すぎて、
メンバー全員の胸を壊した。
居酒屋を出て、人気のない帰り道を歩く。
夜の街灯の下で、
おんりーの影が——
“他の四人より少しだけ淡く”見える。
ぼんさんが気づき、
思わず息を呑んだ。
「……影、薄なっとる……?」
おんりーは、悲しそうに笑った。
「……うん。
たぶん……はじまってるんだと思う」
その言葉があまりにも静かで、
胸が張り裂けるほど残酷だった。
歩幅を合わせて歩いているのに、
おんりーだけ“少し後ろへ引っぱられるような”感覚がある。
見た目には分からない。
でも四人にははっきり分かった。
おらふくんが震える声で言う。
「……なんか……おんりー、
歩くスピード……遅れてない……?」
「うん……」
とおんりーは首を傾けた。
「俺、歩いてるつもりなんだけど……
足の感覚、なんか、軽いんだ…ふわふわする…
地面に触れてないみたいで……」
その言葉に、
四人の眼差しが同時に揺れた。
静かな公園。
ベンチに腰掛けると、
夜風がひんやりとおんりーの身体を撫でる。
「……ここなら、ゆっくり話せる」
ドズルさんが言って、
五人は横並びで座った。
だけど
おんりーの座った部分のベンチは、
わずかに“沈みが浅い”。
まるで体重が少し軽くなっているように。
MENが気づき、
手を震わせながら呟いた。
「……もう、始まってる……
存在が……軽くなっていくんだ……」
おんりーは苦しそうに笑った。
「ごめんね……
ほんとに……ごめん……」
おんりーの姿が
ほんの少しだけ霞みはじめた頃。
四人は気づかないふりをして、
少しでも長く一緒にいられるよう
言葉を重ねていた。
夜風が静かに吹いて、
街灯が淡く揺れる。
その瞬間——
おらふくんが、
胸の奥をぎゅっと押さえながら言った。
「……写真、撮りません……?」
声は震えていたけれど、
確かな願いが乗っていた。
「5人で……最後に……
写真撮りたい……」
全員が息を呑む。
“最後”という言葉。
誰も口にしていないその現実を、
真っ直ぐに見つめた言葉。
そして、
おんりーは一瞬だけ驚いた表情をして
すぐに、ふっと優しく笑った。
「……撮ろか」
スマホを持つおらふくんの手が震えている。
「じゃあ……並んで……」
ぼんじゅうるが無理に笑って肩を寄せる。
「おい、泣くなよぉ……
写真濡れるだろ……」
泣いているのはぼんじゅうる自身だった。
MENは撮影位置を整えながら、
涙を袖で拭う。
「……はい、こっち向いて……
笑えたら……笑ってや……」
ドズルはおんりーの背にそっと手を置き——
その“背中の重さ”が
いつもよりずっと軽いことに気づき、
胸が痛くなる。
おんりーは小さく息を吸って、
みんなを見渡した。
「……こんな俺のために……
ほんとにありがと……」
その声には
泣きたいほどの優しさが滲んでいた。
公園の静けさ。
夜の匂い。
街灯の優しい光。
その中で、
おらふくんが小さく声を整える。
「じゃあ……撮りますね……
3……
2……
1……」
パシャ。
シャッター音が夜に消える。
その一枚は——
5人で写る最後の写真になった。
でも、
出来上がった写真には
はっきりと“違和感”があった。
ぼんじゅうるがスマホを震える手で持ちながら言う。
「おい……
なんでこんな……
薄いんだ……
なんで……!」
おらふくんは涙をこぼしながら、
「でも……
でも……写っててよかった……
写って……て……」
MENは写真を見つめて。
「……これ……
絶対大事にする……
何があっても……」
ドズルはおんりーを見つめ、
「写ってるだけでいい……
その……
証拠だから……
お前がいたっていう……」
その言葉に
おんりーの喉が震えた。
「……ありがとう……
俺……
これだけで十分だ……」
一滴の涙が頬を伝え、
夜風に冷やされた。
ぼんじゅうるが手を伸ばし、
おんりーの肩に触れようとする。
でも
触れた瞬間、
ほんの少し“すり抜ける”感触。
ちゃんと触れているのに、
触れていないみたいな違和感。
「……っ!?」
ぼんさんが震える。
「嫌だ……嫌だ……!
触れてるのに……なんで……っ!」
おんりーは微笑んだ。
「触れてるよ……
ちゃんと、あったかい」
でもその声は、
風の音に紛れそうなほど薄かった。
おらふくんも手を伸ばす。
「……お願い……
いなくならないで……」
その手が、おんりーの手に触れる。
けれど、
重さがない。
押せばそのまま空気みたいに沈んでしまいそう。
MENが声を震わせる。
「なんでだ……
なんで触れたら“透ける”んだ……
嫌だ……嫌すぎる……」
四人の涙が落ちる。
おんりーはまた静かに語り始める。
「……みんなと過ごした時間、
全部……覚えてるよ」
「最初に褒めてもらった日も、
初めてコラボした日も、
編集教えた日も……
動画見て笑ってくれた日も……
全部……全部……」
涙が頬を伝う。
「たぶん……世界から消えても……
俺は覚えてる。
ずっと覚えたまま……遠くに行くんだと思う」
ぼんじゅうるが首を振る。
「やめろ……
そんな言い方しなくても……っ」
ドズルの声が震えた。
「僕ら……どうしたらいい……
どうやったらお、んりーを引き止められる……?」
おんりーはそっと微笑む。
「——もう、いいんだよ」
胸が裂けるほど悲しい笑顔だった。
話しているあいだ、
おんりーの指先が
“少し透明”になっていることに気づいた。
おらふくんが叫ぶ。
「……手……!
おんりーの手……透けて……!!」
MENが涙を落とす。
「嘘だろ……
嘘だって言え……!
なんで……もう……」
ぼんさんは頭を抱えた。
「なんでだよ……!
ふざけんなよ……!!
なんでおんりーなんだ……!!」
ドズルさんは拳を握りしめ、
声を押し殺した。
「……やめろ……やめてくれ……
消えないで……」
夜風が冷たく通り過ぎ、
おんりーの輪郭が少し揺らぐ。
おんりーは四人を順に見つめる。
「ぼんさん、
俺に“仲間”を教えてくれた人。
最初から最後まで……
笑わせてくれた。
ありがとう」
ぼんじゅうるは泣き叫んだ。
「お前……なんでそんな……
優しいことばっかり言うんだ……!」
「おらふくん……
真っ直ぐで、泣き虫で、
でも誰より優しかった。
俺、ずっと大好きだよ」
おらふくんは涙で顔をくしゃくしゃにした。
「僕も……!
大好き……!!
だからっ、消えないで……!!」
「MEN……
頑張り屋で、
優しくて、
俺のミスも全部拾ってくれた。
ほんとにありがとう」
MENは嗚咽をこらえきれず泣いた。
「なんで……
なんでこんな……
最後みたいなこと……言うんだよ……!」
おんりーは一番時間をかけて、
ドズルさんを見つめた。
「ドズルさん。
俺に……“生きていい場所”をくれてありがとう。
拾ってくれて……
名前を呼んでくれて……
褒めてくれて……
ずっと支えてくれた」
涙が溢れた。
「ドズルさんのおかげで……
俺……生きてこれたよ」
ドズルは唇を噛み、
「……やめて……
そんな別れみたいな言い方、しないで……」
と吐き出した。
おんりーがそっと手を伸ばす。
でも四人の指は——
触れようとすると、
“ほんの少しだけ空気に溶けて”しまう。
触れ合っているつもりなのに、
触れられない。
おんりーは泣き笑いで言う。
「……ごめんねぇ……
でも……
こんなに“優しい人たち”に出会えて……
俺……幸せだった」
声が薄れ、
輪郭が淡く揺れる。
「忘れていいよ……
忘れたって……
俺は、みんなのこと……ずっと覚えてるから……」
おんりーが
小さく「ありがとう」と呟いた瞬間——
涙がひと粒、
地面に落ちた。
その瞬間だった。
おんりーの姿が、
淡い光のように
すう……
と薄くなった。
ドズル社の四人が同時に叫ぶ。
「おんりー!!」
でもその声は——
もう彼には届かなかった。
風が吹き抜ける。
おんりーの姿は、
静かに、痛いほど優しく、
その夜の空気の中に溶けていった。
世界のどこか——
おんりーはひとり、
誰にも届かない場所で。
忘れられたはずの四人の名前を
胸に抱きしめていた。
声に出せば泣いてしまうほど
大事に、大事に。
「……ドズルさん……
ぼんさん……
おらふくん……
MEN……」
その声は届かない。
けれど、おんりーは覚えている。
消えてもなお、
忘れない唯一の存在として。
「……生きててほしい。
笑っててほしい……
俺が……消えても」
涙がひとすじ落ちた。
優しすぎる願いとともに。
季節がゆっくり移り変わり、
日常は続いていた。
仕事も増えて、
笑う日も増えて、
夜を越えてまた朝が来る。
でも、四人それぞれの心の奥底には
“ぽっかりと何かが抜け落ちた穴”だけが
ずっと残っていた。
名前も顔も思い出せないのに、
忘れたくない誰かがいた気がして——
その感覚だけが疼くように残っていた。
そんなある日のこと。
おらふくんはデータ整理のため、
古いスマホから写真を移していた。
指を滑らせながら、
ふっと手が止まる。
理由は分からない。
心臓がなぜか一瞬強く脈打った。
《写真フォルダ:未分類》
普段なら開かないフォルダに、
どうしようもなく惹かれた。
ゆっくりタップする。
スクロールしていく。
どの写真も、
4人で笑っていた。
4人で食べて、
4人で遊んで、
4人で配信して。
“5人”での写真は、一枚もなかった。
いや、
“あった気がする”だけで、
存在しないのだ。
不思議でもあり、
胸の奥がひりつくように痛む。
「……なんでやろ……
…誰かおった気するのに……」
ぽつりと、
おらふくんが呟いた。
理由も分からず、涙が滲む。
「おらふくん?」
とMENとぼんさんとドズルさんが駆け寄る。
スクロールが止まった。
理由もない。
ただ、指が止まった。
画面には、
見覚えのない写真。
いや、
“見覚えがある気がする”写真。
震える手で開く。
一瞬、呼吸が止まる。
そこには、
かつて公園で撮ったはずの
“5人での最後の写真”があった。
きれいに並んだ4人。
その中央に
おんりーがはっきりと写っていた。
ぼやけていない。
薄くもない。
むしろ他の4人よりもくっきりしている。
あの日よりも、
ずっと確かに、
存在として“そこにいる”。
夜の街灯を浴びて、
少し恥ずかしそうに笑っているおんりーが
そこにいた。
全員、息を呑む。
誰も名前は出せない。
声にすることはできない。
でも
胸の奥が激しく震えた。
懐かしい。
苦しいほど懐かしい。
会いたい。
その気持ちだけが
理由もなく溢れてくる。
おらふくんは震えながら呟いた。
「……この人……
誰なの……
でも……なんでだろ……
見てるだけで……涙が……」
ぽたり、と涙が写真に落ちる。
ぼんさんも声を震わせる。
「なん、で……
なんで……
会ったこと……ある気するのに……
名前が……出てこねぇ……」
MENも顔を歪める。
「俺……この人……
守りたかった気がする……
なんでだろ……
なんで忘れたんだろ……」
ドズルは
写真から目を離せないまま
ぽつりと言った。
「……いたんだよ…きっと…
僕らの……隣に……
ずっと、いたんだ……」
その声は、
痛みと温かさが入り混じった
震える音だった。
声が震えて止まらなかった。
涙がぽろぽろと落ちる。
でも
ただひとつだけ分かった。
この人は、
自分たちにとって特別な誰かだった。
理由なんて分からない。
けれど
写真を見ているだけで、
心が震えるほど懐かしい。
写真の端には
スマホの書き込み機能で
ただ一行だけ書かれていた。
「俺の、大切な仲間へ」
誰が書いたかなんてわからない。
でも
4人の胸に、
全く同じ感情が灯った。
「……この文字、
この“気配”……
誰か……大切な…!」
おらふくんは手で口を抑える。
「忘れてるのに……
なんで……
こんなに……嬉しいんだ、悲しいんだよ…」
四人の胸の奥が
温かくなる。
名前も、声も、姿も思い出せない。
でも
忘れてしまっても心には残っている大切な思い出であることは明らかだった。
みんながおらふくんのスマホを覗き込んで浸っている時、
おおはらMENのスマホ画面に
ふと小さな通知が表示された。
《失名症候群:逆型
患者は消失前、
“世界にひとつだけ証を残す”ことがある。
それは再会のためでも、
思い出のためでもなく、
ただ——
“愛した人が前を向けるように”
残される灯である。》
誰もこの通知に気づかなかった。
涙を拭き終わり、全員が前を向いた時にはもう
その通知は消えていた。
全員が思い出せない大切な思い出を胸に響かせて——
以上で終わりです
よければ、ハートコメント
よろしくお願いします
途中で違う物語書いてしまいごめんなさい
リクエストもお待ちしております
それでは、また
コメント
7件

初コメ失礼します……! 普段、どれだけ感動する小説を読んでも泣いたりしないのに、めちゃくちゃ泣きました…… ほんとにすごい……他の小説も読ませていただいたんですけど、マジで尊敬しかないです…! これからも活動頑張ってください!!陰ながら応援しています……!! (長文失礼しました。)
泣きました、、 おんりー、、
たぶん初コメです、、! わりと前から見てたんですけど、やっぱりすごすぎます、、、!! 涙が止まらない、、(( 本当に尊敬してます! これからも頑張ってください!応援してます!!