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鷹槻れん

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鷹槻れん

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#強引
#シークレットベビー
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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『第三十二話 旅立ち』
──
合格発表から数日後。
駅前のイタリアンに、千夏たちは集まっていた。
千夏の受験が終わるまで、みんなが待っていてくれた高校卒業の打ち上げパーティだった。
テーブルの上には料理が並び、飲み物のグラスが何度も行き交う。
「亜土さん、合格おめでとう!」
「大阪行ったら絶対連絡してよ!」
「夏休みとか帰ってくる?」
「ユニバ行くときは連絡するからね!」
千夏を真ん中にクラスメイトたちの笑い声が起こる。
文化祭で繋がった、いつもの仲間。
けれど、全員揃うのが今日で最後なのだと思うと、少しだけ胸が切なくなった。
卒業したのだと、初めて実感が湧いた。
みんな、それぞれの道へ進んでいく。
そして、千夏も。
──
店を出ると、夜の街は少し冷えていた。
「じゃあね、亜土さん!」
「うん。またね」
「大阪行っても元気でね!」
「みんなもね」
一人、また一人と友達が帰っていく。
最後まで黙って残っていた路木が、千夏と結衣の前に立った。
「……本当に行くんだね」
「うん」
「大阪って遠い?」
「うん、ちょっとね」
路木はしばらく黙った。
そして、少しだけ顔を背ける。
「……なんか、変な感じだね」
「何が?」
「あんたが大阪で先生になるとか」
「まだ先生になったわけじゃないよ」
「……うざいんだよ」
「?」
路木は小さく息を吐いた。
目元が少し赤い。
「いつまで、こんなとこにいるんだよ」
「……路木さん」
「早く大阪行って先生になればいいじゃん!」
声が震えていた。
千夏は目を丸くして、それから笑った。
「ありがとう」
「夢なんだろ?……絶対なれよ」
「うん。頑張るよ」
路木は顔を背けた。
「……じゃあね」
「またね、路木さん」
振り返らずに歩いていく路木の背中を、二人はしばらく見送っていた。
「路木っち、千夏と会えなくなるの寂しいんだよ」
「……」
『あんたみたいになりたい』
受験の決意に背中を押してくれた路木の言葉が心にじんわりと蘇った。
──
そして、四月も間近な東京駅。
東海道新幹線のホーム。
「忘れ物ない?」
母が何度目か分からない確認をする。
「大丈夫」
「明日、引越しの荷物が届いたらすぐに開くのよ?」
「大丈夫だって」
「向こうに着いたら連絡するのよ」
「分かってる」
結衣たちも来てくれていた。
「うわぁん!千夏が……千夏が行っちゃうぅ!」
「結衣さん、泣かないでよ」
「だって……友達になって一年も経ってないのに……」
結衣が千夏に抱きつく。
「寂しいんだもん……」
「私だって寂しいよ」
「じゃあ大阪行かないでっ!」
「それは無理」
「そこは即答かよっ!」
二人で笑った。
アカネと珠子も結衣の肩を掴んで。
「私たちにも別れを言わせてよ!」
「結衣だけずるいよ!」
「やだ!千夏は私のっ!」
千夏は困ったように笑いながら、みんなを順番に見た。
「本当にありがとう」
その言葉だけは、ちゃんと伝えたかった。
でも、一番伝えたかった人の姿はない。
その人は今頃、群馬で仕事を頑張っているはずだ。
──
やがて、ホームに新幹線が入ってくる。
大きな音を立てながら、ゆっくりと停車する。
「じゃあ……」
千夏は荷物を持ち上げた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
「絶対連絡してよ!」
「頑張れ、千夏!」
みんなの声を背に、千夏は新幹線へ乗り込んだ。
指定された窓際の席に座る。
窓の外には、手を振る母と結衣たち。
千夏も笑って手を振り返した。
やがて、列車が動き始める。
ゆっくり。
ゆっくりと。
ホームの景色が後ろへ流れていく。
──そのときだった。
人の少なくなったホームの端。
一瞬だけ。
窓越しに見覚えのある姿が見えた。
「……!」
千夏は思わず立ち上がりかけた。
そこにいたのは、悠真だった。
群馬にいるはずの人。
今は東京にはいないはずの人。
けれど確かに、そこにいた。
悠真もこちらを見ていた。
列車が加速していく。
距離が離れていく。
言葉を交わすことはできない。
手を振ることもできなかった。
ただ、ほんの一瞬。
二人の目が合った。
そして新幹線は、二人の間を通り過ぎるようにして、東京駅を離れていった。
──
窓の外の景色が、どんどん変わっていく。
見慣れた東京の街なみが、少しずつ遠ざかっていく。
私は今、大阪へ向かっている。
一人で。
思えば、あの人は大きなことをしてくれたわけじゃない。
一緒に笑って。
時々叱って。
困ったときには話を聞いてくれた。
そして──
何もかもに絶望した時──
『泣いていいよ』
『また、立ち上がれるなら』
あの言葉が、今も胸の中にある。
最後に歩き出したのは、私自身だった。
それだけは、分かっている。
さっき、一瞬だけ目が合った。
それだけだった。
それだけで十分だった。
だって、こんなに嬉しかったから。
切なかったから。
ちゃんと自分の気持ちに気づけたから。
「私、やっぱりお兄様に恋してた」
お兄様は、ずっとずっと私の中にいた。
きっと、この気持ちはこれからも消えない。
でも、それでいい。
この気持ちを抱えたまま、私は前へ進める。
いつか教師になったとき。
今日のことを思い出す日が来るかもしれない。
あの人に出会えてよかったと。
そう思える日が、きっと来る。
だから──
今は、さようなら。
そして。
ありがとう。
お兄様に出会えた青春が幸せです。
──
新幹線が見えなくなったホームに、悠真は一人で立っていた。
早朝に群馬から駆けつけてでも、どうしても見ておきたかった。
思春期の彼女の旅立ちを。
見送りの輪の中に入るつもりはなかった。
母親や友達に囲まれている千夏ちゃんを見られれば、それで十分だった。
それに、
俺はもう、あの子のそばにいる必要はない。
千夏ちゃんには、千夏ちゃんの人生がある。
そして俺は、群馬で新しい生活を始めている。
これから先、どれくらい会えないのかは分からない。
もしかしたら、もう会えないかもしれない。
それでも、きっと大丈夫だ。
あの子はもう、一人で歩ける。
俺がしてあげたことなんて、ほんの小さなきっかけだったのかもしれない。
それだけだ。
夢も決意も全部、千夏ちゃん自身が選んだことだ。
だから、もう俺が心配することじゃない。
新幹線が走り去った方向を、しばらく見つめる。
さっき、窓越しに、目が合った。
ほんの一瞬だった。
声を掛けることもできなかったけど、あの子は笑っていた。
俺も、少しだけ笑った。
それで十分だった。
ただの妹代わり。
ずっと、そう思っていた。
だけど……。
いつか、また会いたい。
今度会うときは、どんな顔をして会えばいいんだろう?
それぞれの場所で、それぞれの人生を。
これから、始めよう。
──春。
新しい季節が、二人の前に広がっていた。
──第一部 完
コメント
4件
ついに完結ですね、あっという間でした。 千夏さんの悩みが、私にも通ずるところがあって共感しながら読んでいました。 悠真さんの「泣いていいよ」という台詞が一番好きです。 最後の一瞬だけ目が合うシーン、感動しました。でも切ないです……。 これからも、千夏さんや悠真さんのこと、応援しています☺️ありがとうございました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 一応、第一部完とさせていただきました。第二部以降は全く未定ですが、私自身また、あの二人に会いたいと思っています。 色々と書きたいこともあるのですが、あとがきで書かせていただきます。もう少しお待ちください。 それと、気が向いたら番外編など書けたらいいな、なんて思っています。
うわあ〜〜〜〜っ😭💕✨ 第三十二話、めちゃくちゃ沁みた…!!! 路木っちの「うざいんだよ」からの「早く大阪行って先生になればいいじゃん!」、あれ全部さよならの言い換えだよね…💔 結衣の泣きわめきも可愛すぎて笑ったけど千夏が「それは無理」「そこは即答かよっ!」で笑わせてくるバランス良すぎる😂 そして最後の悠真…!群馬から駆けつけたんでしょ、もうね…「ただの妹代わり」って自分に言い聞かせてるけど絶対違うし「いつか、また会いたい」で全部バレてるよお兄様〜〜〜!!😭💕 青春がぎゅっと詰まった最終回(?)みたいな区切り、本当に良かったです…! 宇津Qさんの紡ぐ空気感、大好きです🌸