湖が完成したところで、その日は第一の拠点へ引き返した。
「魔獣は夜になると獰猛性を増すのよ」
とセーラが言うし、どちらにせよ農業地は一日では建設できないからな。
一度休息して、明日また作業しに行くことにしたのである。
ドンドンドン……!
で、それは砦に帰ってすぐのことだった。
西の門を誰かが叩く音がするので、俺とセーラは顔を見合わせた。
「あら? お客さんかしら」
「みたいだな」
砦の東門は領地側、西門は外側を向いている。
つまり、西門をたたくのは領地の外からの来客でしかありえなかった。
「それにしても、こんな辺境に来客とはな……」
「気をつけてシェイド。盗賊かもしれないわ」
と言うので、俺たちは城壁の上へ登り、そーっと西門の外を伺うことにした。
すると、そこには10名ほどの男女が頬コケた面相で立ち尽くしていた。
大人が8人。
子供が4人。
「ずいぶんとボロボロな連中だな」
「そうね」
油断はならないが、少なくとも強盗という感じはなかった。
「おーい! どうしたんだ?」
そこで俺は潜むのを止めて、さしあたって壁の上から声をかけてみる。
彼らは俺に気づき、先頭の主らしきヒゲの男が言った。
「はっ、あなたは? この砦の城主様ですか?」
「ああ。俺が一応、ここより先『バイローム地方』の領主だからな」
「な、なんと!」
「領主様でございますか!」
「ははー!」
領主というワードに彼らはざわめき、門の前で平服する。
「そ、そんなかしこまらなくてもいいよ(汗) それより、なんでこんな辺境に足を向けてくれたんだ?」
「はっ。失礼いたしました。実は、私ども一家は帝都での暮らしが立たなくなってしまい、職を得るため地方から地方へ家族ぐるみで旅をしておりまして……」
「そっか……そりゃ大変だったね」
「いいえ。しかしこのご時世どこも不景気で、どの地方もよそ者の我々に仕事を与えてくれはしません。子供たちにももう3日飯を食わせてやれておらず、絶望して街道を行っておりますと森の向こうに何やら巨大な建造物が見えまして……ほら、あれです」
と、ボロボロの男は【経験値自動回収タワー】を指さした。
「へー。あれ、そんな遠くから見えたのか?」
「それはもう!」
「びっくりしました!」
後ろの若い男女がそう騒ぐ。
一家の主らしき男はヒゲからコホンと咳払いをして続けた。
「もちろんバイローム地方は未開の地だとは存じておりましたが、あのような高層の建築を行う開発主様があらわれたのなら仕事があるのではと思いまして……」
思ったんだけどさ。
彼、けっこう優秀じゃね?
受け答えもはっきりしているし、目の付け所も悪くない。
そんな男が一家を食わしていかれないのである。
モノはあっても回らない。
それが経済的にすら凋落している旧・リーネ帝国の現実なのだ。
「仕事は……」
俺は胸の締め付けられるような思いがして、門の下へ向かってこう号した。
「……仕事はある! ここには山ほどな!」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。とにかく入りなよ。門を開けるから」
こうして俺は、西門から彼らを招き入れたのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!