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名 を 教 え て 。

1 - 第1話

2023年10月30日

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あれは 、少し暖かく心地のいい日のこと 。

私は入学初日に寝坊してしまった 。

『 なんで今日に限って寝坊なんか … 』

と 、独り言を呟いて 学校に向かう 。


キーンコーンカーンコーン


チャイムと同時に席に着く 。

髪は寝癖が着いたままで 、毛先がはねて 、 まるで トイプードルのようだった 。

私は初日から最悪な状態で登校してしまったのだ 。

笑い声 が聞こえる 。

私は恥ずかしくて 何もすることができず 、 ただただ下を向いているだけだった 。


「 寝坊したの? 」


隣から聞こえてきた 。

大人っぽい 、 透き通った綺麗な声 。


『 恥ずかしいから見ないで 』

顔が赤くなっているのは自分でもわかる 。すごく暑い 。


今は誰とも話したくなかった 。

楽しみにしていた高校生活も 今は 、今だけは忘れたかった 。


教室を飛び出し 、誰もいない空き教室に入る 。

胸ポケットには 櫛 ( くし ) と 鏡 が入ってある 。

生憎 寝癖直しがない 。 それがあれば寝癖も直せるのに 。

私の寝癖は手強くて 水なんかじゃ直らない 。


『 あぁ 、 どうしよう … 』


「 持ってるよ 、 寝癖直し 」

『 え 』


えぇぇ?!、とびっくりする私 。

ここは誰もいない空き教室 … だったはず 。


『 なんでいるの … 』

「 だって 、ひとりでブツブツ言ってるの廊下まで聞こえてきたから 」


彼は笑いながらそう言った 。


『 … 寝癖直し 貸してもらってもいいですか 、 』


同学年とはいえ 、ものを貸してもらう立場だ 。

私は彼と目を合わせ 、真剣に伝えた 。

目が大きく 、睫毛が長い 。


「 そんなに畏まらなくても 貸すよ 。 」


とても優しい顔で彼は言う 。


授業が始まるまであと 5分 といったところだ 。

私は5分で寝癖を直さなければならなかった 。


『 ありがとう 』


そういって 鏡を前に置き 、 櫛 を 出して 彼に貸してもらった寝癖直し を 使って 私の髪の寝癖を直していく 。


『 本当に助かった 、 ありがとう 』

「 どういたしまして 」


まもなくチャイムがなる 。

早く教室に戻らなければ 2人とも怒られてしまう 。

私は彼と廊下を走った 。

教室まであと少し 、 急がなければ 。


キーンコーンカーンコーン


ギリギリ 教室に入り 、 先生が来る前に 席に着けた 。

彼とは席が隣だから 、危なかったね なんて話をしながら 先生が来るのを待つ 。


彼の名前は知らない 。

相手も 私の名前を知らない 。

そこから始まる私の青春 。

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