コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あれは 、少し暖かく心地のいい日のこと 。
私は入学初日に寝坊してしまった 。
『 なんで今日に限って寝坊なんか … 』
と 、独り言を呟いて 学校に向かう 。
キーンコーンカーンコーン
チャイムと同時に席に着く 。
髪は寝癖が着いたままで 、毛先がはねて 、 まるで トイプードルのようだった 。
私は初日から最悪な状態で登校してしまったのだ 。
笑い声 が聞こえる 。
私は恥ずかしくて 何もすることができず 、 ただただ下を向いているだけだった 。
「 寝坊したの? 」
隣から聞こえてきた 。
大人っぽい 、 透き通った綺麗な声 。
『 恥ずかしいから見ないで 』
顔が赤くなっているのは自分でもわかる 。すごく暑い 。
今は誰とも話したくなかった 。
楽しみにしていた高校生活も 今は 、今だけは忘れたかった 。
教室を飛び出し 、誰もいない空き教室に入る 。
胸ポケットには 櫛 ( くし ) と 鏡 が入ってある 。
生憎 寝癖直しがない 。 それがあれば寝癖も直せるのに 。
私の寝癖は手強くて 水なんかじゃ直らない 。
『 あぁ 、 どうしよう … 』
「 持ってるよ 、 寝癖直し 」
『 え 』
えぇぇ?!、とびっくりする私 。
ここは誰もいない空き教室 … だったはず 。
『 なんでいるの … 』
「 だって 、ひとりでブツブツ言ってるの廊下まで聞こえてきたから 」
彼は笑いながらそう言った 。
『 … 寝癖直し 貸してもらってもいいですか 、 』
同学年とはいえ 、ものを貸してもらう立場だ 。
私は彼と目を合わせ 、真剣に伝えた 。
目が大きく 、睫毛が長い 。
「 そんなに畏まらなくても 貸すよ 。 」
とても優しい顔で彼は言う 。
授業が始まるまであと 5分 といったところだ 。
私は5分で寝癖を直さなければならなかった 。
『 ありがとう 』
そういって 鏡を前に置き 、 櫛 を 出して 彼に貸してもらった寝癖直し を 使って 私の髪の寝癖を直していく 。
『 本当に助かった 、 ありがとう 』
「 どういたしまして 」
まもなくチャイムがなる 。
早く教室に戻らなければ 2人とも怒られてしまう 。
私は彼と廊下を走った 。
教室まであと少し 、 急がなければ 。
キーンコーンカーンコーン
ギリギリ 教室に入り 、 先生が来る前に 席に着けた 。
彼とは席が隣だから 、危なかったね なんて話をしながら 先生が来るのを待つ 。
彼の名前は知らない 。
相手も 私の名前を知らない 。
そこから始まる私の青春 。