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第二十九章 選ばされた、夢のつづき
居心地のいい匂い。
あったかくて、安心する。
扉を隔てた廊下では、就業を終えたスタッフが行き交う足音が聞こえた。食堂からは、美味しそうなカレーの匂いが漂っている。
……まだ大丈夫だ。
そう思った。右手に抱えていた筈のうさちゃんがいない。
目を開けると夕陽に赤く染まった雪うさぎが、出窓の上にちょこんと置かれ、寂しそうに見えた。
腕を伸ばす。
届かない。
身体を起こしかけた、その瞬間――
後ろから、引き戻される。
翔太💙「やめろよ……れん」
亮平💚「いつから名前で呼ぶほど親しくなった?」
翔太💙「ンンンッ」
噛み付くように唇が重なる。ねっとりと啄むように離れていた亮平の視線は色っぽくてドキッと胸が鳴った。
亮平💚「……そんな顔するんだ」
指先で、唇をなぞられる。
逃げるように視線を逸らした。
翔太💙「……れん、は?」
亮平💚「仕事」
短く返される。
翔太💙「……そう」
どこか、落ちる声。
亮平は、少しだけ目を細めた。
亮平💚「寂しい?」
翔太💙「……別に」
即答。
でも、少しだけ間があった。
亮平💚「ふーん」
軽く笑う。
亮平💚「じゃあさ」
ベッドの端に腰掛けたまま、顔を覗き込む。
亮平💚「たまには外、行かない?」
翔太💙「……外?」
亮平💚「病院のご飯も悪くないけどさ」
亮平💚「気分変わるよ」
一瞬、迷う。
窓の外の夕焼け。なんだか綺麗すぎて現実味がなかった。
翔太💙「……でも」
亮平💚「なに」
翔太💙「……お金、そんなに――」
言い切る前に、額を軽く弾かれた。
コツン。
亮平💚「バカ」
少しだけ、笑う。
でも、目は笑ってない。
亮平💚「可愛い子に金出させるほど、俺落ちぶれてないよ」
翔太💙「……かわいくない」
亮平💚「はいはい」
流すように言いながら、立ち上がる。
亮平💚「準備できる?」
翔太は、少しだけ躊躇って、それでも頷いた。
翔太💙「……すぐ戻る?」
亮平💚「さあね」
亮平💚「帰りたくなければ、帰らなくてもいいけど」
翔太の顔を覗き込む亮平は、 冗談みたいに言う。
意地悪く笑って、 頬に触れる。
ぽん、と軽く弾いた。
亮平💚「いい子だから早く着替えな」
翔太💙「うん」
夕暮れ時、行き交う人の群れはどこか忙しく、家路を急ぐ足取りは軽やかに見えた。
なんだか、寂しさが込み上げてきて、
胸がきゅっと締まる。
視線が、落ちた。
ショルダーバッグからゆらゆらと揺れる、雪うさぎのキーホルダーを握りしめた。
亮平💚「ほらこっち」
不意に掴まれた手。
人目を憚らず繋いだ手は温かく、自然と離れたキーホルダーが、再び翔太の歩くリズムに合わせてゆらゆらと揺れた。
亮平💚「電柱にぶつかっちゃうぞ」
翔太💙「ふふっ……そこまでドジじゃない」
亮平💚「やっと笑った」
……あれ、
俺、笑ってる。
亮平💚「笑った顔は百倍可愛い」
そんなことを言われ、翔太はますます下を俯くことになった。
亮平💚「これじゃ離せないね」
ギュッと握られた手。
胸がドキドキと音を立てる。
苦しい。
カラコロと鳴るドアベル。
夕陽に漏れるステンドグラスの影。
見覚えのある喫茶店――
「あら、珍しいね亮平君が誰かを連れてくるなんて」
亮平💚「デートなの。個室空いてる?」
――デート?
亮平は嬉しそうに、翔太にウインクして見せる。
一気に顔に熱が集まったのが分かると、翔太はまた俯いた。
亮平💚「また?そんなに手繋ぎたいの?」
翔太💙「いい加減揶揄うのやめてください」
〝可愛いんだもん〟
そう言いながらも翔太の手を引いて奥へと進んだ。
翔太💙「ここ個室あるんですね」
亮平💚「来たことあるの?」
翔太💙「……はい」
声が、
少しだけ震えた。
喫茶店に個室だなんて――
そう思いながら亮平の肩越しに部屋を覗く。
白と黒が基調の部屋に薄明かりのランプが一つ、テーブルに置かれている。二人掛けのソファと一人掛けが二つ。
翔太💙「素敵……夢、みたい」
亮平💚「翔太はロマンチストだね?」
首を傾げる翔太を他所に、スマートに席へと案内する亮平。
促されソファへと座った。
亮平💚「で、誰と来たの?」
個室に二人きり。
並んで座る。
翔太💙「向かいの席が空いてます……」
亮平💚「翔太……不正解」
そう言って顎を掬うと、貪るようにキスをした。
亮平💚「質問にだけ答えな……分かった?」
翔太💙「……はい」
〝可愛いから許しちゃう〟
屈託なく笑う。
……だめだ。
この笑顔が好きだと思った。
亮平💚「で?だれ、れん?」
翔太💙「ら……ラウ子さんです。あと、ラウ男さんに、ラウール先輩」
〝ふぅーん〟と言いながら、顎に手を置き何やら考え込む亮平。
注文もしていないのに、
前菜が運ばれてきた。
翔太💙「あのぅ……」
亮平💚「あっここね、夜はフレンチなんだよ」
初めての経験に翔太は身動ぐ。
亮平は〝自由でいいよ個室だし〟と言って気遣ってくれていたのだと分かると、なんだか胸がほっこりと温かい。
亮平💚「明日休みでしょ?少しだけお酒飲みましょ」
追われることのない時間がゆっくりと過ぎていく。
他愛もない話で盛り上がりいつの間にか翔太は自然と笑っていた。
お酒のせいか、少し、ふわふわする。
でも、嫌じゃない。
亮平💚「それで……ラウ家とどんな話したのかな?」
……どんな?
あの日はラウ子さんに誘われて朝ごはんを食べに来たら、なぜか2人も居て……。
翔太💙「朝ごはん一緒に食べただけです」
亮平💚「ふぅーん――それだけ?」
翔太💙「それだ……ちょっせんせっ?ンッ」
亮平💚「ちゃんと答えなさい?メインディシュ――翔太になっちゃうよ」
笑ってるのに笑ってない。
再び顎を掴まれ、唇が重なる。
無理やり捩じ込むように入ってきた舌が歯列をなぞった。
翔太💙「ンンっ……ほんとだよ」
ゴツゴツとした細い指。
シャツの隙間から入ってきた。
亮平💚「カラダは口ほどに物を言う……翔太の体に聞いてみよう」
翔太💙「やっ……はあっンンンッ。目!目だよ」
亮平💚「ふふっどっちでもいいでしょ」
シャツを勢いよく捲ると、白磁の肌に吸い付いた。
鎖骨に、首筋。赤く色付いていく。
翔太💙「教授戦!ンンンッ……」
翔太💙「……はあっ。その話してた。それ以外は知らない」
亮平💚「……良い子ね」
ふっと、力が抜け離れていく。
さっきまでの手が、するりと離れた。
亮平💚「やめとく?」
軽く言う。何事もなかったみたいに。
亮平💚「無理させるつもりないし」
グラスに指をかける。
さっきまでとは違う声。
何事もなかったみたいに、食事が続く。
口元のソースを拭われる。
そのまま、食べさせられる。
亮平は、楽しそうに笑っていた。
翔太の視線は、どこか焦点が合わない。
それでも、楽しかった。
最後に運ばれてきたデザートに、歓喜の声を上げた翔太。
〝俺のもあげる〟と言って2人分のプレートに目を輝かせた翔太を亮平は頬杖を付きながらうっとり眺めた。
スマホが震えメッセージの文字に手が震えた。
スマホの画面。
業務連絡:ユキちゃん出社依頼
同伴 明日19:00 常連のお得意様です。粗相のないように。
亮平💚「さっ帰ろうか」
翔太💙「……」
楽しい時間はあっという間だった。
視線が、逸れる。
でも、席は立たない。
亮平💚「ちゃんと選びなよ」
静かに、グラスを傾ける。
柔らかく、微笑んだまま。
――ただ、待っている。
翔太💙「……帰らない」
翔太💙「せんせ……帰りたくない――」
思わず掴んだ亮平の手。
あったかい。
優しく握り返され、恥ずかしくなって視線が、逸れる。
でも、
手は離せなかった。
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アマエッティも好き。 手は大丈夫?無理しないで🥺今、向こう側読み返してる幸せほんとに好き。
とうとうストックゼロ😅💦 明日はお休みかも〜😭💙 週末はアマエッティをupします