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瞳を伏せて呟く彼女の表情は本当に儚げで、見ているこっちが切なくなるほどだった。

雛瀬さんが言う「彼女」がどんな人かも知らない。詮索するべきではないと思った。

「そりゃ私も、最初は気持ちを閉じ込めようと思ったわ。これは気のせいだって。だけど…あの子を知れば知るほど、気持ちが大きくなって…頭より先に心が叫んじゃうのよ。この子が大好きだってね。」

胸に手を押し当て、俯く。そこにあった姿は、さっきまで余裕を見せていた彼女とは別人だった。

「とうとう誤魔化しきれなくなった時…私は離婚を選んだわ。私にはこの人を愛せない。この人の為にも…別れようって。」

想像以上の暗い過去に、驚きを隠せなかった。

「雛瀬さんは…その、女性とは今は…」

ようやく出てきた言葉は聞かない方がいいのかもしれない問いかけだった。

しかし彼女は、答えてくれた。

「今も会っているわ。彼女がそっち側の人間ではないと知っているし、それでも側にいたいからね。」

寂しそうな笑顔に胸が痛む。ただの腹黒い女の人だと思っていたのに、まさかそんな想いを抱えて生きていたなんて。

かける言葉が見つからなかった。

中途半端な慰めは気休めでしかないことを知っていたから。

雛瀬さんは、暗くなった空気を察したのか、いつものような笑顔に戻って立ち上がった。

「ごめんなさいね、暗くなっちゃって。同情してほしかったわけじゃないの。ただ、あなたに伝えたくて。」

「…何を…?」

「恋は、理屈じゃないの。どんなに否定したって、いつか誤魔化しきれないくらい気持ちが大きくなる日がくるわ。その時、素直に認めた方が、案外楽になれるわよ。」

先ほどの過去を聞いたからだろうか。妙に説得力がある。

きっと私の店長に対する気持ちを言っているのだろう。

今はしっくりこないけど、いつか分かる時がくるのだろうか。

「じゃ、私休憩終わるからもう行くわね。引き留めてごめんなさい。お疲れさま。」

彼女は静かに立ち上がり、私の返事も待たずに出ていく。

あとには静寂が部屋に訪れた。

「…恋は理屈じゃない…か。」

彼女の言葉をゆっくりと噛み締める。やはりこんな時も店長の存在が浮かんでは消えていく。

何かに気づき始めているような予感がした。

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