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俺たちは朝食を済ませると、歯みがきや食器洗いをした。
その後、二人っきりの部屋で横になった。
「……なあ、ミノリ」
「ん? なあに?」
「一つ訊いてもいいか?」
「ええ、いいわよ。ただし、あたしが認識できる声量で言いなさい。いいわね?」
なんでそんなに上から目線なんだ? まあ、いいか。
「それじゃあ訊くけど、お前はいつまで同じ服を着てるつもりなんだ?」
そう、ミノリはうちに来てから一度も着替えていないし、風呂にも入っていない。そして、なにより。
「というか、なんで俺の胴体をベッドの代わりにしてるんだ?」
ミノリは俺が質問する前から……つまり俺が仰向けで横になった時から、俺の胸の上で横になっていた。しかも、うつ伏せで……。
こちらを先に訊くべきだったと俺は後悔したが……ミノリが服ではなく、そちらを優先してくれたため、助かった。
「そんなのあたしがナオトの上で寝たいからに決まってるじゃない。他に理由がいる?」
どうやらこいつは、人を疑うことを知らないらしい。
一応、俺も男なんだから、もう少し警戒してほしいものだが、口調や態度は偉そうでも彼女はまだ幼い。
そういうことに興味がなくてもおかしくはない。
「ミノリ、お前はもうちょっと人との付き合い方を勉強したほうがいいと思うぞ? 特に男性との接し方について」
俺がそう言うと、彼女はこう言った。
「え? あたしはあんた以外の男なんかなんとも思ってないから大丈夫よ。それとも、なに? 他の人に取られるのが、そんなに嫌なの? なあんだ、なんだかんだ言って、あんたはあたしのことが大好きなのね」
俺がバカだった……。俺が見ている景色とミノリが見ている景色がまったく同じではないということに気づかないなんて……。
まあ、この話は一旦中断して、最初の質問の続きをするか。
「あー、それはもういいから、とりあえず着替えてくれ。あと、できれば風呂にも入ってくれ。頼むから」
「あー、その必要はないわよ。あたしたちがお風呂に入ったところで落とす汚れなんてないから……。それに、お風呂に入っただけで死んじゃう子だっているのよ? 噂だけど……」
「え……?」
俺はミノリの言ったことを自分の中でもう一度確認した。
あたしたち、という複数形を表す言葉と落とす汚れなんてない、という言葉が頭の中で何度も再生される。
しかし、俺の頬をミノリが人差し指でつついてきたため、俺はそれらについて深く考えるのをやめた。
「なあ、ミノリ。お前はいったい何者なんだ?」
俺がそう訊ねると、ミノリは少し悩んでいた。
しかし、彼女はゆっくりと口を開いた。
「まあ、いつかは話さないといけないことだから、しょうがないわよね……。あーあ、できれば、もう少し平和な生活を送りたかったなー……」
「す、すまない。もう少しの間、何も訊かないつもりだったんだけど、さっきの話が気になって、つい……」
そこまで言うとミノリが俺のくちびるに人差し指を押し当てた。
もうそれ以上、言わないで……と言わんばかりに。ミノリが話を続ける。
「こんな命令がなければ、あんたと出会うことすらなかったと思うから、そこはあいつらに感謝ね。悔しいけど……」
「……なんの話だ?」
「こっちの話よ。じゃあ、何から聞きたい?」
俺は少しだけ考えた。でも、やっぱり一番気になるのは……。
「俺は……お前の正体が知りたい」
やはりそのことだった。
俺がそう言うとミノリはどこからともなく透明な水晶を取り出し、俺に近づけた。
「こ、これは?」
「これは、あたしたちがここに来る前に体内に入れられるものよ。これには、色んな機能があるんだけど基本的には、あっちとこっちの世界の情報収集ね」
「なるほど……って、お前はこの世界の人間じゃないのか?」
「あら、気づいてなかったの? まあ、それも今から説明するわ」
「あ、ああ、よろしく頼む」
その後、ミノリは自分やこの世界にやってきた経緯などについて語り始めた。
「まず、あたしはこっちの世界の人間じゃないし、ましてや人間でもないわ」
「どういうことだ?」
「うーん、まあ、こことは違う世界からやってきた元人間……と言ったところかしら」
「な、なるほど……」
「コホン……。えー、その世界の人間たちはかなり強力なモンスターの遺伝子を幼い少女たちに注射して、あたしたちを生み出した……。その名も『モンスターチルドレン』」
「……モンスター……チルドレン……」
怪物のような子どもたち……って意味かな?
「……あたしたちの使命はこの世界の人間たちと地球を救うことなんだけど、さすがに前例の無い試みだったから、かなりの死者が出たわ」
「それって、モンスターチルドレンになれなかったやつらは全員死ぬってことか?」
「……これはあくまでも噂なんだけど、全身が真っ黒になって自我を失ったり、モンスターチルドレンの気配を感じると動き出したりするそうよ」
「なんだよ、それ。まるでゾンビじゃないか」
「でも、そうしないといけなかったのよ。だって、近い将来、この星は終わりを迎えるのだから……」
「なんだって! それはどういう意味だ!」
「そのままの意味よ。少子化の影響で人間がいなくなった後、どうしてかは分からないけど地球という星は跡形もなく消え去るの。そうなると、あたしたちの世界にも影響が出るかもしれないから、あたしたちはそれを防ぐためにやってきた、いわば救世主ってことよ。……とまあ、ここまで説明したけど何か質問はある?」
質問と言われてもな……。この時の俺はミノリが説明した内容のほとんどを理解できていなかった。
いや、理解したくなかった。だけど、ここまで聞いておいて、今さら俺には関係ないとは言えない。
現に今もミノリのような幼い子どもたちが、俺たちの未来のために頑張ってくれているかもしれないのだから……。
なら、俺は目を背けるべきじゃない。俺に今できることはなんだ?
それは、彼女たちと共にこの世界を救うことだ。
そのためには彼女たちのことを全て知る必要がある。
「ミノリ、お前が知っていることを全部、俺に教えてくれ!」
俺がそう言うと、ミノリは俺の頭にチョップした。
「まあ、少し落ち着きなさい。急がば回れって言うでしょう? それにあたしも自分のことはよく分からないのよ。覚えているのは、育成所にいた時のことと、この水晶に触れている間はどんな機密情報も簡単に分かってしまうことと、あんたと過ごしたここ数日の記憶だけ……。あたしが誰の子でどこで生まれたのかもよく分からないけど、これから世界を救う旅に出ることで少しずつ自分のことを思い出せるかもしれない……。だから、ナオト。あたしと一緒に来てくれる?」
俺は今まで誰かに頼りにされたことなどなかった。そして、これからもきっとそれが続くと思っていた……。
しかし、たった今、その定義は無くなった。
その直後、俺は彼女について行きたい! と心の底から、そう思った。
「よし、分かった! 例え、どんな地獄が待ち構えていようと俺はどこまでもお前について行ってやるよ! だから、一緒に世界を救おう!!」
マンガの主人公っぽいことを口走ってしまったが、まったく気にならなかった。
「うん! あんたならそう言うと思ったわ! じゃあ早速、出発の準備をしましょう。できれば、一週間後には、ここを出たいから、なるべく急いでね! よおし! そうと決まったら今から荷造りよ!」
「了解した! だけど、バイトはどうしたらいいんだ?」
「そんなのしばらくの間、旅行に行くから行けませんとか適当に言っておけばいいのよ」
「なるほど……よし! それじゃあ早速バイト先に連絡しよう」
俺がバイト先に連絡している間、ミノリはメイド服(?)に着替えていた。
その服は黒と白で構成されており、可愛らしいフリルがところどころ付いていた。これが有名なゴスロリ衣装というやつだろうか?
そんな事を考えているうちにバイト先の人とのやりとりが終わった。
すると、ミノリがいきなり大声をあげた。
「ナオト! あたしたちで世界を救うわよ!」
「お、おおー!」
あまりにも突然のことだったので俺はミノリのテンションに合わせられなかったが、そんなこんなで俺とミノリは荷造りを始めた。
今回はミノリのことを少しだけ知ることができた。これから、少しずつ知っていけたらいいなと思う。
さて、荷造り、荷造りっと。来週がこんなにも待ち遠しいと思ったのは生まれて初めてだった……。