テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ACT.3:声の裏
物語は再び、春に戻る。
まだあの傷も、怒りもなかった頃。
モリスケとシュンは同じクラスで、いつもつるんでいた。だが、イケニシは別のクラス。リアルではそこまで親しくなかったものの、共通の趣味を通じてDiscord上で繋がるようになった。
それでも、シュンは何度も現実の場での交流を試みた。
「カラオケ行かへん?」「ゲーセンでも行こうぜ」
気軽に、けれど本気で。
シュンは何度もイケニシを遊びに誘った。
だが、イケニシの返答はいつも同じだった。
「金払ってくれるなら、考えるけど?」
まるで、友情が対価を必要とする取引かのように。
その瞬間、シュンの中の何かが冷えた。
そして、モリスケの中でも何かが確かに崩れた。
「救いようがない」
そう、心の中で呟いた。
自分が“乞う者”に肩入れしようとしていたことを、深く恥じた。
イケニシにとって、人付き合いとは等価交換だった。
感情ではなく、見返り。絆ではなく、コスパ。
そんな彼の過去も、やがて断片的に明らかになっていく。
中学生の頃、彼は道端に捨ててあったパソコンを拾い、データ復元して遊んでいたという噂があった。中に入っていた写真や書類を覗いていたと、本人もどこか誇らしげに語っていた。
それを聞いたとき、モリスケはゾッとした。
「なんで、そんなことを平気で話せるんだ……?」
他人の記憶に土足で踏み入ることが、彼にとって、悦なようだ。
それは到底僕らには理解し難いものだった。